Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第345号(2014.12.20発行)

第345号(2014.12.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆いよいよエルニーニョ的な様相が強くなってきた赤道域太平洋の中央部で、海面水温が高くなっている。これが大気や海洋の循環に影響を与えて、各地に異常気象を起こし始めたようだ。米国北東部の豪雪、カリフォルニア沿岸部における豪雨などである。わが国でも文字通り「大雪」の節気に日本海側で大雪になった。西太平洋フィリピン海では、十数年にわたって暖かい海水が蓄積した効果で、12月になっても台風の成長に歯止めが効かない。この冬も異常気象や極端現象のニュースが続きそうである。
◆11月末に、アジアの縁辺海に関する会合でケソン市のフィリピン大学と浙江省舟山市の浙江海洋学院を立て続けに訪問した。前者は国際科学会議(ICSU)が主導する「未来の地球(Future Earth)」計画に呼応して、海の健康を守り、未来世代に伝える「南、東アジア縁辺海の持続可能性イニシャチブ(SIMSEA)」計画の立ち上げに関するものであり、後者は東京財団と中国社会科学院日本研究所による二国間の「東シナ海問題研究会」である。
◆困難な問題に直面していても、二日間にわたる専門家同士の真摯な議論は境界のない海を共有する人々の将来にとても希望を抱かせるものであった。特に後者の会議に参加された坂元茂樹同志社大学教授による「建設的曖昧さ」の叡智に学ぼうという提案は、物事の境界、すなわちフロンティアの揺らぎから新しい概念が生まれる科学の世界にも通じるところがあり、感銘を受けた。国境を越えて人間の安全保障を確立する視点に立つならば、危機は未来への機会にもなる。
◆今号は東京湾再生官民連携フォーラムの活動、なかでも東京湾大感謝祭の成功について木村 尚氏に紹介していただいた。官の人々と様々な活動に従事する民の人々が既存の枠組みを超えて、東京湾再生という明確な目標を共有し協働することで、大きな輪が生まれた好例がここにある。江戸前とは本来は深川の小名木川で大量にとれた鰻を指すらしい。多摩川に鮎が戻ったように、この本来の江戸前を復活させることは夢ではないのかもしれない。
◆群馬県立万場高校の中島賢二氏には海なし県の水産教育について栃木県立馬頭高校に次ぐ第二弾の執筆をお願いした。県水産試験場、地元漁協、地元中学校や他県の高校との活発な連携は若い高校生にとって魅力的な実践教育になっているだけでなく、環境教育のよき例にもなっている。これを契機に水産教育全国ネットワークが生まれると素晴らしい。
◆最後のオピニオンも水産に関するものである。山本 徹氏に水産流通プラットフォームと新たなビジネスモデルを生み出す水産ハッカソン(Hackathon)について紹介していただいた。ITを活用して、多様で新鮮な水産物を生産者から消費者に直接送り届ける水産物流通プラットフォームが全国ネットで充実するならば、水産物業界には革命的なことである。今後の展開に注目したい。(山形)

第345号(2014.12.20発行)のその他の記事

ページトップ