Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第345号(2014.12.20発行)

第345号(2014.12.20 発行)

東京湾大感謝祭で見えてきた官民連携による東京湾再生

[KEYWORDS]内湾/市民参加/再生行動計画
東京湾再生官民連携フォーラム東京湾大感謝祭プロジェクトチーム長◆木村 尚

「東京湾の恵みを再生するのであれば、まずはその恵み感謝することから始めたらどうか」という素朴な思いからスタートした東京湾大感謝祭。その第2回目が2014年10月25~26日に、横浜の赤レンガパークで開催された。
東京湾の現状、フォーラムによる官民連携の構築、東京湾大感謝祭の成果などを紹介する。

待ったなしの東京湾の現状

近年、東京湾の水質が良くなってきていると言われている。これは、下水道の整備などによる陸域からの流入負荷の削減、海底にたまったヘドロの浚渫など行政の努力のおかげで、窒素やリン等の濃度が漸減傾向にあることも確かめられている。また、新たに造成された海浜や浅場(例えば、横浜市の金沢八景海の公園、東京都の葛西臨海公園、千葉県の船橋海浜公園等)や残された干潟(多摩川河口、盤洲干潟等)では、多くの生物が生息している。
ただし、こうした生き物の生息場は限られており、全体として漁獲量は激減しており、「赤い魚、青い魚が減り、今は黒い魚ばかり※1」と称される。水質で見れば、東京湾奥では赤潮が年間100日以上記録され、貧酸素水塊が5月から10月まで海底付近に広がり、大規模な魚の大量へい死を引き起こす青潮も年数回程度発生している。東京湾に住んでいる生き物たちの「毎日が地獄です」という声が聞こえるようである。なにより、東京湾岸に住む人々の多くが「東京湾は臭い・汚い」「東京湾で取れた魚は食べられない」といった先入観を持ち、海から意識が遠ざかっていることが問題である。

東京湾再生官民連携フォーラムの発足

■フォーラムPT長らによる座談会風景、左端の黒子が著者

そうした東京湾の再生を推進するために、東京湾再生推進会議※2は、2003年に「東京湾再生のための行動計画」を策定し、10年計画で海域での対策、陸域での対策、モニタリングを官主導で推進してきた。成果は上がったものの、民への活動の広がりなどが課題となった。2013年にスタートした第2期の行動計画では、第1期の反省を踏まえ、多様な主体が連携して問題の解決に向けた提案や提言を行うフォーラムの設置が提案された。
これを受けて、同年11月に「東京湾再生官民連携フォーラム(以後フォーラムと称する)」が発足した※3。そのメンバーには、官側である東京湾再生推進会議メンバーの他、企業、漁業、歴史文化、市民活動などの多様な民の関係者を含み、特定の問題にはプロジェクトチーム(PT)を編成して審議する体制が構築された。現在、7つのPTが活動しており、「東京湾再生に意欲を持つ多様な人々が有するあらゆる英知を結集し、連携や協働を行うこと、また、それらの活動を通して生み出される東京湾再生に向けた総意をとりまとめ、東京湾再生推進会議へ提言すること等の役割を担うことを期待されている。」(フォーラムWebサイト参照)。

東京湾大感謝祭

その中で、東京湾大感謝祭PTは「東京湾の恵みを再生するのであれば、まずはその恵み感謝することから始めたらどうか」という素朴な思いからスタートしたPTである。官民連携という固いイメージを払拭するとっつき易さに多くの賛同者を得て、フォーラムの設置総会を兼ねた第1回東京湾大感謝祭を2013(平成25)年11月に東京にて開催した。トークショーや、東京湾を見て味わう出店などが企画され、約1,200名が参加する盛会となり、東京湾の再生に向けた官民連携のひとつが具体的に動き出した記念すべきイベントとなった。

2014年の大感謝祭で動き出したこと

■東京湾大感謝祭ポスター

■広場の出店前を歩く、東京湾アマモ場再生のシンボル、アマモン

第2回目の東京湾大感謝祭では、開催地を横浜に移し、日程も2日間に拡大し実施した。2回目ということもあり、民の方々が大胆かつ柔軟に、しかもフットワーク良く、献身的なボランティアとして主体的に動いて、多様なイベントが実施された。2日間の総来場者数は82,000人であり、予想外の出来事でまったく驚きである。
フォーラム総会では、指標PTからの東京湾再生の推し量る指標に関する提言がまとめられ、フォーラムの本来の役割である東京湾再生推進会議への提言といった活動にも進展が見られたほか、東京湾パブリック・アクセス方策検討PTや、東京湾での海水浴復活の方策検討PTなどが新たに設置され、より市民よりの視点での東京湾の再生に向けた取り組み体制が充実してきた。
室内のホールでは、各種体験型展示や自治体による展示やワークショップ、ミニシンポなどが開催されるとともに、野外のメインステージでは、セレモニーや各種パフォーマンス、ゆるキャラ潤・Nイズ大会、歌と踊りでゲリラ的に会場を練り歩く「なんじゃらもじゃら」の出現など、お祭り的な賑やかさも少しずつ増えてきた。メインステージに面する広場では、企業を中心に充実した展示の他、東京湾の多様な海の幸「江戸前」を目で舌で実感してもらおうと、ホンビノス貝の試食や、江戸前弁当などを提供するテントが並び、来場者が江戸前を堪能した。体験型メニューとして、東京湾岸を普段見られない海から見てもらおうと、実行委員長でありヨット雑誌『KAZI』編集長の田久保雅己氏の尽力で実現した東京湾クルーズや、東京湾を皆で楽しく使うため、防波堤での釣りマナー教室も兼ねたハゼ釣り教室やキャスティング教室なども、釣り関係の実行委員の努力で実施された。それぞれの得意分野を活かした充実の企画が実施され、参加者に新しく楽しい東京湾をアピールできたという手ごたえがあった。
TV番組『THE!鉄腕!ダッシュ!!』の『DASH海岸』の高視聴率や、今回の来場者数を見ても、海の環境に対する潜在的な関心の高さが伺える。海の魅力、課題、それに向けた取り組み、みんなで行動すべきことを、もっともっと伝え、共に活動できる機会を増やしていく必要がある。大感謝祭の内容の充実だけでなく、自ら動く人たちを集め、有機的かつ拡大的に動くようなきっかけを作り出していくことが東京湾大感謝祭PTの今後の使命と考えている。
東京湾大感謝祭は、2015年も10月最終週に横浜赤レンガパークで開催する。出展やスポンサーとしての支援も含め、ご協力いただければと考えている。そうした活動を継続することで「流域人口3,000万人総出の東京湾再生」を目指したい。(了)

※1 赤い魚:タイ・メバルなどの根魚、青い魚:アジ・サバなどの回遊魚、黒い魚:ボラ・スズキなど水質悪化に強い魚

第345号(2014.12.20発行)のその他の記事

ページトップ