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オーシャンニューズレター

第344号(2014.12.05発行)

第344号(2014.12.05 発行)

日本固有の領土と発信力

[KEYWORDS]主権/国際法/国家戦略
海洋政策研究財団島嶼資料センター長◆髙井 晉

日本は、平和的な国際関係を維持するために、国際法を遵守してきた。
韓国や中国は、総合的な国家戦略に基づいて、領有に関する国際法を無視する形で竹島や尖閣諸島の領有を主張している。これら島嶼の問題は、単なる国際法上の領有権の争いではなく、両国の国家戦略の一部として組み込まれている。
竹島と尖閣諸島の問題は、極めて重要な主権の問題であることから、日本は国家戦略に基づいた発信力の強化が求められている。

日本固有の領土と国際法

国際法は、ヨーロッパキリスト教国に共通するルールにその端を発し、30年戦争後のウエストファリア条約(1648年)以降、主権国家間の共通ルールとして今日に至っている。日本は、明治維新を契機として近代国民国家の建設を目指し、当時の世界強国の共通法であった国際法を受容した。明治維新後の日本は、諸外国と締結した条約を遵守し、不平等な条約であっても、時間をかけて交渉し相手国との合意の下にこれを改正してきた。
日本は、国際法を基本に国際社会との関係を維持し、主権国家としての地位を確立してきたのであった。領土や主権に関わる問題は極めて国際的であり外交問題に発展しやすい傾向にあるため、日本は、この問題を国際法上の瑕疵がないよう慎重に取り扱ってきた。外国に対して日本領土であることを主張するためには、国際法上の領有権原を有していることが必要だったからである。今日問題となっている尖閣諸島および竹島については、日本が、尖閣については1895年、竹島は1905年に閣議決定したのは、当時自国領土であることを確信していたが、国民から開発申請があったことにより、改めて国際法に基づく措置を採ったのであった。

竹島と尖閣諸島

■韓国警備艇から日本漁船を保護する巡視船
(海上保安レポート2006年)

韓国は、第2次世界大戦の敗戦国となった日本の意表を衝き、突如、竹島は古くから独島と呼ばれていた韓国領土であると主張してきた。これに対して日本は、竹島の領有主張は国際法上の根拠がないと反論し、外交交渉で問題解決を図るよう申し入れたが、韓国は武力によって竹島を奪取し現在に至っている。日韓漁業協議会の調べでは、1965年に日韓基本条約と漁業協定が締結されるまでの間、竹島周辺海域で328隻の日本漁船が拿捕され、3,929人の漁船員が抑留され、44人の死傷者が生じた。
中国は、日本が国際法に基づいて領有権原を取得して以来、75年間も尖閣諸島に対する領有権を主張してこなかったにもかかわらず、東シナ海海底に大量の石油埋蔵の可能性があると知るやいなや、突如、尖閣諸島は歴史的に中国固有の領土であると主張してきた。中国の領有主張は古い漢籍の記述を根拠としており、これは国際法上の領有権原と程遠いものであった。それにもかかわらず中国は、尖閣諸島を国内法で自国領土と規定した上で、周辺の海域を自国の接続海域と領海であると主張し、日本の外交ルートを通じた抗議を無視して、政府公船による国内法執行活動を実施し今日に至っている。

韓国と中国の発信力

■中国政府公船を監視警戒する巡視船
(海上保安レポート2013)

韓国は、竹島の領有権問題を歴史認識の問題と絡めて内外に発信している。韓国政府は、2006年に慰安婦、歴史教科書、靖国参拝、日本海名称変更等の問題を取り扱う「東北アジア歴史財団」を設立して、海外におけるセミナー開催や日本人を含む外国人の研究者の支援を行ってきた。2008年には同財団に竹島問題の研究と発信に特化した「独島研究所」、および児童、生徒、観光客向けの「竹島体験館」を併設し、多額の政府予算を投じて国の内外への発信力を強化している。
中国は、共産党の一党独裁国家であり、尖閣諸島の領有権主張を人民日報やCCTV等の政府メディアを通じて、政府自ら内外へ強力な発信を続けている。中国の経済発展は共産党の正統性を担保する重要な政策であり、東シナ海と南シナ海の経済資源や自由行動の確保は、政府の核心的な政策課題でもある。中国は、かつては尖閣諸島周辺の海底に石油埋蔵の可能性が報告されるや間髪を入れず同諸島の領有権を主張し、今日では東シナ海と南シナ海を「中国の海」にするために近海防御戦略(A2/AD:接近阻止・領域拒否)を遂行している。尖閣諸島の問題は、中国の長期的な国家戦略と密接不可分の関係にあるといえよう。


■中国公船等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域および領海侵入隻数(月別)

日本の発信力の課題

聖徳太子が604年に制定したとされる十七条憲法の第1条は、「以和為貴。無忤為宗。」と規定する。これは、「和を何よりも大切なものとし、諍いをおこさないことを根本としなさい」と解されてきた。また、「至誠通天」という成句がある。この成句は、「真心をもって事に当たればいつか必ず相手に理解される」と解釈され、十七条憲法第1条の規定とともに、多くの日本人の琴線に触れる言葉として実生活の面で行動の原理とされてきた。
現行憲法前文は「...平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して...」と規定する。竹島や尖閣諸島の問題について、日本は、風俗習慣や価値観が異なる韓国や中国に対しても、誠意を尽くせばおのずから相手国が理解し、解決に向けての努力を行うとの思い込みはなかっただろうか。しかし韓国と中国は、これとは裏腹に、この問題を国家戦略に基づく長期的かつ総合的に取り扱ってきたのである。
これまで日本国固有の領土の問題に関わる資料収集と発信は、もっぱら外務省が担当してきたが、韓国や中国のそれと比較してかなり控えめであったといえよう。海洋政策研究財団の島嶼資料センター(http://islandstudies.oprf-info.org/jp/)、島根県の竹島資料室および沖縄県の尖閣諸島文献資料編纂会は、それぞれ資料を発掘し国の内外への発信を続けているが、これらはあくまで国の機関ではないため、発信力は限られている。島嶼の領有権問題はきわめて主権的な課題であることから、国家戦略との関連で総合的に取り扱うことが求められていた。
安倍内閣誕生とともに領土・主権にかかわる発信の重要性が謳われ、内閣官房に領土・主権対策企画調整室が設置された昨年(2013年)から領土・主権に関する啓発活動が開始され、本年度は、情報収集と発信等に必要な事業として国の予算化が実現した。
竹島および尖閣諸島は、国際法で確立されている日本固有の領土であるということを、国家戦略に基づいて強力に発信されていくことを期待したい。(了)

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