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オーシャンニューズレター

第342号(2014.11.05発行)

第342号(2014.11.05 発行)

国際環太平洋海洋教育者ネットワーク会議 IPMEN2014JAPANでの気づき

[KEYWORDS]海洋教育者/ネットワーク/震災復興
東京海洋大学准教授◆佐々木 剛

この夏、東京と岩手にて国際環太平洋海洋教育者ネットワーク会議が開催された。世界8カ国の海洋教育者20名が出席した本会議では、東日本大震災からの復興を願い4つのテーマを掲げられ、沿岸における災害からの復興に果たす海洋教育の意義と貢献についての話し合いがもたれた。
海洋教育の国際的なネットワークをさらに強固にし、持続的な地球環境の利用、保全に貢献したいと考えている。

国際環太平洋海洋教育者ネットワーク会議の目的

7月11日~16日東京と岩手にて国際環太平洋海洋教育者ネットワーク会議を開催した。このネットワーク会議には、海外からアメリカ合衆国、メキシコ、ニュージーランド、オーストラリア、タイ、インドネシア、ベルギー、スウェーデンの世界8カ国の海洋教育者20名が集まった。本会議は、環太平洋のすべての人々が、国際的な海洋教育ネットワークによって海洋や海洋と人との関わりに関心を持ち、海洋に対する認識や理解を深め、責任ある創造的な決定や行動をとること、そして海洋を健全な状態に保ち海洋の価値を高めることをミッションに掲げている。
これまでの会議は、第1回はハワイ、第2回はオーストラリア、第3回はフィジー、第4回はチリで開催された。そして第5回目となる今年は日本(東京、岩手)を会場に開催された。
今回の会議では、3.11東日本大震災の一刻も早い復興を願い4つのテーマを掲げた。
(1)自然災害により打撃を受けた沿岸域振興に海洋教育はどう貢献できるか
(2)沿岸域において自然災害に備えるためにどのような海洋教育が必要なのか
(3)伝統的エコ知識と科学技術のバランスをはかるために海洋教育はどのような役割を果たすべきか
(4)食文化・伝統の理解を促進するために海洋教育はどう貢献すべきか

シンポジウムでの中高生の活躍

■早池峰山の麓にある「早池峰山荘」(於タイマグラ)

■国指定重要無形文化財黒森神楽「ヤマノカミ」の演舞(於浄土ヶ浜)

これらのテーマを受け、7月12日には国内外から128名が集まり東京海洋大学において国際海洋教育シンポジウムが開催された。岡本信明学長の歓迎挨拶の後、地元港区の中高生ならびに岩手県の中学生が水圏環境教育に関する教育実践活動を報告した。山脇学園中学高等学校のサイエンスクラブからは「東京ヘドロ浄化プロジェクト-鉄炭団子による底質環境改善-」、港区港南中学校からは「品川の運河に関する研究」、久慈市立三崎中学校、久慈中学校からは「地球全体で考える! ビデオ『カメ次郎死す~犯人はキミだ!』を通して学ぶ、日常生活のなかで取り組む環境保全活動」を発表していただき、生徒の高度な取り組みに対して海外の海洋教育者から高い評価を受けた。
その後、神田穣太教授より本学練習船による福島沖の放射能モニタリングの研究結果の紹介が行われた。午後から4つのテーマに合わせて各国の海洋教育研究者から12件の研究発表があり、各国の実践活動を報告頂いた。フロリダ大学シーグラントに所属するマイク・スプランガー教授から、ハリケーンカトリーナ、原油流出事故を事例として、災害がいつ起きても対処できるよう、地元住民を対象とした注意喚起・教育活動を継続的に実施する事が被害を低減するだけでなく災害復興にも多いに役に立ったことが紹介された。
7月13日には、日本百名山の一つである早池峰山へと向かった。早池峰山は北上山系の最高峰であり、古くから三陸沿岸漁民の信仰の対象となる山である。参加者は早池峰山麓にある早池峰山荘に一泊し、同山荘を運営する地元NPO法人かわい元気社の職員から温かい歓迎を受け、郷土料理作り、源流釣り体験、トレッキング等を体験し親交を深めた。交流会では、津波震災時に山荘周辺の人々によって支援物資が直ちに送り届けられたこと、山荘を避難所とし被災者のケアに努めたことなどを伺った。
14日は、岩手県立水産科学館において宮古市副市長 山口公正氏、館長 伊藤隆司氏の歓迎を受け、環境省自然保護官 桜庭佑輔氏から三陸復興公園の概要、三陸ジオパーク推進室事務局次長 下向武文氏より三陸ジオパークの概要、宮古市教育委員会 高橋憲太郎氏より国指定崎山貝塚の概要の説明を受けた。
そのあと、宮古市教育委員会、岩手マリンフィールドの協力のもとヨット、カヤック、海釣り等海洋体験活動を通したイマージョン教育を高浜小学校6年生16名とともに楽しんだ。
夕刻には、国の名勝である浄土ヶ浜を訪問し、国指定重要無形文化財の伝統芸能「黒森神楽」を浄土ヶ浜レストハウス前の浜辺にて鑑賞した。今回のテーマにふさわしい「ヤマノカミ」と「恵比寿舞」が披露されリズミカルなテンポにあわせた軽快な踊りに拍手を送った。参加者は岩手の森川海の自然とそこに暮らす人々が長い間形成した文化・歴史の奥深さに感動していた様子であった。

IPMENでの気づきを共有

岩手の被災地訪問を終えて、すべての参加者から今大会は今までに経験したことのない特別な体験であり、今回のネットワーク会議は生涯忘れることができない思い出であると感想を頂いた。その理由は、閉伊川流域には森・川・海の自然の恵みを活かした生活があり、そこに住む人々の自然を大切に思いやる心、その心の現れとして見事な郷土芸能や食文化に深い歴史の意味を感じ取ったからであった。オーストラリアの参加者は次のように語った。「日本人は生活しながら自然を大切にしている。豊かな自然を上手く活用して生活している。人間が自然と共に生きることの価値をあらためて実感した」と。
身近な海や河川における体験の共有がお互いの理解を促進することにつながることをあらためて確認できた。また、異常気象や地震等は地球規模で発生し、台風、ハリケーン、津波等の被害は局所的に自然とともに生活する人々にのしかかる。世界の人々と体験を共有し心と心がつながることで、地球規模の災害をより身近なものとして捉えることができ、ひいては海洋を含めた水圏環境に対する認識、価値を高め、大切にしようとする行動が育まれる。その一翼を担うのが国際環太平洋海洋教育者ネットワーク会議である。海洋教育は広く世界中の人々と一緒に実施されるべきものなのである。
訪問先では数多くの方々にお世話になり会議は無事終了した。お世話になった皆様にこの場をお借りしてお礼を申し上げたい。海洋教育の国際的なネットワークをさらに強固にし、持続的な地球環境の利用、保全に貢献したいと考えている。次回は2年後にインドネシアのロンボク島で開催される予定である。(了)

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