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第33号(2001.12.20 発行)
第33号(2001.12.20 発行)

子孫に美田を残す

海上保安庁水路部 大陸棚調査室長◆谷 伸

国連海洋法条約では、200海里排他的経済水域を超えても地形地質的に陸と連続性が認められれば「大陸棚」として海底及び海底下の資源に関する権利を沿岸国に認める。本稿では、「大陸棚」に関する条約の規定、わが国における大陸棚と調査の状況、海底資源に関する展望について概括する。

1994年に発効した国連海洋法条約で規定された「大陸棚」では、地形地質的に陸との連続性が認められれば排他的経済水域の外側でも海底資源に関する主権的権利が認められる。本稿では、条約の規定、わが国における大陸棚と調査の状況、海底資源に関する展望について概括する。それにしても、武力に依らず科学の力で主権範囲を広げる時代を、われわれの先輩、帝国海軍水路部は夢想だにし得ただろうか。

1.大陸棚とは

広く遮るもののない海も、主権の適用の面から見ると幾つかに区切られている。すなわち内水、領海、接続水域、排他的経済水域、大陸棚、国際海峡、公海等で、これらは国連海洋法条約(わが国では平成8年の第一回「海の日」に発効)に規定されている。海図に記載された低潮線(干潮の時の海岸線)や直線基線等を領海の基線として、内水は湾内や内海など基線の内側、領海は基線から12海里まで、排他的経済水域は基線から200海里までの海域とし、大陸棚については、原則として基線から200海里までであるが、条約が自国について発効してから10年以内に国連大陸棚限界委員会に科学的技術的資料を提出して大陸縁辺部であることを証明すれば最大350海里まで延長できるとしている。大陸棚においては探査及び天然資源開発について排他的な主権的権利を行使できる。ここでの天然資源とは、海底及び海底下の鉱物及び定着性生物をいい、石油やマンガン団塊だけでなくカニや貝なども大陸棚の資源になる。大陸棚は、堆積岩の厚さが大陸斜面脚部からの距離の1%以上ある海域または大陸斜面脚部から60海里先まで延長でき、限界は基線から350海里または2500m等深線から100海里までである(図1参照)。

図1-1
図1-1

2.わが国における大陸棚調査の現状

図1-2
図1-2

同条約採択の翌年の昭和58年から、海上保安庁水路部は条約の規定に基づき大陸棚を延伸するため新たに建造した大型測量船「拓洋」を投入して、わが国周辺海域について地形、地質に加え地磁気、重力など総合的な調査を開始した。その時点では「発効後10年以内」の提出期限がいつになるかは不明であったが、タイムリミットがいずれ問題になるのは明らかであったため、大陸棚延長の可能性が高い海域から順次調査を開始した。調査開始当時、本邦南方海域の大半が、おもり付きのワイヤーを船上から一点一点降ろして測得した水深データしかなく、あいまいな海底地形しか知られていなかったが(図2左参照)、現在までの18年間で本邦南方海域の概査はほぼ終了し、200以上の海山が見つかるなど詳細な地形が明らかになり(図2右参照)、わが国の国土面積の約2倍程度の海域について大陸棚を延長できる可能性があることが判明している(図3参照)。また調査結果の解析から、本邦南方海域の海底は約3000万年前頃に突然左右に拡大してできたもので、開き始めた部分はすでに本邦の下に飲み込まれていることが明らかになった。

さて、調査の進捗に伴い、大陸棚延長の基点となる大陸斜面脚部が一義的に定まらないことが明らかになったため、国連大陸棚限界委員会は新たに科学的技術的ガイドラインを設けるとともに、「発効後10年」の起算日をガイドライン制定日である平成11年5月13日に変更した。ガイドラインは海底の成因を科学的に説明することを求めており、地形・地質のほか地磁気、重力などを総合的に調査してきた、わが国の方針は適切なものであった。

図2 大東諸島周辺海底地形図
図2 大東諸島周辺海底地形図
図3

3.子孫に残る美田

海底に賦存する鉱物資源(海洋情報研究センターのホームページ<www.mirc.jha.or.jp>参照)は、海底に関する科学知識の進歩に伴い増加し、海洋法制定当時はマンガン団塊が、最近ではメタンハイドレートが注目を浴びている。われわれの調査でも随所でマンガン団塊やコバルトリッチクラストを発見しており、また、小笠原諸島付近の海山では極めて金の含有量が高い鉱石を発見している。さて、このように詳細な海底地形データに加えて地質・地磁気・重力のデータまで得られている海域がこれほど広範囲に広がっているのは、世界でもここだけである。地球温暖化のメカニズム解明のために大量のデータが必要になるため、人工衛星によるリモートセンシングが行われている。この目的のために新たに開発される海底地形探査用のセンサーの正確さを確認するため、広範囲の精密な海底地形データが必要とされており、世界で唯一この条件を満たすわが国の大陸棚データが注目されている。

このように、海底資源のみならず、大陸棚の調査データそのものが、わが国のみならず人類の未来を委ねる宝であると言える。しかしながら、これらは国家主権に係るデータでもあり、大陸棚のデータをどのように管理していくべきかについての議論が必要であろう。この問題を含め、海洋に関する政策について機関・省庁の枠を越えて自由闊達に議論できる場が必要であるように思う。(了)

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