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オーシャンニューズレター

第337号(2014.08.20発行)

第337号(2014.08.20 発行)

情報コミュニケーション分野における「離島」

[KEYWORDS]離島/情報発信/離島経済新聞
特定非営利活動法人離島経済新聞社代表理事・編集長◆鯨本あつこ

離島経済新聞社は、離島になじみのない人にも島を知ってもらえるよう、分かりやすい切り口やビジュアルを通して、幅広い層に離島という存在を伝えている。
日本を理解するうえで、離島を知ることは非常に重要であり、情報コミュニケーションの分野から、離島にある本質的な魅力や課題、重要性を含めた意味で「離島」や「島」といった言葉を丁寧にブランディングしていきたいと考えている。

「島国」「海洋国家」を理解するうえで重要な「離島」の存在

■季刊『ritokei』(離島経済新聞社)

日本が「島国」であり「海洋国家」であることは、離島地域や沿岸部に暮らす人々にとってなじみ深い事実だろう。しかし、私のように山郷で育った人間にとって、「島国」や「海洋国家」は、実態が捉まえにくいものである。
編集者や広告ディレクターを生業に、ファッション誌、ビジネス誌、カルチャー誌などの制作に携わっていた私は、2010年に広島県の離島・大崎上島に移住する友人に出会ったことをきっかけに、クリエイター仲間の数名と離島経済新聞社※1を立ち上げた。 日々のリサーチや取材活動を通して、日本の島々にある人々の暮らしや経済や文化等の情報を集め、日本の有人離島情報を専門に扱う『離島経済新聞』というウェブマガジンと『季刊ritokei(リトケイ』というタブロイド紙を発行し、離島ファンなどの「島に興味のある人」、離島居住者や出身者などの「島に縁のある人」、興味はないが「たまたま情報にふれた人」に向けて離島情報を届けている。
この仕事を通して、私の頭は「離島」に慣れ親しんできたため、今では「島国」や「海洋国家」という言葉にもなじみがあり、海の出来事に興味関心がある。しかし、もとは大分県日田市という内陸盆地で生まれ育ち、海が遠かったため日本の広さはもちろん離島の存在も想像できていなかった。それゆえ離島経済新聞社をはじめた頃の私は、このテーマがこれほど奥深いものになるとは考えていなかったのだが、設立以来、深みにはまり続けているのは、日本という国を理解するうえで「離島」を知ることが非常に重要だと知ったからである。

「離島」は意外と知られていない

離島経済新聞社では、かつての私のように離島になじみのない人にも島を知ってもらえるよう、分かりやすい切り口やビジュアルを通して、幅広い層に離島という存在を伝えている。島を正しく捉えてもらうために、予め知っていてもらいたい基礎知識がある。日本には周囲100m以上の島が6,852島あり、平成22年度の国勢調査の調べでは北海道・本州・四国・九州・沖縄本島の本土5島をのぞく418島が有人離島であること。国土面積こそ世界61位の日本だが、海の面積(領海+排他的経済水域)は世界6位規模であること。島々にはそれぞれ多種多様な歴史や文化があるため、2つとして同じ個性がないことなどだ。しかし、インターネット、タブロイド紙、SNS(ソーシャルメディア)などから離島情報を発信しながら読者の反応を計っていくと、そもそも基礎知識はおろか「離島」という言葉自体が、それほど多くの人に認識されていないことに気がついた。
「離島」という言葉は、戦後に離島振興が叫ばれはじめて以来、定着した法律用語といわれている。そのため、418島の離島地域に暮らす人は、自らが暮らす島を「離島」とは呼ばず「島(しま)」と呼ぶことが多い。離島にしてみれば本土のほうが「離れている」ともいえ、自分自身を「離れている」と捉えていないこともある。極端な例では、離島振興法対象離島でもある島の方に「うちは離島じゃない」と言われたことがある。その言葉の裏側には、そもそも離島という言葉にネガティブなイメージが付いているようだった。
「離島」が認識されない理由のひとつは、情報の探しにくさにもある。インターネットが発達・定着して以来、欲しい情報はインターネットで検索する人が増えたため、パソコンや携帯電話に探したい言葉を打ち込み検索に引っかかる情報を知識として得ているのだが、仮に「大島」の情報を探そうとして大島で検索しても、 大島がつく有人離島は16島あるうえ、離島以外の地名や人名にも多い。なかなか探したい情報に行き当たらないのだ。また、人口の少ない島では、情報発信を行う人手も多くないため、まとまった情報が揃わず、検索に引っかからない。これだけ情報が氾濫した世の中にあっても、離島情報は欲しい人に届きにくい状態があったことから、離島経済新聞社は成立したのだが、4年目を迎えてもライバルが増えないことをみると、やはり離島情報の収集や発信の難しさがネックになっていることがうかがえる。

「離島」「島国」「海洋国家」をブランディングする必要性

青ヶ島。東京の南358km、八丈島から68kmの洋上、伊豆諸島最南端に位置する。

「離島」を認識すると日本の広さが理解できる。有人離島だけでも、北は礼文島、東は南鳥島、南は波照間島、西は与那国島。端から端まで3,000km近い広大なエリアから情報を集めるのは容易ではないが、離島経済新聞社の取材活動ではインターネットをフル活用しながら現地の方とコミュニケーションをとり、なんとかコストを抑えながら取材活動を進めている。
私たちは離島情報の収集や発信を通して、離島にある本質的な価値と課題は、この国が持つ価値と課題につながることを学び、日本の離島には都市部から消えかけている日本の古き良き営みも色濃く残っていることを知った。2060年には日本の総人口が8,000万人台に減少するというデータがあるが、少子高齢化や人口減少にともなう諸問題は30年前の離島ですでに語られていたことであり、全離島を探せば少人数コミュニティの生き残りをかけたモデルケースも多く見つかる。何事においても小さなことができないうちに、大きなことはできない。日本の離島にある事例のひとつひとつは、島国である日本の未来のヒントになるとも感じている。
「離島」「島国」「海洋国家」という言葉を、一般的な認識まで広げていくための活動はまだまだこれからである。広告や編集といった情報コミュニケーションの世界には、「ブランディング(ブランド化)」という言葉があり、たとえばある時に「山ガール」という言葉ができ社会的に認識されると「登山やトレッキングを楽しむ女性」というイメージがブランディングされたことになり、女性向けの登山グッズや登山ツアーという商材ができ市場ができる。「山ガール」のあとで「島旅を楽しむ女性」という意味で「島ガール」という言葉も登場しているが、離島そのものへの認識不十分があるため、山ガールほど一般的な認識には至っていない。
それならもっと派手にブランディングすべきとも考えられるが、派手な広告にのせてつくる一過性のブームになると、小規模地域を疲弊させる危険性も高いことから、離島経済新聞社としては離島を流行やブームにのせることなく、離島にある本質的な魅力や課題、重要性を含めた意味で「離島」や「島」といった言葉を丁寧にブランディングしていきたいと考えている。
「離島」を知ることを通して「島国」「海洋国家」を捉えることができる。この国に暮らす人々が離島を含めた日本の姿を捉えることができるように、情報コミュニケーションの分野から支えていきたい。(了)

※1 離島経済新聞社HP http://ritokei.com/

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