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オーシャンニューズレター

第337号(2014.08.20発行)

第337号(2014.08.20 発行)

内航用練習船・新「大成丸」就航~海をキャンパスに若人を育む~

[KEYWORDS]船員/内航/練習船
独立行政法人航海訓練所教育部企画研究課総括◆木村昭夫

練習船5隻を一元管理して、船舶乗組員の養成と船舶運航に係る研究業務を行う航海訓練所。内航船員養成の強化策として、業界から熱望されていた内航用練習船大成丸を2014年4月に就航させた。
内航船員の現状や内航用練習船の訓練内容について紹介する。

はじめに

■進水する四代目「大成丸」

2014(平成26)年4月1日、独立行政法人航海訓練所所属の練習船「大成丸」が就航した。昨年7月25日に行われた皇太子殿下御臨席の進水式から半年以上にわたる艤装を終えての就航である。
四代目となるこの新たな大成丸はこれまでの練習船と異なり、日本国内を航行する船舶(以下、内航)の乗組員を育成するために建造された。今回、内航船乗組員の育成に特化した練習船大成丸を就航させた経緯と概要を紹介したい。

内航海運と人材問題

島嶼国であるわが国において内航海運は、社会インフラの一部である。たとえば、産業基盤物資である鉄鋼、石油、セメントではトン数ベースで国内輸送の約80%の割合を占めており、内航海運は私たちの生活にきわめて重要な役割を果たしている。
しかしながら現在、内航海運を担っている船員の高齢化が問題視されている。50歳以上の船員が占める割合が50%を超えるなど高齢化が著しく、今後の船員不足が確実視されている。その弊害は、将来的な人材不足のみならず、船舶の安全運航に必要な状況判断や技術などのノウハウを若手人材に伝えることができない技術継承問題へと至っている。
この内航海運における船員の高齢化と人材不足への対応が喫緊の課題としてクローズアップされ、内航船員の養成部門を強化することが業界からも熱望されてきた。

問題の整理と新たな練習船の建造

2010(平成22)年4月、先代の大成丸が船齢35年を迎えるにあたり、新たな練習船建造の議論が開始された。練習船の建造にあたり、「大成丸代船建造調査委員会」(以下、委員会)を設置した。委員会では、内航船員教育および内航用練習船建造にかかる検討を行い、内航海運業界から求められている船員像を「船員としての資質が涵養され、船舶運航の基礎知識・技能を身につけ、単独で船舶運航業務を遂行できる」ものとまとめた。
さらに、より現場に即した教育を行うため、内航船における労働環境の問題点を整理した。内航船の特徴としては、船内の組織構成は少人数かつ年齢差が大きく、日々の業務は新人船員であっても単独で当直業務を行うなど幅広い業務を遂行しなければならない。また、船内環境も外航船と比較して、格段に船内が狭隘であり、振動・騒音が大きいといったことが挙げられた。
こうした内航船業界からの要望と実態を踏まえ新たな大成丸の建造とカリキュラム作りが行われた。

大成丸の特徴と新たなカリキュラム

新しい大成丸は、先代の大成丸と比較すると次のような特徴がある。
船体は総トン数3,990トンと先代の大成丸が総トン数5,886トンだったのに対してコンパクトとなっている。喫水(水面下の深さ)も総トン数1,000トンクラスの内航貨物船と同程度であり、国内の主要内航港湾での運用を可能にしている。主機関は先代の大成丸が蒸気タービン推進の練習船であったのに対して、低燃費、低公害な新型のディーゼル機関を搭載し環境への影響を考慮している。操舵装置はタグボートの支援を得ずとも円滑な離着岸が可能になっている。教室等訓練に必要な設備を効率的に配置し、機関室においても実習スペースを広くとり、多人数でも円滑な実習が可能である。
カリキュラムとしては、実践的・実務的な技能の習得に重点を置き、実習生の定員や班人数などの人的な側面、訓練海域や訓練方法などの訓練内容の見直しを行った。具体的には、船舶交通が輻輳し、かつ狭水道が存在する内航船の主たる航行海域(東京湾、伊勢湾、大阪湾、瀬戸内海(関門海峡を含む))および、それらの海域へ接続する海域を中心に訓練を計画している。訓練内容としては、航海士になるための航海系カリキュラムでは航海当直実習、出入港作業実習、バラスト操作実習、操船実習、甲板機器取扱実習を行う。一方、機関士になるための機関系カリキュラムでは主機関運転実習、補助機器運転実習、整備実習などが挙げられる。このような訓練を繰り返し実施することにより、実践的・実務的な技能の習得を図っている。

航海訓練所と今後のわが国における船員教育

■練習船「日本丸」と「海王丸」

独立行政法人航海訓練所は5隻の練習船(帆船の日本丸と海王丸、ディーゼル機関推進の大成丸、銀河丸、青雲丸)を運航し、商船に関する学部学科を置く教育機関の学生・生徒等に対し航海訓練を行っている。訓練では、船舶乗組員として必要な基本的な知識・技能に限らず、集団生活を通じた生活習慣、旺盛な精神力と体力、リーダーシップなどの社会人として必要な資質を育むことを目的としている。
1948(昭和23)年に設置されてから今日に至るまで、航海訓練所は約70年間にわたり外航および内航の船舶乗組員の養成、練習船運航、そして船員教育の研究に取り組んでいる。航海訓練所は独立行政法人海技教育機構との組織統合が決定しており、統合時期は平成26年度夏季に決定する。統合後の組織はわが国における船員養成機関の核となる。今後も、関係者のニーズや条約改正状況等の動向を的確にキャッチし、訓練内容への反映に努め、わが国のライフラインである海運を支える若者を海をキャンパスに育成していく。(了)

● 航海訓練所Facebookページ https://www.facebook.com/kohkun.go.jp、HP http://www.kohkun.go.jp

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