Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第32号(2001.12.05発行)

第32号(2001.12.05 発行)

琴引浜の鳴き砂を後世へ
~海岸を取り巻く環境について~

琴引浜の鳴り砂を守る会◆松尾省二

琴引浜では、貴重な鳴き砂を守るために、住民やボランティアによる清掃活動が積極的に行われている。浜の全面禁煙も決まり、違反者には制裁措置も盛り込まれた。しかし、清掃や啓発活動は人が行うにしても、実際に砂浜を洗浄するのは「命の水」をたたえる海洋であることを忘れてはならない。水の環境を守ることこそが、私たちに課せられた大きな課題である。

琴引浜に漂着する大量のプラスチック

琴引浜地元ボランティアの清掃作業
琴引浜では、地元ボランティアによって漂着したゴミの清掃作業が積極的に行われている

「鳴き砂を守ろう」をスローガンに私たちの活動は始まった。私たちが生まれる遙か昔から音を奏でた砂。この無機質な物体の奏でる音を後生に伝えるために、何をすればよいのか?何を言えば良いのか?まったくの手探りであった。「まず海岸のゴミを拾うこと」。これが、みんなで始めた第一歩だった。

子供の頃から、皆砂浜でよく遊んだ。琴引の浜で歩いたり走ったり、寝そべって砂を掻いたり。砂が「きゅっ!きゅっ!」と鳴るのは、当たり前のことだった。

鳴き砂の正体は石英(水晶)である。通常、岩が後背地から、川によって運ばれ、風化と粉砕研磨を繰り返して砂になる。しかし、石英は海水からも生成される。日本では「鳴き砂」であるが、中国では「鳴沙」である。「沙」の持つ文字の意味を考えるとどうも「沙」のほうが正しいように思う。鳴き砂は古くから書物などにも記載され、近代では与謝野晶子、鉄幹夫妻も訪れた際に歌を残している。そして現在、私たちの足下で変わらず唄を奏でる琴引浜が存在する。

海岸では多種多様な生物と遭遇することができる。多種の海浜植物、多くの微小貝や有孔虫、等は鳴き砂の浜に特有のものらしい。天然記念物や、絶滅危惧種になるとカンムリウミスズメやイソコモリグモ等があげられる。近年温暖化によるものなのか、コケムシなどもお目見えしている。

海流に寄って漂着するものも昔から多種あるのだが、近年、人の手から放れたプラスティック類が大半を占める様になってきている。すこし前なら、漁網やロープ等「漁師の道具」が大半であったろうに、現在、注射器や薬瓶、点滴バック等まで漂着するのだから恐ろしい世の中である。誰かが「海が病気だから」とでもいって海に医療行為でもしているのだろうか?琴引浜の場合、地理の特性上、漂着物の半分が国内産。残りの部分の大半を中国産と韓国産が占める。わずかな割合ではあるが、「環太平洋の海流に乗って」と思わせる物もある。これが、ミッドウエーやハワイ諸島になると半分は「madeinJapan」となってしまう。どうも海は「最終処分場」の様に勘違いしている輩が多いようで、困ったものである。

琴引浜は全面禁煙となったが、問題は共生への考えが定着するかどうか

厚生省では現在、海岸や河口での漂着物の定点調査を毎年実施している。調査はクリーンアップ事務局が使用している調査用紙を使用し、琴引浜にも地元保健所が調査に来られている。しかしながら、その調査団に「漂着物を問題視している目」「探す目」があるかどうか疑問である。海岸は昨今国民のふれあいの場として位置づけられ、重要視されているようだが、砂浜は訪れる皆が裸足になったり、あるいは裸で過ごす機会の多い場所である。当然、衛生面や危険物の排除には配慮されなければならないはずなのだが、小さな公園や学校の砂場のようにはいかないようである。

しかし、琴引浜も「若狭湾国定公園」の砂場であるし、「白砂青松100選」「日本の渚100選」「残したい音風景100選」などにも選出される「砂場」なのだ。自治体である「網野町」も天然記念物として「鳴き砂」をあげている。今年度、網野町は地方条例として、琴引浜を禁煙とする事を決めた。たき火や、花火、キャンプファイヤーも同様禁止である。違反者には制裁措置も盛り込まれている。「公園の砂場」と考えればごく当たり前のことではないだろうか。ただし清掃や啓発活動は人が行うにしても、実際に洗浄し、命のベットとして、メイキングしているのはすべて「命の水」をたたえる海洋のなす術であり、そうやすやすと私たち人間に真似できる規模の技ではない。「依存しなければいきてゆけない」が根底にあり、「負担軽減」がわれわれ人間の責務と考える時、はじめて「共生」の考えが実を結ぶのではないだろうか。

看板琴引浜
喫煙コーナー
この夏から全面禁煙となった琴引浜。海水浴客でにぎわう浜からかなり離れたところに喫煙コーナーが設けられている。

いつまでも「水に流して」いては、水の環境を守ることはできない

私たちは「琴引浜の鳴り砂」を守るという活動をしており、琴引浜のエリアの住民はほぼ全員が清掃活動はもちろん、後背地の植林や、イベントにも積極的に取り組んでいる。環境を守る行動と、町づくりがゆっくりではあるが着実に進行している。しかし、私たちはこのエリアだけを守りたいと考えているわけではない。環境のすべてと良い状態で付き合っていたいのだ。つまりそれは「水の環境」を守るということになる。

「水に返す」「水に流す」と言う言葉がある。本来これがリサイクルだったのだと思う。しかし、多くの自然分解しない強固な人工化学物質の登場でそうはいかなくなった。どう使い、どう再生し、どう捨てるのか。人間の知恵の見せ所である。便利さを捨て、一動物として生活するような話は極論で絵空事であるかもしれないが、工夫を凝らすことで、環境への負担を減らすことは、私たちに課せられた大きな課題である。

地球上に存在するすべての民は海洋と密接に繋がっていて、それは何処にいても決して切ることはできない。言い換えれば、何処にいても海洋を守る活動に参加できるし、ちょっとした配慮がおおきな鍵となり、大切な場所をより素敵にさせて行くのではないだろうか。現在不況のまっただ中で私たちも活動資金さえままならない状況ではあるが、活動を中止するわけにはいかない。地球の民のひとりとしてがんばらなくては......。なかなか難しいものだが自分が生きている間に汚す分くらいなんとか綺麗にしたいものである。(了)

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