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オーシャンニューズレター

第314号(2013.09.05発行)

第314号(2013.09.05 発行)

かながわの海岸清掃の仕組み~150キロの海岸を清掃して20年~

[KEYWORDS]自治体間連携/ボランティア参加支援/海岸清掃
(公財)かながわ海岸美化財団 ◆柱本健司

(公財)かながわ海岸美化財団は、海岸清掃を専門に行う日本で唯一の団体である。平成3年に神奈川県と相模湾沿岸の13市町が中心となり設立され、すでに20年以上、市民と企業、行政に支えられて活動を続けてきた。
また、活動を支える年間約15万人に及ぶビーチクリーンボランティアも欠かせない存在である。しかし、減らない海岸ごみと、減少する予算などの悩みは尽きない。これまでの長年の活動から見えてきた問題点をふまえ、今後進むべき具体的な取り組みについて述べたい。

神奈川県と沿岸13市町の海岸清掃の一元化による活動

1990(平成2)年に開催された、海の総合イベント『相模湾アーバンリゾートフェスティバル1990(通称「サーフ'90」)』において、自然環境の保全と良好な利用環境の創造を図るため、「海岸の散乱ごみへの総合的な対策の取り組み」の提言が示された。この提言を受け、それまで神奈川県や相模湾沿岸13市町(横須賀市・平塚市・鎌倉市・藤沢市・小田原市・茅ヶ崎市・逗子市・三浦市・葉山町・大磯町・二宮町・真鶴町・湯河原町)等によって個々に行われていた海岸清掃が一元化され、その活動の拠点として、行政が中心に企業や団体等の参画も得て、1991(平成3)年に財団法人かながわ海岸美化財団(以下、美化財団)が設立され、一昨年、美化財団は設立20周年を迎えた。
美化財団の事業は、図1のように、横須賀市走水海岸から湯河原町までの150kmの自然海岸、河口部、海岸砂防林など、行政区域を越えた一体的な清掃を行っており、以下に示す4つの事業からなっている。まず、(1)活動の中心である「海岸清掃事業」、(2)ビーチクリーンアップイベントの開催や学校・企業等の環境教育の受入れを行う「美化啓発事業」、(3)年間約15万人に及ぶビーチクリーンボランティアに対しごみ袋の提供・ごみの回収・清掃用具の貸出などの支援を行う「美化団体支援事業」、(4)海岸ごみ等の質や量等について調査や清掃機械の開発研究等を行う「調査研究事業」の4つで構成されている。
この4つの事業のうち、(2)「美化啓発事業」以下の3つの事業は、財団基本財産の運用益や企業・団体・個人から寄せられる会費、寄附金等を財源としている。一方、(1)「海岸清掃事業」はその全額を県と市町が負担し、具体的には、総額の半分を神奈川県が、その残りを13市町が分担して負担し、海岸ごみの回収を行っている。また、そのごみの焼却などにかかる処分費用は13市町が全額を負担する形である。このような仕組みがあり、美化財団はこれまで着実な活動を続けてくることができたわけである。

年間約15万人のビーチクリーンボランティアの受入れ体制

■清掃活動の様子(大磯町)。プラスチック系と自然系のごみが混合している。

そのような海岸の清掃の担い手は、美化財団だけではない。年間約15万人に及ぶビーチクリーンボランティアの力は非常に大きい。設立当初は、5万7,228人だったボランティアが、平成22年度には、約2.6倍の14万9,681人まで増加した。現在では、環境団体、マリンスポーツ団体、地元住民、学校、企業、宗教団体等、多種多様の団体が参加している。
ここまでボランティアが増加した背景には、ビーチクリーンをしたいと思い立ったら、いつでも気軽にできるボランティア活動の拠点としての仕組みがあることがあげられる。海岸清掃を実施したいボランティアは、まず、電話・メール・ホームページの専用フォームで財団に実施日時と場所等を連絡する。折り返し、財団から必要なごみ袋や軍手・清掃用具等が宅配便で送付され、ボランティアはそれらを利用して清掃を行う。
清掃で集めた海岸ごみは、財団の指定場所にまとめておけば、後で財団が回収し、清掃用具は、清掃後に、着払いで財団まで返送できる。清掃申込みに伴う、事前の登録や、実施後の報告等は一切なく、なるべくボランティアの負担や手間を軽減する仕組みになっている。
その上、ビーチクリーン初心者には、おすすめの海岸や受入れ中のボランティア団体を紹介するなど、きめ細かい対応をすることにより、このことへの関心を引き出し、実際に参加するにまでいたるよう、支援を続けてきたことも、参加者の増加要因の一つだと考えられる。また、こうしたボランティアに対して提供するごみ袋や軍手、清掃用具の購入は、すべて企業の協賛で賄われており、それら企業の存在や役割の重要性は言うまでもない。

20年間の活動から見えてきた課題(国の関わりと発生抑制)

■減少しない海岸ごみと減少する予算というジレンマがここにある。

設立から20年以上経過した現在、「ごみの量に変化なし」、「清掃費は減少」という2つの課題に直面している。図2のように、海藻を除いた、「可燃ごみ」と「不燃ごみ」の回収量は、年間約2,000トン前後で推移し、長らく有意な変化は見られない。一方、清掃費は、設立当初4億円台であったものが、平成22年度には、2億円を切るところまで減少してきている。こうした状況にあって、国の「緊急雇用創出事業」や「地域グリーンニューディール基金」のような時限的な財源を活用するなどの対応を行なってきたわけだが、こうした財源では継続性が確保できない。
海岸ごみは、河川を通じて県外や沿岸に面していない自治体から流入するばかりか、海流を通じて国外からも漂着する。このため、海岸漂着物等処理推進法などを踏まえ、国からも、継続的な財源措置が行われる必要があることは言うまでもない。その一方、美化財団のこれまでの調査からも、すでに、海岸ごみの約7割が川に由来していることが明らかになっている。つまり、ごみ量を減らすためには、沿岸周辺だけでなく、河川をさかのぼった地域への地道な訴えかけが不可欠であるといえる。このため美化財団では、河川上中流域の自治体や美化団体との交流の促進、連携した環境美化の取り組みのほか、学校との連携や出前授業の取り組みも続けてきた。
海岸美化活動では、「汚れたからキレイにする」という言わば事後対策に、これまで重点が置かれてきた。しかし、発生ごみ量が減らないこれまでの状況からも、今後は「汚さないようにする」という、言わばごみを減らすための事前の活動(広域的な発生抑制)に、より一層の力を注ぐ必要があるといえる。また、打ち上げられた海藻を砂浜に埋却処分する際にはプラスチック系のごみを取り除くなどの地味な作業も伴う。このことから、沿岸と流域の環境についての関心事の一つとして、このような実態が広く知らしめられ、流域の市民が身近な問題として感じとり、具体的な行動に結びつくよう、美化財団ではこのための地道な取り組みもしっかりと継続していく必要があると考えている。(了)

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