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オーシャンニューズレター

第314号(2013.09.05発行)

第314号(2013.09.05 発行)

海の駅の取り組み~海を楽しみ、海を味わい、海に憩う~

[KEYWORDS]海の駅ネットワーク/マリンレジャー/地域振興
国土交通省海事局船舶産業課専門官◆森 裕貴

全国各地に広がる「海の駅」は、「いつでも、だれでも、気軽に、安心して立ち寄り、憩うことができる場所」として、陸・海のどちらからでもアプローチできるマリンレジャー拠点である。
現在、その数は全国で140カ所以上となり、プレジャーボートやヨットで来られる方へのビジターバースの提供に加え、クルージング、朝市の開催、漁業体験の実施など、地域の特性を活かした取り組みを行っている。

海の駅 ─ 誕生から全国への広がり 

■写真1:海の駅第1号の「ゆたか海の駅」

2000(平成12)年3月11日、広島県呉市の大崎下島に「ゆたか海の駅」が海の駅第1号として誕生した(写真1)。海の駅は、瀬戸内海の豊かな自然環境と観光資源を広く発信することにより、瀬戸内海の島々への観光客を誘致し、地域経済の活性化と産業振興を図り、人々に安らぎの場を提供することを目的として始まり、その翌年には瀬戸内海に地方自治体、民間事業者と国が連携した「海の駅」設置推進会議が発足した。その後、各地でも推進会議が立ち上がり、海の駅は全国各地で認定されるようになった。
海の駅となるための設置要件は、(1)プレジャーボート来訪者のための一時係留設備(ビジターバース)、(2)トイレ、(3)情報掲示板の3つの設備を備えることが原則である。2000年に海の駅が誕生するまで、プレジャーボート利用者にとって気軽に係留できる場所は限られていたが、海の駅が全国へ広まることにより係留設備利用者が増加し、マリンレジャーは多様化した。海の駅として登録された施設は、マリーナだけでなく、漁港、フィッシャリーナ、ヨットハーバー、海洋体験施設などさまざまで、ユーザーは目的に合わせて利用する海の駅を選択することができる。

海の駅が果たす役割

本年4月に閣議決定された新たな海洋基本計画では、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策の一つとして「沿岸域の総合的管理」が制定されており、その具体的な取り組みとして、「小型船舶の利用適正化に向けた利用環境の整備を進めるため、「海の駅」の設置等を推進」することが謳われている。そのほかに「海洋教育の充実及び海洋に関する理解の増進」も施策の方向性として定められている。全国各地へ広がった海の駅は、プレジャーボート利用者のための一時係留場所であることはもちろんのこと、さまざまな活動を通じ、マリンレジャーの入口、子どもたちへの海洋教育の拠点、地域活性化のシンボルとして、本計画における重要な役割を担っている。
また、約半数の海の駅で非常食の確保やレスキュー艇の配備などの災害時における防災対策の準備を行うとともに、約3割の海の駅では自治体との協力体制が構築されており※1、海の駅は防災拠点としての役割も期待されている。

海の駅の取り組み例

■写真2:きさらづ海の駅イベント(みなと木更津うみ祭り)

海の駅では、その地域や施設形態に合わせたさまざまな取り組みが行われている。以下にその一例を挙げる。
○ふくおか・マリノア海の駅(福岡県福岡市)
ふくおかマリノア海の駅では、2011(平成23)年より産学官の連携事業である「九州UMIアカデミー」を実施している。本アカデミーでは、シーカヤック、クルージングなどの「体験プログラム」、ライフセービング等各分野のスペシャリストを招いた「学習プログラム」、マリーナ職場体験や工場見学等の「演習プログラム」が用意されており、子ども達はこれらのプログラムに参加することにより海を楽しみ、学び、海を身近に感じることができるよう工夫されている。
○きさらづ海の駅(千葉県木更津市)
きさらづ海の駅では、地方自治体、漁業協同組合と連携し、「みなと木更津うみ祭り」を2009(平成21)年から実施している(写真2)。イベントには2日間で約1万5千人が来場し、来場者は各種ボートの体験試乗会、カッター体験操船会、ハゼ釣り大会、稚魚の放流、名産品の即売会など盛りだくさんのイベントを楽しむことができる。本イベントは、海の駅、木更津市、漁業協同組合等が総合的な協力体制を築いたことにより、陸域と水上の双方で充実したプログラムの展開が可能となっている。これにより地域活性化に寄与するだけでなく、子どもたちの体験学習の場としても機能している。

海の駅ネットワークと海の駅のこれから

全国各地へ広がった海の駅は「全国「海の駅」連絡協議会(2006(平成18)年発足)」と「NPO法人海の駅ネットワーク(2008(平成20)年発足)」の2組織で活動していた。それぞれの組織はオフィシャルサイトを開設※2し、全国の海の駅の基本情報だけでなく、周辺の観光施設も含めた遊び方を提案するとともに、海の駅およびユーザーの双方のコミュニケーションの場を提供している(写真3)。これらサイトの利用者は年々増加しており、本年3月~5月の利用者数は約3.3万人で、昨年同期の約3倍となっている。また、広島県では県が中心となり、本年4月に「瀬戸内クルージングポータルサイト」※3を開設した。当該サイトは、広島県内の海の駅を含むビジターバースのオンライン予約が行えるほか、海洋・観光情報等のクルージングに必要な情報を掲載することで、海の駅および関連事業が連携し、瀬戸内海クルージングの活性化に寄与している。
このように2組織の活動が海の駅の認知度向上、利用者増加、関係事業との連携に大きく貢献しているところであるが、さらなる活動の活性化を見据え、本年6月に全国組織「海の駅ネットワーク」(事務局:一般財団法人日本海洋レジャー安全・振興協会、公益財団法人日本漁港漁場協会)を新たに設立し、2組織の機能の集約を図った。「海の駅ネットワーク」は、地方運輸局および関係団体等と連携し、海洋レクリエーションに関する情報発信、海洋文化の普及・振興、イベント開催等の事業を行うこととしている。情報発信に関しては、前組織のオフィシャルサイトを継承しており、引き続きインターネットによるユーザーへの情報発信等を行っている。
先にも述べたとおり、現在さまざまな施設が海の駅として登録されており、その数は年々増加している。海の駅ネットワークがマリーナ、フィッシャリーナおよび漁港などの各海の駅を結ぶのみならず、地域と海を結び、そして海と人を結ぶネットワークとして発展していくことを期待する。(了)


写真3:海の駅オフィシャルサイト

※1 平成24年度海事局調査より

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