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第309号(2013.06.20発行)

第309号(2013.06.20 発行)

日本で最も歴史の長い水産高校に勤務して~水産・海洋教育の現場から思うこと~

[KEYWORDS]水産教育/学校統合/地域リーダー育成
福井県立若狭高等学校教諭、小浜水産高等学校教諭兼務◆小坂康之

118年の歴史を持つ小浜水産高校は、今年4月より、地域の普通科高校である若狭高校と統合した。
そこで、この統合を一つの機会に、当校の歴史を振り返りながら、水産教育の現場における経験も交えて、地域における水産教育への期待やニーズ、新しい時代への対応についての期待を述べたい。

新たなニーズに応える小浜水産高校

小浜水産高校は、1895(明治28)年に福井県簡易農学校の分校として誕生した。これこそが、わが国における水産高校のはじまりであり、118年の歴史の幕開けであった。この小浜水産高校は、これまで、船舶、養殖、食品加工分野などでの教育を行い約2万人の卒業生を輩出してきたが、2013(平成25)年4月より地域の普通科高校である福井県立若狭高校と順次統合されることとなり、今春、福井県立若狭高校(海洋科学科)として初めて新入生を迎え入れた。
若狭高校(海洋科学科)での教育の特色は、「課題研究」の科目を中心として専門性を活かした探究学習の充実、および大学進学にも対応する普通科目の学習の充実である。
小浜水産高校は、設立当初から地域の課題解決のための教育を地道に作り上げてきた中で、特に近年では、「アマモマーメイドプロジェクト(アマモ定植活動)」や「LEDによるイカ釣り漁灯研究」などで、様々な成果を挙げてきた。そして、これらの活動を一層充実させる上で、若狭高校(海洋科学科)では福井県立大学と連携協定を結び、高校の授業として大学教員による講義を受けられるなど、新しい取り組みに発展させた。さらに近年の水産高校における大学進学希望者の増加に対応させ、若狭高校の持つ大学受験のノウハウを活かして、大学進学対応の7限授業や、土曜日の課外補習にも取り組んでいる。
私は、このような社会的ニーズに柔軟に対応する水産高校にこれまで勤務し、統合完了までの兼務教員として学校運営に関わる立場から、水産高校の地域における役割について認識を新たにし、また、水産高校の次なる展開にも希望を持っている。

地元の海に向かい合う教育現場の必要性

小浜水産高校の設立目的は、優れた水産技術者の育成、地域に対する専門的知識及び技術の提供であった。近年では小中学校での出前授業などを通じて専門知識や技術の普及啓発を行っているほか、地域においては民間企業や研究機関等をつなぐ役割なども果たしており、図1のように地域における水産海洋教育の中心的役割を担っている。このように地元に根ざした水産高校だからこそ地域の様々な課題を見つけ、解決できるわけである。さらにはこれら日頃の教育経験を基にして、専門知識を実際の問題にスムーズに適用することができる。また、水産高校の教育内容やその手法は、他国の海洋教育には見られない、わが国オリジナルのものであり、特産品である「さばのへしこ」など地域固有の食文化※1、伝統や習慣、気候風土にも深く関係し、とても奥が深い。日本の文化が多様性に富んでいるように日本の水産海洋教育は多様性がある。だからおもしろいし、難しいと言える。少子化に伴う学校の再編等でこのような教育にかかるこれまでの貴重な知識や経験の蓄積を失ってはいけないと強く感じている。

地域リーダーの育成に対する地元からの期待

水産高校の生徒は教育現場で、広く海で活動する人材をまとめて、コーディネートする経験を実際に積むことができる。小浜水産高校では、様々な地域や世代の人間が集まり、海を中心としたイベントやボランティア活動、研究活動が行われている。そのような中で生徒たちは、自らの専門的な知識や技術を発揮し、自ら考え行動することで社会に必要とされているという充実感を得て、社会に貢献したいという職業観を身につけていく。つまり地域のリーダーとしての資質を身につけていくわけである。小浜においては特に、海を中心とするまちづくりを行っており、地元からの期待が大きい。また、大学や専門機関が高度に細分化されていく中で、地域に対して専門性を学際的に総合化でき、地域の人材づくりの役割もある教育拠点は今後ますます必要になってくるはずだと言える。


普通科高校との統合・これからの姿、高校における水産海洋教育への期待

普通科高校との統合は、水産海洋教育の新たな可能性を広げつつある。若狭高校はSSH(スーパーサイエンススクール)校に認定されており、「環境とエネルギー」をテーマに主に普通科、理数科を中心に高度な研究活動や高校大学連携を柱とする授業実践を行っている。先にも述べたが小浜水産高校には、118年に及ぶ地域の課題を研究してきた実績がある。今年度から私も、SSHの課題研究の担当をすることとなった。授業においては、教員の指導体制や指導方法において小浜水産高校での経験が大変役に立っている。普通科の生徒の中からは海洋に関する研究を希望する者も多く出てきた。今までのノウハウを活かし、普通科教育にも水産海洋教育の「海を通じて学ぶ」という手法を活かし、充実を図っていきたい。

水産海洋教育を通じた次世代地域リーダー輩出への期待

まちづくりには「よそ者・ばか者・若者」が必要といわれるが、海好き、魚好きの高校生の若者、教員が集まる水産高校は地域にとって宝である。時代の変化とともに地域のリーダーに必要な資質も大きく変化してきている。大学進学だけに傾倒することは職業系高校としては、本来の目的を逸してしまうことになり注意が必要であるが、将来を見据え、全国や世界にネットワークを作り、公平な広い視野で物事を考えることのできる地域リーダーは必要である。若狭高校(海洋科学科)には、そのような資質と可能性のある、やる気十分な生徒たちが新たに集まった。これからが勝負である。(了)

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