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第293号(2012.10.20発行)

第293号(2012.10.20 発行)

東日本大震災の教訓を生かしたこれからの学校防災

[KEYWORDS] 学校防災/防災管理マニュアル/PDCA
徳島大学教授、徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部 環境防災研究センター 副センター長◆中野 晋

東日本大震災では学校の管理下と保護者への引き渡し後などに、多くの園児・児童・生徒が犠牲になった。
また、多くの学校避難所が開設され、教職員は子どもたちの安全確保に加えて、避難所の開設と運営、学校再開業務と忙殺された。この震災の教訓を生かして、近い将来発生する巨大災害に備えるため、防災管理マニュアルを作成し、これを継続的に改善することが重要である。

学校での津波被害と災害対応

1983年日本海中部地震津波の際、秋田県男鹿半島の加茂青松海岸で合川南小学校の児童13名が津波にのまれて亡くなってから28年、東北地方の沿岸を襲った津波によって再び多数の児童・生徒の未来が一瞬のうちに奪い去られた。特に宮城県石巻市立大川小学校(写真)で児童74名、教職員10名が学校の管理下で犠牲になったことは残念でならない。
この震災では岩手、宮城、福島3県で園児・児童・生徒553名が亡くなったが、学校管理下で犠牲になったのは大川小学校の児童74名、南三陸町戸倉中学校の生徒1名、石巻市の日和幼稚園、山元町のふじ幼稚園で送迎中または待機中の園児13名に限られ、引き渡し後に自宅や帰宅途中で犠牲になった子どもたちが多いと伝えられている。「教職員らが避難場所や避難方法について話し合って、繰り返し避難訓練をしていた」なら、「地域が安全になるまで、学校の管理下で安全確保ができていた」なら、これほどたくさんの子どもが犠牲になることはなかった。
この震災から学んだ「素早い避難」と「学校での安全確保」、この二つの教訓は学校での災害発生初動期における最も重要な学校防災管理の基本である。
児童・生徒の安全が確保された後に、教職員は避難所の開設・運営、被災した学校の復旧や代替施設での学校再開など平常とは異なる膨大な業務の上に、児童・生徒のメンタルケアにも心を砕く必要があった。宮城県教職員組合が行ったアンケート調査では回答校328校の約6割で避難所が設置された。その内の約半分の学校では教職員だけで避難所の開設・運営にあたり、約半年が経過した際にも体調不良を訴える教職員も少なくなかったようである。

巨大災害から子どもを守るために

これらの事実から、事前に園児・児童・生徒の安全管理方策に加えて、震災後に教職員の業務として必要となる避難所運営や早期に通常教育を再開させる方法について、防災管理マニュアルとして、整理しておくことが重要である。
地震・津波災害を対象とすると災害ステージは即時対応段階(ステージ0)、緊急対応段階(ステージ1)、応急対応段階(ステージ2)、復旧対応段階(ステージ3)の4段階に分類される。
発災直後の即時対応段階(ステージ0)では児童・生徒の安全確保に全精力が注がれる。従来は在校時を中心に避難方法が検討されていたが、安全確保や安否確認が最も難しいのは登下校時である。さらに、下校済みや保護者へ引き渡された子どもが多く被災したことを受けて、在校時に加えて、登下校時、在宅時、さらに校外活動時の安全確保についても事前からしっかり検討しておくことが大切である。日和山(ひよりやま)公園と石巻高校で2昼夜にわたって避難を続けた石巻市立門脇小学校のように、この震災では避難場所で1日以上、地域の安全が確認されるまで児童・生徒を学校の管理下で養護することが必要なケースも多かった。こうした場合を想定して、避難時及および避難後の避難場所での安全確保の方法も検討課題の一つである。
緊急対応段階(ステージ1)では地域の安全がある程度確認された後に、児童・生徒の保護者への引渡しが行われる。日和幼稚園(石巻市)や吉浜小学校(同市)では保護者への引き渡し時や引き渡し後に犠牲になっており、保護者への引き渡しを行ってよい条件の検討は特に重要である。
一方、この段階から被災地域の学校の多くで避難所の開設や運営支援にあたる必要が出てくる。教職員は地域住民と協力して避難所の開設と運営支援を行い、その後、速やかに住民代表者と市町村担当者に運営を任せて、学校教育再開に向けた活動に注力できる環境づくりを行うことである。そのため、日頃から住民組織と避難所の運営方法について協議し、地域と学校が連携した避難所開設や運営訓練等を実施し、協力体制を整えておくことが必要である。
応急対応段階(ステージ2)は学校の再開に向けて、応急教育の実施や学校再開に向けた準備を行う段階である。被災した子どもにとって、できるだけ早期に規則的な生活リズムを取り戻すことがメンタルケアを行う上で重要であり、学校施設の被災等で早期に学校再開が困難な場合には次に示す2段階の応急教育を実施することが望ましい。
(1) 応急教育 I 児童・生徒の早期のメンタルケアと日常生活を取り戻すための応急教育で、青空教室として実施する場合や遊びを中心としたものなども含む。
(2) 応急教育 II 学校の実情に応じた暫定的な授業を実施。複式授業、午前・午後の2部授業など通常教育を取り戻すまでのつなぎとして実施する。
通常教育を再開できても、被災した児童・生徒のトラウマケアやグリーフケア※1などのメンタルケアが必要であり、平常通りの教育活動に推移するには1年以上必要となる。この段階は復旧対応段階(ステージ3)と分類される。なお、被災1カ月以上経過しても被災時のことを思い出して不安定な状態になる症状が続く場合は外傷性ストレス障害(PTSD)として認められ、長期的な観察とケアが必要である。

PDCAに基づく継続的改善

各学校の防災管理マニュアルを活かすためにはマニュアルの定期的な見直しと改善、いわゆるPDCAサイクル※2による継続的改善が不可欠である。作成した防災管理マニュアルに避難場所が明示されているか、災害発生直後に連絡すべき相手や内容が整理されているか、安否確認方法や確実な連絡手段が確保されているか、保護者に引き渡す際の基準が明確に示されているかなど、防災管理に重要な項目について自己評価を行うためのシートを作成し、教職員の定期異動が行われる学年の始めなどに、防災管理マニュアルを全教職員で確認し、専門家の助言や第三者の評価を得たり、他の学校との連携も見据えた見直しが行われるようにすることも重要である。(了)

※1 グリーフケア=悲嘆ケア。家族など大切な人を亡くし、大きな悲嘆(グリーフ)に襲われている人に対するサポートのこと。
※2 PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)=生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進めるマネジメント手法の一つ。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)のプロセスを繰り返すことによって、業務を継続的に改善する。

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