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Ocean Newsletter
第293号(2012.10.20発行)
- 海洋政策研究財団常務理事◆寺島紘士
- 徳島大学教授、徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部 環境防災研究センター 副センター長◆中野 晋
- 北九州市長◆北橋健治
- ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌
リオ+20と海洋
[KEYWORDS] リオ+20/リオ海洋宣言/我々の求める未来海洋政策研究財団常務理事◆寺島紘士
本年6月に行われたリオ+20は、持続可能な開発を達成する上でグリーン経済が重要なツールであるとして、成果文書『我々の求める未来』を採択した。
成果文書は、オーシャンズ・デーによる『リオ海洋宣言』の提言を取り入れたものとなり、「海洋」について分野横断的なテーマのひとつとして独立項目で取り上げ、20パラグラフにわたる行動計画が加えられた。
はじめに
本年6月20~22日にリオ・デ・ジャネイロで「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」が開催された。この会議には、世界の191カ国、うち79カ国から首脳も出席し、公式参加者だけでも政府、国際機関、非政府組織(NGO)、企業などから44,000人を数え、世界中の注目を集めた。会議は、(1) 持続可能な開発および貧困撲滅の文脈におけるグリーン経済への移行、(2) 持続可能な開発のための制度的枠組みをテーマにして今後の行動計画を議論し、成果文書『我々の求める未来(The Future We Want)』を採択した。そこで本稿ではリオ+20が海洋にとってどのような意義があったのかを眺めてみたい。
リオ+20とオーシャンズ・デー
リオ+20は6月13日から現地で最終準備会合が始まり、6月16日には、海洋関係の高級サイドイベント「オーシャンズ・デー」が世界の海洋関係者の参加の下に開催された。オーシャンズ・デーは世界海洋フォーラム(GOF)※1が中心となり、海洋政策研究財団もその主要メンバーとして、中国国家海洋局、地球環境ファシリティ(GEF)、国連開発計画(UNDP)およびデラウェア大学とともに主催者となり、開いたものである。これには、各国政府、国際機関、NPO、産学界から375名が出席し、海洋の統合的管理の拡大、社会・経済の利益のための漁業の増進、気候変動と海洋酸性化等、7項目にわたって議論を行った。
私自身も、席上、日本の海洋基本法および東アジア海域環境管理パートナーシップ(PEMSEA)による東アジアでの取り組みについて発表し、国、地域レベルの取り組みの重要性を訴えた。熱心な議論を経て、会議の最後に、その成果をとりまとめた『リオ海洋宣言』を発表し、その場で共同議長のビリアナ・シシン‐セインGOF議長からリオ+20統括コーディネーターのエリザベス・トンプソン女史に提出し、その内容(表1参照)を成果文書に盛り込むことを要請した。
成果文書『我々の求める未来』
■オーシャンズ・デーで発表を行う筆者。
■6月16日に行われたオーシャンズ・デーの模様。
リオ+20の会議は、「共通だが差異ある責任(SBDR)」の扱いなどをめぐって途上国と先進国が対立するなど交渉が難航したが、最終的には、持続可能な開発に向けた政治的コミットメントを再確認し、持続可能な開発を達成する上でグリーン経済が重要なツールであるとして、283パラグラフからなる成果文書『我々の求める未来』を採択して閉会した。
成果文書では、海洋は、海洋関係者の要望どおり、分野横断的なテーマのひとつとして独立項目で取り上げられ、20パラグラフにわたって行動計画が書き込まれた。まず冒頭の3パラグラフで、海洋・沿岸域は地球の生態系の基本的な構成要素であり、その保全と持続可能な利用のために必要な行動を取ること、海洋とその資源の保全と持続的利用の法的枠組みを構成する国連海洋法条約等の義務を履行すること、途上国の能力開発が重要でありそのための協力が必要であることなどを述べ、続いて表2のような多岐にわたる行動計画を採択した。
また、「小島嶼開発途上国(SIDS)」については海洋と別項目として取り上げられ、2014年にバルバドス、モーリシャスに続く第3回目のSIDSに関する国際会議を開催することが決まった。さらに、地域、国、地方の当局が、各レベルで持続可能な開発戦略を策定・実施することを勧めるほか、経済社会理事会を国連関係諸会議の成果を統合的にフォローする主要機関として強化すること、持続可能な開発委員会に取って代わる政府間高級政治フォーラムを設立すること、国連環境計画(UNEP)の役割を強化することなど、持続可能な開発に関する国連の取り組み体制の強化を取り上げている。
リオ+20に対する評価と今後の取り組み
リオ+20については、「共通だが差異ある責任」の扱いに加えて、国家管轄外の海域の生物多様性保全についての実施協定作成などいくつかの点について、先進国と途上国間、さらには先進国相互間の対立により思い切った行動計画が打ち出せなかった。そのことから、一部からは「リオ-(マイナス)20」だという厳しい評価もささやかれている。しかし、リオ+20が持続可能な開発の実施をさらに具体的に促進することを目的とした会議であることを考えれば、これらの評価はかなり一面的である。成果文書『我々の求める未来』は、持続可能な開発について、経済・社会・環境の3つの要素を統合して今後どのようにして取り組んでいくべきかについて広汎に、かつ、国連での具体的な方向・方法を含め、今後の取り組みについてかなり書き込んでおり、それらはそれなりに評価されるべきである。例えば、持続可能な開発の着実な実施に向けて国、地域等の制度的取り組みの必要性を取り上げ、励ましている点などは、もっと注目されてもよいのではないか。
海洋について見れば、『リオ海洋宣言』の提言が取り入れられており、オーシャンズ・デー開催に代表される海洋関係者の努力がそれなりの効果をあげていることは喜ばしい。(表1と表2参照)しかし、『リオ海洋宣言』が強調した「海洋・沿岸の統合的管理」、特に国、地域レベルの海洋ガバナンスの推進への制度的な取り組みが具体的に書き込まれなかった点は残念である。
この点は、すでに最終準備会合の段階で予見されていたため、『リオ海洋宣言』では、その最後に「リオ+20を超えて※2」という項目を設けて、「われわれは、海洋および沿岸の持続可能な開発がリオ+20のプロセスの中で十分に取り組まれて来なかったこと、および今後一層の注目と具体的行動が必要な主要エリアであることをノートする」とし、早くもリオ+20後の段階で取り組むべき課題として、「次の段階では、(1) 国家および地域レベルでの海洋、沿岸、ならびに国家管轄圏外の海域についての海洋ガバナンスの制度的枠組みを再評価すること、(2) 海洋問題を国連システムの最高レベルへ格上げすること、(3) CCS、沖合養殖、深海・沖合の石油開発、海洋遺伝子資源採集などの新たに生じた問題について、生態系および予防的アプローチに基づき適切な法的および政策的枠組みを作ること、について緊急に取り組む必要がある」と踏み込んだ提言を行っている。わが国では、目下、次期海洋基本計画にどのような具体的施策を盛り込むべきかについて関係者により熱心な議論が行われているが、以上のような国際的な取り組みの動向にも十分目配りをして、わが国の海洋政策を考えていく必要がある。なお、東アジアでは、その直後の7月に韓国のチャンウォンで東アジア海洋会議2012が開催され、成果文書に盛り込まれた行動計画等を東アジア海域で実施するための「東アジア海域持続可能な開発戦略地域実施計画(2012-2016)」が、日本を含む参加11カ国の閣僚級会合で採択されたことを付け加えておきたい。(了)
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