Ocean Newsletter
第292号(2012.10.05発行)
- 神戸大学大学院法学研究科教授◆坂元茂樹
- 北海道大学名誉教授◆池田元美
- 富山県土木部港湾課環日本海拠点港推進班長◆太田浩男
- ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男
環日本海クルーズの実現に向けて
[KEYWORDS] 環日本海/外航クルーズ/地域連携富山県土木部港湾課環日本海拠点港推進班長◆太田浩男
日本海側の港湾には日本を代表する観光地が数多くあるにもかかわらず、その潜在能力が十分に生かしきれていない状況にある。
小樽港、伏木富山港、京都舞鶴港の3港は今年、「環日本海クルーズ推進協議会」を設立、環日本海クルーズの振興により、日本海側地域全体の経済成長に貢献できると考える。
アジアにおけるクルーズ需要の広がり
わが国港湾への外航クルーズ船の寄港回数は、国土交通省資料によると、2007年の207回から、2012年には409回になっており、大幅に増加している。これは、近年、中国を中心にアジアにおけるクルーズ需要が増大しており、この成長著しいマーケットを狙って、アジアへクルーズ船を配船する外国船社が多くなってきていることが最大の要因である。また、クルーズ船自体の大型化も進んでおり、10万総トン数を超える大型クルーズ船の寄港が相次いでいる。
クルーズ船の寄航は、外国人の寄港地でのショッピングや観光により、大きな経済効果が期待できるものであり、今後も大きな伸びが見込まれる。また、外航クルーズ客船の寄航回数の増大は、日本国内のクルーズ人口の増加につながる可能性も高く、クルーズ客船の誘致は、沿岸地域における地域活性化に重要な役割を果たすことも期待される。
環日本海クルーズの提案

外航クルーズ船の日本の寄港先は、現在のところ、中国、台湾、韓国から地理的に近い九州や沖縄への寄航回数が全体の半数を超えている。日本海側には日本を代表する観光地が数多くあるが、魅力あふれる背後観光地を有する日本海側港湾の潜在能力が十分に生かしきれていない状況にある。日本海側に位置する港湾および背後地域が連携して環日本海クルーズの魅力を情報発信しつつ、環日本海クルーズの振興を図れば、日本海側全体に大きな効果があるのではないか。このような考えのもと、小樽港、伏木富山港、京都舞鶴港の3港は、連名で国土交通省の日本海側拠点港に応募し、2011年11月、「外航クルーズ部門」の機能別拠点港として指定を受けたところである。そして2012年4月、「環日本海クルーズ推進協議会」を設立し、互いに連携して、積極的に外航クルーズ客船の誘致に取り組むこととしている。
推進協議会を設立した3つの港の背後には、魅力あふれる観光地があるので紹介する。
(1)小樽港=小樽港の背後には、北方圏ならではの勇壮な大自然が広がり、小樽市、札幌市等多くの観光都市もあることから、日本有数の観光圏を形成している。北海道の魅力を最大限に活かした環日本海北部のクルーズ観光拠点として、日本海全域にアジア発のクルーズ客船を誘引するほか、国際空港へのアクセスのよさを活かして、環日本海クルーズに「フライ&クルーズ」のメニューを提供するなど、乗客の多様なニーズに対応することができる。
(2)伏木富山港=伏木富山港の背後には立山黒部アルペンルートや世界遺産五箇山合掌集落など世界的に有名な観光地が多くあり、近年、対岸諸国からの観光客が急増している。環日本海の中心に位置し、北陸・中部エリアの観光拠点としての役割を果たすとともに、平成26年度末までに開通する北陸新幹線により、首都圏と直結した新たな観光ルートの形成が期待されている。
(3)京都舞鶴港=京都舞鶴港の背後には、日本三景天橋立をはじめとした豊かな自然や、悠久の歴史に育まれ日本の源流を体感できる千年余の古都・京都市があり、訪日外国人の訪問先としては東京に次いで多くなっている。大阪や神戸などに90分でアクセス可能な関西の北の玄関港としての役割を果たすとともに、今後、舞鶴若狭自動車道や京都縦貫道の開通により、より一層、様々な観光ルートの拠点となることが期待されている。上記3港連携の効果としては、南北に離れた3つの港を巡ることにより、一つの航海の中で日本観光の魅力である「四季の姿」の移り変わりを楽しむことができることだ。例えば、春には、残雪の北海道、富山の色鮮やかに咲き誇るチューリップ、渡月橋の桜を一度に楽しむことができ、夏には、涼しげな貴船川、紅葉に燃える黒部ダムを楽しんだあと、北海道の旬の味覚を楽しむことができる。
「環日本海クルーズ」により、美しい日本の四季の自然・文化・食の魅力を、多くの皆さんに体感していただきたい。
環日本海クルーズ推進協議会の取り組み
推進協議会の取り組みとして、以下4点があげられている。
(1)客船誘致促進事業=3港が連携して、国内外の船社や旅行会社に対し、クルーズ客船の誘致促進に努める。
(2)広報宣伝事業=3港共同で、クルーズ見本市への出展を予定している。具体的には、9月26日から9月28日までの3日間、中国・上海で開催された「第3回シートレード・オールアジア・クルーズコンベンション」に出展し、環日本海クルーズのPRに努めた。
また、誘致促進活動や見本市出展等で使用するための3港共同パンフレット(当面は、日本語版および英語版。各1,000部)を作成することとしている。
(3)要望活動=外航クルーズ船の寄港に際しては、乗船客の入国手続きが円滑に行われるよう、入管、検疫、税関といったCIQ関係機関の協力が必要不可欠である。このため、3港共同で、関係機関に対し、要望活動を実施する。
(4)各港における取り組み=上記に加え、ソフト面では、心のこもった歓迎行事の開催や多言語の案内板の設置、多彩な観光ルートの創出等のほか、ハード面では客船の大型化を見込んだ15万t級のクルーズ客船が接岸できる岸壁の整備や多機能なターミナルの整備などに取り組む必要がある。これらについては、3港で情報交換等を行いながら、各港においてクルーズ拠点としての国際競争力を強化していくこととしている。
おわりに
政府の「新成長戦略」や本年3月に見直された「観光立国推進基本計画」においては、観光立国の推進に向けて、「訪日外国人を2020年初めまでに2,500万人」とすることを目標として定められており、クルーズについても、アジアを中心にクルーズ船の寄港促進に向けた取り組みの重要性が増している。小樽港、伏木富山港、京都舞鶴港の3港は、「環日本海クルーズ」の推進により、日本海側地域全体の経済成長および観光振興に寄与すると考えており、今後とも着実に施策を推進してまいりたい。(了)
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