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オーシャンニューズレター

第275号(2012.01.20発行)

第275号(2012.01.20 発行)

ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)副議長への就任

[KEYWORDS] 国際機関/政府間海洋学委員会/役員選挙
東京大学大気海洋研究所教授◆道田 豊

日本から40年ぶりとなるユネスコ政府間海洋学委員会の役員として、2011年の第26回総会において筆者は副議長の一人に選出された。
海洋観測、海洋環境や気候関連研究、津波その他の海洋防災、海洋情報管理など、海洋学関連の幅広い国際問題を議論するIOCにおいてわが国の果たすべき役割は大きく、今回の副議長への選出を機に、関係者の協力のもとで、世界の海洋学の発展に一層寄与してゆきたい。

IOC第26回総会

ユネスコ政府間海洋学委員会(Intergovernmental Oceanographic Commission : IOC)は1960年に設立された。全加盟国が出席する総会が、パリのユネスコ本部において、創設期を除き隔年開催されている。2011年は総会開催年にあたり、6月22日~7月5日、第26回総会がいつも通りユネスコ本部で行われた。
会議冒頭に、日本に対するお見舞いの表明と犠牲者に対する黙祷が行われたほか、日本代表団長の山形俊男・東京大学教授によって、今般の地震と津波に関する講演が行われた。そのインパクトは大きく、被災後3カ月の日本が復興に向けて努力する姿を各国に強く印象づけるものとなった。こうして始まった総会では、世界海洋観測システム(Global Ocean Observing System: GOOS)の組織改編、津波および海洋関連災害の防止策、国際海洋データ交換などに関する議論が行われた。IOC総会とほぼ同じ時期に隣の大会議場で世界遺産委員会が行われており、一時は賑やかな雰囲気の中での総会となったが、12本の決議を採択して7月5日に無事に閉幕した。

IOC役員選挙

■選出されたIOC役員。右から、ブリビ、バラダレス前議長、ノゲイラ、ビョン新議長、パラゾフ、道田。ホーガン博士は欠席。2011年6月29日、ユネスコ本部にて。

IOCの役員(議長と5人の副議長)は総会のたびに改選される。すなわち、任期は総会から次の総会までの約2年間となる。規則により2期まで務めることができることとなっており、第24回総会で選出され2期目となっていたバラダレス議長(アルゼンチン)と、第4選挙区(アジア太平洋地域)選出の副議長を除く4人の副議長は任期満了で自動的に交代という状況であった。日本もその一員である第4選挙区の副議長は第25回総会で選出されたビョン博士(韓国)で、もう1期務めるのが順当という情勢分析となっていた。
ところが、今次総会の直前にビョン博士が次期議長に立候補するという情報がもたらされ、ご本人に確認したところ「立候補する」ということであった。となると、当選挙区ではビョン博士の後任の副議長を選出する必要が生じる。こうした状況を踏まえ、わが国としての対応を検討し、種々調整の結果、日本から筆者を候補者として副議長に立候補することとなった。立候補にあたって必要となる2カ国の支持については、韓国とインドからこれを取り付けることができた。
立候補したからには当選を目指す必要がある。ユネスコ日本政府代表部の木曽 功大使はじめ関係各官、今次総会への日本代表団の各位のご協力をいただき、用意した履歴書などの配布や各国代表への働きかけなどを行った。総会会期中の6月29日に行われた役員選挙において、第4選挙区からの副議長候補は筆者のみとなり、特に異論は発せられず当選が決定した。最終的に選出された役員は、議長に韓国のビョン博士、副議長には筆者のほか、ホーガン教授(第一選挙区、ノルウェー)、パラゾフ博士(第二区、ブルガリア)、ノゲイラ博士(第三区、ブラジル)、ブリビ教授(第五区、トーゴ)がそれぞれ選ばれた。いずれも新任となる。

副議長としての職務

選挙で選ばれた議長、副議長に、ワトソン事務局長、さらにバラダレス前議長をアドバイザーとして加えた7人で「役員会」を構成し、IOC事業の進め方について実務的議論を行う。副議長は、役員会の議論に参画することに加え、各人に担当業務が割り振られる。例えば、規則や財政全般にかかることはホーガン副議長が担当に指名されている。筆者は当面は津波関連事業推進の担当とされた。
IOCは国連の中での海洋に関する専門機関として、2004年に発生したインド洋津波を契機に、津波及び海洋災害等への対応を重要な柱となる施策に位置付けた。地域ごとに津波早期警戒・減災システム構築にむけた調整の仕組みが稼働し始めていたところに2011年3月の東日本大震災とそれに伴う津波による大きな被害である。津波防災については最も進んでいる日本において甚大な被害が出たことの衝撃は大きく、今後、これを教訓とした対策等が国際的協調のもとで進められるべきことに疑問の余地はない。その中で、IOCの果たすべき役割は一層大きくなっていることから、津波関連事業担当の副議長として、迅速かつ的確な事業推進に力を注ぎたい。

今後に向けて

その設立に重要な役割を果たし、設立以来の加盟国として極めて大きな貢献を続けているわが国ながら、役員(議長または副議長)を送りだしたのは今回の筆者でわずかに二人目に過ぎない。筆者の前の日本人役員となると、1971年の第7回総会において日本代表団長の菅原健博士(当時日本ユネスコ国内委員会委員、名古屋大学名誉教授)が副議長の一人に選出された時、今から40年も前にさかのぼる。菅原博士といえば、日本の海洋学界黎明期の指導者の一人で、日本海洋学会の発足、東大海洋研究所の設立、名古屋大水圏科学研究所の設立など、わが国海洋学の重要なできごとにことごとく貢献された巨人である。筆者など比較するのも申し訳ないくらいの偉大な人物であり、「菅原先生以来」と言われると身が引き締まるどころか縮こまってしまいそうだ。
菅原先生には及ぶべくもないが、選ばれた以上は、日本の海洋学、世界の海洋学の発展のために微力ながら精いっぱいの貢献をしたいと思う。IOCのカバーする課題の範囲は極めて広く、筆者個人の力だけでは副議長の職責を全うできない。特に、当面の担当とされた津波については、その現象は海洋物理学が専門の筆者からさほど遠くはないが、津波警報システムの実務や防災といった部分については十分な経験がない。40年ぶりに日本から選出された役員として、IOCおよび関連する様々な場面でわが国のプレゼンスを示すことが期待されているものと自覚しており、ユネスコ国内委員会IOC分科会関係の方々をはじめ、関係各位、各機関からのご指導とご支援を切に希望する。
末筆ながら、日本から40年ぶりの役員選出にご尽力いただいた、山形団長はじめ第26回IOC総会日本代表団員の皆様、ユネスコ常駐日本政府代表部関係各位、文部科学省関係各官、そのほか関係者の皆様に感謝する次第である。(了)

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