Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第275号(2012.01.20発行)

第275号(2012.01.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所・教授)◆秋道智彌

◆海の波には2種類ある。ふつうの波は風波で、その波長は数mから数百mである。私はかつてインドネシアの北東部、スラウェシ島とフィリピンのミンダナオ島の間に鎖状につらなるサンギル・タラウト諸島に滞在中、太平洋側からとんでもない大きな波が押し寄せるなかを船外機付きの小型船で横切ったことがある。船でサーフィンをしているかのようなもので、あのときは生きた心地がしなかった。それでも波の波長は数百m程度であったのだろうか。風波にたいして、津波の波長は数kmから数百kmになるという。東京大学海洋アライアンスの丹羽淑博さんは今回の大津波の数値モデルを提示した。仙台空港に達した津波をテレビ映像でみたことがあるが、津波の到達時間や波高を探るモデルが今後の防災教育に役立つことは間違いない。科学を超えた津波の恐ろしさにたいして、科学がただただ無力であるとのみ捉えるべきではないだろう。
◆関西大学の河田惠昭さんは、3.11以降、150日あまりの間に地震・津波対策に関する専門調査会の座長として12回の会議を開き、今後の対策を大所高所の立場から論じた調査会のリーダーである。同調査会は16.9兆円にのぼる経済被害にたいして、地震から津波発生まで過小な想定と対策があったこと、それに引きかえ防潮堤への過大な依存があったことを指摘されている。経済損失が17兆円弱として、今後、環境への負の影響はどのように算出されるのだろうか。環境のなかには、物理的な部分とともに生態系や生き物も含まれる。一度、絶滅した生き物を科学の力で生み出すことはいくら抗っても不可能である。経済を超えた議論も必要だ。また、津波対策としてだされたいくつもの提言のなかで、防災の根本的な見直しが指摘されている。想定されている東南海・南海地震にたいして、われわれはどのような対策を取ることが賢明であるのか。日本全体で考えるべきことは多い。さらに今回の津波の教訓をいまの子どもたちの世代が成人になり、その子どもたちへと継承していくための数十年先を見据えた取り組みが必要なこともよく理解できた。水俣病、ベトナム戦争、そして第二次大戦と原爆、日清・日露戦争。語り継ぐべき歴史は自然からの災禍にかかわることがらだけではない。教科書に記載される、されないだけの問題でもけっしてなく、心の記憶こそが遺産として継承されるべきなのだ。
◆継承すべき地球の遺産としてユネスコの世界遺産があるが、これは自然と文化にかかわることがらである。だが、ユネスコが政府間の海洋学委員会(IOC)を運営していることを知る人はけっして多くない。東京大学大気海洋研究所の道田 豊さんが平成23年6~7月の第26回総会で副議長に就任された。道田さんには、海洋のさまざまな現象の解明に向けてのユネスコの取り組みをさらに推進していただけるものと大きく期待したい。津波を受けての平成24年から、新たな時代がはじまったのだ。(秋道)

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