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第275号(2012.01.20発行)

第275号(2012.01.20 発行)

東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会の活動

[KEYWORDS] 東日本大震災/減災/多重防御
関西大学社会安全学部学部長◆河田惠昭

東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会の報告を踏まえて、東日本大震災の地震・津波被害の特徴と今後の想定津波の考え方、津波被害を軽減するための対策および今後の大規模地震に備えるための具体策などを紹介する。


筆者は「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」※の座長として、12回の会議を経て、つぎのような報告をまとめた。

今回の地震津波被害の特徴

巨大な地震と津波による約2万人に及ぶ甚大な死者・行方不明者と16.9兆円に達する経済被害、想定できなかったM9.0の巨大地震と巨大津波、そして気象庁も地震が起こった瞬間、宮城県沖地震と思い込んでしまった従前の過小な想定、防潮堤などの海岸保全施設に過度に依存した防災対策、動的予報による過小な大津波警報の発令が挙げられる。

想定津波の考え方と津波対策

今後はつぎの二つのレベルの津波を想定することになった。一つは、50年から150年に一度程度来襲する津波であり、防潮堤などの施設で被害をシャットアウトする防災を実現し、それを上回る極低頻度の巨大津波に対しては、減災の考え方に基づく多重防御を基本とすることにした。このように、最大クラスの津波に対しては、被害の最小化を主眼とする減災の考え方に基づき、海岸保全施設などのハード対策とハザードマップや避難路の充実による避難を中心としたソフト対策を組み合わせて実施することになった。

津波対策の方向性

■地震後の地盤沈下で浸水が継続する陸前高田市の市街地

■大津波で多数の児童・教師が犠牲になった石巻市立小学校の被災

このように、津波来襲に際しては、いのちを失わないことを最優先し、立っておれないような強い揺れが1分以上も続くような場合は、避難勧告などの発令を待たずに、迷うことなく自ら高い場所に避難することを基本としている。今回、避難勧告や指示が発令された地域で、避難所に避難した住民は、日頃から避難訓練に参加した人が大多数だったという報告は、避難訓練に参加することがいかに大切であるかを教えている。そして、津波到達時間が短い地域では、おおむね5分以内に避難できるようなまちづくりを目指すべきであるとした。基礎自治体はこれを不可能であるとせず、臨時国会で成立した「津波防災地域づくりに関する法律」(2011年12月7日参院可決)を適用して、津波災害の起こる前に、津波に強いまちづくりに着手すべきであろう。これはわが国で初めての試みである。第三次補正予算では、全国的な防災対策に発災前に資するように約1兆円が用意されている。大半のメディアがこの施策に気づいていないという情報リテラシーの低下も気になるところである。
さらに、円滑な避難行動のための体制整備とルール作りとして、以下の5点が指摘されている。
(1)津波警報と防災対応
情報を利用する立場に立って、津波警報の内容の見直しとすばやい避難行動に結びつく警報の発令方法に改善する。
(2)情報伝達体制の充実・強化
広域停電や庁舎被災に備えて、防災行政無線やエリアメールなどの複数の手段によって、確実に基礎自治体や住民に情報が伝わるようにする。
(3)地震・津波観測体制の強化
気象庁の広帯域地震計がほぼすべてスケールアウトして記録が取れなかったことや、8カ所の験潮所が流失した失態を反省し、観測調査体制を抜本的に見直す。とくに東海・東南海・南海地震という3連動地震の発生が危惧される現在、地震時の波源域における津波のリアルタイム計測情報の活用が喫緊の課題である。
(4)津波避難ビル、避難場所、避難路の整備
多重防御によるまちづくりにおけるこれらの諸施設の充実を実現する。
(5)避難誘導・防災対応に関わる行動のルール化
津波来襲時に、たとえば消防団員254名、消防署員27名が公務執行中に殉職したことを重く受け止め、行動のルールを定める。
なお、防災教育の重要性については論を待たないが、これが効果を発揮するのは、児童・生徒が親になり、自分の子どもに知識や体験を話すようになって初めて結実するという長期的な取り組みの重要性を理解し、継続的な努力が特に必要であることを指摘しておきたい。

今後に向けて

今後の大規模地震に備えて、つぎのような5項目を重点的に実施するべきであるとした。(1)4枚のプレート上に位置するわが国は、どこでも津波を伴う地震が発生しうるものとして、地震と津波への備えを万全にしなければならない。(2)南海トラフ上で懸念される東海・東南海・南海地震については、地震の揺れは3連動の場合が大きいが、津波は必ずしもそうはならない。すなわち、東日本大震災のような破壊過程だけを対象とするのではなく、あらゆる可能性を想定しなければならない。そして、これらの地震・津波が起こればわが国全体が大きく影響されるので、国土全体を視野に入れたグランドデザインの観点が防災・減災上必要である。(3)地震・津波・原子力災害という複合災害が起こったことに鑑み、今後、プレート境界地震、内陸地震、風水害との複合災害にも留意しなければならない。(4)東北地方の製造拠点や部品工場などが大きく被災し、経済被害が全国に波及したので、サプライチェーンの問題を企業の事業継続計画(BCP)として重視する。これは基礎自治体の行政サービスの継続に関しても指摘できることである。(5)首都圏で無感の微小地震が頻発していることに留意し、首都直下地震対策は、1923年に発生した関東大震災クラスの地震についても検討する。
さらに専門調査会では、防災基本計画における津波防災対策の全面的な見直しが必要であることを指摘するとともに、東日本大震災で得た知見や教訓を後世に語り継ぎ、引き継ぐとともに、国内外に発信することの重要性も指摘した。(了)

※ 東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会=平成23年4月27日、中央防災会議において設置。17名の委員により12回の委員会が開催され、平成23年9月28日に報告がとりまとめられた。

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