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オーシャンニューズレター

第274号(2012.01.05発行)

第274号(2012.01.05 発行)

深海底の豊かな鉱物資源の開発を目指して

[KEYWORDS] 深海底鉱物/海洋産業/ラウンドテーブル
海洋資源・産業ラウンドテーブル会長◆武井俊文

わが国の200海里水域の海底には膨大な資源ポテンシャルがある。その天賦の有望資源を開発し、国民経済の発展に寄与していくことが重要である。
海洋関連産業だけでなく鉱業関連産業ほか幅広く業界、学界、研究機関等が相互に連携しながら、国全体としての開発推進に力を合わせて取り組んでいきたい。

わが国200海里水域に膨大な資源ポテンシャル

■わが国周辺海域における主な海底熱水鉱床(出典:(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)資料)

政府は平成20(2008)年策定の「海洋基本計画」に基づいて平成21(2009)年3月に「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を決定した。それは、平成30年度を想定して商業化の実現に向けての技術の整備や経済性評価を行うというもので、その中間段階では海域での採鉱実験も試みるという意欲的な内容となっている。
こうした積極的な取り組みを打ち出しているのも、わが国の領海および排他的経済水域(EEZ)を合わせた200海里水域に、豊富な資源ポテンシャルがあるからにほかならない。約447万km2という世界第6位の広さをもつわが国の水域には、メタンハイドレートが大量に存在していることが知られているが、深海底の海底熱水鉱床やコバルトリッチクラストと呼ばれる鉱物資源についても世界有数の資源が存在する。
海底熱水鉱床については、伊豆・小笠原海域と沖縄周辺海域に有望鉱床がある。1カ所500万トン程度採掘が期待できる可能性があり、わが国の200海里水域内では同規模の鉱床が10カ所程度期待できると言われているので、その概略資源量は約5,000万トンとの試算もなされている。コバルトリッチクラストについては主として南鳥島など太平洋の遠隔離島周辺の200海里水域、およびその外側の公海にも広く存在している。
レアメタル、レアアースなどの金属鉱物資源の確保が国家的課題となっている今日、こうした海洋資源ポテンシャルの重要性はますます増大してきていることから、わが国国民経済全体にとってかけがえのない天賦の資産の開発に、産学官の総力をあげて取り組み、わが国の将来の発展に役立たせることが肝要である。

深海底の開発に挑む

ところで、海洋資源の開発を商業的に成立させていくには、克服すべき課題も多くある。深海底という未知で過酷な環境条件下での探査・採掘のシステムはもちろんのこと、環境保全、産業振興、関連法制、国際動向などの幅広い視点からの検討が必要である。
海底熱水鉱床は、数千mの深海の海底表面の熱水噴出孔(煙突状なのでチムニーと呼ばれる)および熱水活動が終焉したチムニーの周辺に存在し、銅や亜鉛のほか微量の金や銀も含まれている。コバルトリッチクラストは、先端産業に欠かせないコバルト分が多く含まれる塊状の鉱物で、海山の頂部からその裾野にかけてカサブタ状にはりついて存在している。これらの深海底鉱物の開発工程は、海底で鉱石を集鉱し、母船から垂下したパイプを通じて汲み上げ、陸上にある工場まで輸送して目的の鉱物を製錬して取り出し、市場に出していく、という一連の大きな流れが考えられる。当然、これらのプロセスで環境対策も講じなければならず、特に熱水活動が続いている深海底の鉱床周辺には希少な生物群集が生息しているといわれるので、開発に当たってはこれらの保全方策も考慮しなければならない。深海底でこうした作業を行うこと自体が、技術的にも産業的にも大きなチャレンジなのである。

多様な意見交流と連携で眠れる資源の開発を

■設立記念懇親パーティで挨拶する武井会長と4名の副会長。(H21.12.16、左から)武井会長(海洋産業研究会長)、三村副会長(総合エネルギー調査会長)、岡田副会長(日本鉱業協会長)、河野副会長(JOGMEC理事長)、元山副会長・会長代行(経団連海洋開発推進委員長)。

■海洋資源・産業ラウンドテーブルのロゴとシンボルマーク

そうしたなかで、国の計画で採掘実験などは前倒しして積極的に前進を図るべしとする意見が強く出される一方、持続可能な鉱物資源開発を推進するためには上記の一連の流れをきちんと理解し商業的視点をもって慎重に取り組む必要がある、という意見も伏在していた。そこで、両者の軌道が乖離していかないよう、多様な意見や立場の関係者が一堂に会し相互交流と連携を図るための新たな場の創設が必要との機運が醸成されて、海洋資源・産業ラウンドテーブル※(以下、RT)が設立されるに至った。
このことは、海洋開発機器の設計・建造等に携わる産業と、陸域を中心に資源開発活動をしている鉱物資源産業が、お互いの領域を超えて一つのテーブルに着き、新しい枠組みを構築していこうというものである。もちろん、その二つの業界だけでなく周辺業界も同じくこのRTには参画いただいている。他方、本RTの創設によって、国や関連する独立行政法人などにとっては、産業界・学界に対して働き掛ける際の受け皿として活用していただけることにもなってきた。この点も、RT設立の意義の一つである。
これまで、RTとしての全体会合を7回、三次元物理探査船「資源」、地球深部探査船「ちきゅう」、深海鉱物探査船「第2白嶺丸」、熱水鉱床のサンプル・コアの見学会などを開催してきた。全体会合のなかには、内閣官房総合海洋政策本部事務局・文部科学省・国土交通省の担当課長に一堂に集まっていただき、それぞれの深海底資源に関する取り組みについてお話しいただくといった、本RTならではの活動も展開してきているところである。東日本大震災からの復興という国家的課題のなかで、2011年夏には60年ぶりに鉱業法が改正され、海洋資源の開発を促進する法制度も整備されてきた。豊かな眠れる海洋資源の開発を通じて、わが国経済社会の明るい未来を切り開く役割の一端を担っていくよう、当RT も努めていく所存である。関係方面の方々の一層のご支援とご協力をお願いして、結びとさせていただく。(了)

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  • 深海底の豊かな鉱物資源の開発を目指して 海洋資源・産業ラウンドテーブル会長◆武井俊文
  • 編集後記 ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

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