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第274号( 2012.01.05 発行)
第274号(2012.01.05 発行)

気候サービスを通じて沿岸と海洋の回復力強化を目指す

[KEYWORDS] 気候サービス/沿岸と海洋の回復力/国際パートナーシップ
米国商務省海洋大気圏担当次官、米国海洋大気庁 (NOAA)長官◆Jane Lubchenco
NOAA 気候企画室、生態系科学アドバイザー◆Laura Petes
NOAA国立気候データセンター長◆Thomas R. Karl

沿岸国として日本と米国は海の美しさ、恵み、力に深く変わらぬ畏敬の念を共有する。両国は海と社会、経済の健全さが相互に依存していることも熟知している。魚の乱獲に加えて、今、気候変化が沿岸と海に大きな脅威となっている。
米国海洋大気庁(NOAA)は、変化に対する社会の適合力を高めるために気候情報、ツール、サービスを開発中である。調和のとれた海洋環境を未来世代に伝えるには、創造的な問題解決、社会の意識向上、強固な国際協力が必要になるだろう。

気候が海と沿岸に与える影響

今、海は急激かつ根本的に変化している。これは人類に重大な結果をもたらすだろう。サンゴの白化、魚種の回遊範囲の変化、外来種の増加、このどれもが地球規模での海面水温の上昇による。海は、人間活動により濃度を高めている大気の二酸化炭素を吸収し、酸性化が進む。これは海洋生物にとって欠かせない食料源である甲殻類、サンゴ、プランクトンなど、炭酸カルシウムの殻をもつ種に深刻な影響を与えている。海面上昇は沿岸域の社会と動植物の生息環境を脅かしている。台風などの極端現象も海面上昇と相まって、人命や財産により大きな脅威になる。こうした極端現象は増加傾向にある。2011年12月1日現在で、米国では12件の記録的な気象・気候現象による災害を経験しているが、それぞれ少なくとも10億ドル以上の損害を引き起こしている。まだ評価途中にある二つの現象による損害もそれぞれ10億ドルを超える可能性がある。全てを合計すると経済的影響は500億ドルを超える。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最近の報告によれば、気候変化によりすでに気象・気候の極端現象の頻度と強さに変化が顕れており、しかもこうした現象は今後増えるという。
極端現象による衝撃で人々は変化に備えるための情報を探すようになった。将来の経済発展と天然資源の持続的利用のためには、昨日や今日の情報ではなく、明日起こりそうな状況についての確かな情報とそれに基づく賢い選択が必要である。米国海洋大気庁(NOAA)が提供している気象と気候の情報やサービスを活用すれば適切な企画が可能となる。そうした情報への需要は確実に増えている。2009年から2010年までNOAAの関連ウェブサイトのヒット数は57%も増え、データセンターからユーザーに提供される気候関連データも86%増えた。

NOAAの気候サービス

■図1
サウスカロライナ州にある戦跡チャールストン要塞。現在の状況(上のパネル)と満潮の平均水位より1.5m上昇した海面を想定した状況(下のパネル)を対照的に並べている。このシミュレーションはNOAAの「デジタルコースト」のツール(CanVis)によって作られている。

■図2
2005年10月、NOAAの潜水士が米領バージン諸島セント・クロイ島の白化したサンゴ礁を調査(写真:NOAA)。

増大する需要に応えるため、NOAAは様々な沿岸や海洋セクターと協力して、日々の決定に必要な気候科学やサービスをタイムリーに提供している。以下で紹介するのは、気候情報を政策やマネジメントに活用するために開発した四つのサービスである。
(1)「デジタル・コースト」(図1)とは沿岸サービスセンターが気候変化を含む沿岸問題にタイムリーに対処するためのものである。例えば、地方自治体や沿岸管理者の企画に役立つツールとして、海面上昇が及ぼす物理的、生態的、社会経済的影響を視覚化する「海面上昇の影響ビューアー」がある。このツールは海面上昇が脆弱な社会、インフラ、生態系に与える影響を理解し、それに備えるために、テキサス州ガルベストン市において住宅都市開発局との連携基盤となっている。デジタル・コーストは、気候変化やその他のストレス要因の沿岸への影響を理解し、減じるにあたって、地方自治体や市民に必要とされる能力を高めるツールである。
(2)サンゴ礁は気候変化の影響をもっとも受けやすい生態系である(図2)。サンゴ礁保全プログラムが開発した「サンゴ礁監視衛星による白化注意報システム」は、衛星データを使って、白化現象につながる熱ストレスの度合いを、ほぼリアルタイムでモニタリングする(http://coralreefwatch-satops.noaa.gov/SBA.html)。白化現象が発生しやすい状態になるとサンゴ礁の管理者、科学者などへ注意報が電子メールで送られる。現在、世界の24のサンゴ礁が対象となっている。
(3)気候科学とサービスは持続可能な漁業管理もサポートしている。例えば、「北太平洋気候レジームと生態系生産プロジェクト(NPCREP)」 は、北太平洋およびベーリング海における気候の影響について情報を集めて、漁業管理者への指導を行っている(http://www.pmel.noaa.gov/foci/NPCREP/)。2000年から2005年までの間にNPCREPはベーリング海における海面水温上昇とタラの低生産性の関係を立証した。これらのデータを水産資源評価モデルに組み込んだところ長期的低下の可能性を示す予想が出た。NPCREPはこの結果を北大西洋漁業管理協議会(NPFMC)の科学・統計委員会に報告した。これを受けて、NPFMCは2006年から2010年までにタラの漁獲量を160万トンから80万トン(50%)に減じるように勧告した。2011年から気候、海洋、生産性のパターンが変わり始めたので、127万トンに緩和する勧告がなされた。この実効的な順応的管理が示すように、気候情報の提供は意思決定のプロセスに重要なのである。
(4)NOAAは気候情報を提供するだけでなく、自らの管轄や管理責務にも気候情報を組み入れるようにしている。例えば米国の14の貴重な海洋保護区を管理する「国立海洋保護区システム」では、それぞれの海域が気候情報のネットワーク化されたスマートな保護区になるように取り組んでいる(http://sanctuaries.noaa.gov/)。これによって各保護区は気候変化に備える行動計画に加え、気候シナリオと影響報告の作成を進めている。また、各保護区が運営を「グリーン化」※するなどして、カーボンフットプリントを減らす対策を行っている。気候変化に直面する沿岸や海の回復力を高めるには、行動をもって示すことが大切だからである。

国際協力の大切さ

気候サービスの開発と提供を成功させるには、継続的な国際協力や提供する側とそのエンドユーザーの間の協働が必要である。発展段階にある「気候サービスのための全球枠組み」(GFCS)は、気候リスク管理に向けたグローバルな能力を高めるのに前例のない機会となっている。米国はこの枠組みの発展を支持し、情報や経験を共有するために国際社会と協働していきたい。
観測、モデリング、研究における日本との長年の協力関係は、極端現象や気候変化の予測や管理に不可欠な情報やサービスを維持するのに欠くことのできないものであったし、これからもそうである。例えば、NOAAは2011年8月、太平洋地域気象サービスディレクターのトレーニングワークショップに参加するために日本や他の国々の代表とマーシャル諸島に集まった。そこで各国代表が気象情報やニーズを共有し、専門家や実習者間の協力の機会促進を図り、気候変化への適応行動に科学を取り入れるためのメカニズムを確認した。
力を合わせれば、健全で、生産性が高く、回復力のある海を創成していくことは実現可能である。一つの地球コミュニティとして、使命感、危機感、そして希望を共有するならば、沿岸と海のより持続可能な未来という目標に到達することができるであろう。(了)

※ グリーン化=環境負荷低減のための対策、またはその対策を講じること。
※ 本稿は英語で寄稿いただいた原文を翻訳・まとめたものです。原文は当財団HPでご覧いただけます。
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