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第274号(2012.01.05発行)

第274号(2012.01.05 発行)

わが国の海洋政策

[KEYWORDS] 海洋基本法/海洋基本計画/総合海洋政策本部
内閣官房総合海洋政策本部事務局長◆小野芳清

総合海洋政策本部事務局は平成20年3月に策定された第一次海洋基本計画の具体化の作業を行ってきたが、平成24年度は海洋基本計画を見直す時期にあたる。すでに事務局は基礎的な作業である現行海洋基本計画の進捗状況把握や新たなニーズの収集等を開始しており、これからの海洋政策の展開をふまえたうえで新しい海洋基本計画の策定を目指した作業を行っていくことになる。

海洋政策の現状

■わが国の海洋をめぐる状況
(資料提供:海上保安庁)

平成19(2007)年4月に成立した海洋基本法に基づき、同年7月に総理を本部長とし全閣僚を構成員とする「総合海洋政策本部」(以下「海洋本部」という)が発足し、同時に同本部の事務局として筆者が現在所属する組織が内閣官房に設けられました。手始めに第一次の海洋基本計画が策定され(平成20年3月)、爾来、時には本部事務局の手で実際の作業を行い、時には関係省庁間の業務遂行調整を行うなど、事案に応じて最も適切と思われる手法で同計画の具体化の作業を行ってきました。具体的には、主なものだけでも5点あります。
大陸棚延長に関する国連委員会への申請書提出および審査対応
海底天然資源に関するわが国の主権的権利を行使しうる大陸棚の区域を、国連海洋法条約の基準に従い、わが国EEZの外側に設定する作業
離島の基本方針策定
領海・EEZ等の基線である低潮線の損壊防止対策、低潮線近辺の土地の国有化、管轄海域の保全上重要な離島への名称付与、等の方針を策定
低潮線保全法立案および同法に基づく低潮線保全基本計画の策定
領海・EEZ等の基線である低潮線の損壊防止のための「低潮線保全区域」の指定、南鳥島および沖ノ鳥島での港湾施設の整備を規定
海賊対処法立案
国連海洋法条約に基づき、海賊行為を犯罪と定めるとともに、公海を含む海域で海賊行為を取り締まるために必要な事項を規定
改正鉱業法立案への参画
わが国管轄海域(EEZ等)での海洋エネルギー・鉱物資源探査(外国船によるものも含む)に対する許可制等の規制措置を導入
ちなみに、海洋本部および事務局の任務は、「海洋基本計画の作成・実施の推進・総合調整その他海洋に関する重要施策の企画・立案・総合調整」(海洋基本法30条)であり、極めて広範なものになっています。このため、外交安保の色彩が濃い問題に対して「海洋政策には無関係」と言ってはいられない状況に出くわすことが多々あります。

海洋基本計画等の見直し

海洋基本法では、「概ね5年ごとに海洋基本計画を見直す」(同法16条5項)、「海洋本部について法施行後5年を目途に総合的な検討を加える」(同法附則2項)とされており、平成24年度はちょうどこれらの作業を行う年に当たります。事務局内部では既に基礎的な作業である現行海洋基本計画の進捗状況把握や新たなニーズの収集等を開始しています。今後は、民間有識者の皆様の御意見も承りながら、関係者間での議論を深めていき、最終的には平成24年度後半に海洋本部で結論を出す段取りとなります。

今後の海洋政策の展開

以下、今後の海洋政策を考え遂行していく上で意を用いるべきではないかと筆者が「個人的かつ本稿執筆時点」で考えている点を、思いつくままに記してみたいと思います。なお、記述されていない事柄は重要ではないということを言うつもりは毛頭ないことを申し添えておきます。
(1)海洋再生可能エネルギーの利用促進
陸上風力発電の物理的制約が指摘をされている中、将来のエネルギー問題を考える上で、ポテンシャルが大きいと言われている洋上風力発電や波力発電等の海洋再生可能エネルギー利用は避けて通れません。しかし、それらの利用促進のためには、陸上と違い技術的・制度的に解決すべき課題が山積しています。その解決に向け、関係者はこれまで以上に汗をかく必要があるのではないでしょうか。
(2)海洋エネルギー・鉱物資源の開発・利用促進
現在、平成21(2009)年3月に策定された「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(経産省策定,海洋本部了承)に基づき、探査や利用技術開発が鋭意進められていますが、経済・安全保障等の観点からはわが国の自主的な開発が重要と思われます。それを実現するために探査等に投入されているリソースは現在の水準で十分であるか検討すべきと思います。
(3)海洋産業の戦略的育成
海洋再生可能エネルギー関連機器製造業の国際競争力強化や発電事業者の育成、海洋エネルギー・鉱物資源の商業的生産の担い手である民間企業の育成に、これまで以上に戦略的に取り組むべきではないでしょうか。また、四面環海のわが国に不可欠な海運・造船産業を戦略的に維持・育成すべきと思います。
(4)管轄海域の適切な管理
わが国は世界有数の広さの管轄海域を有しています。将来の経済・安全保障を確かなものにするため、管轄海域を適切に管理しつつ有効に活用していく必要があり、そのための海洋情報の一元的管理等々の具体的な施策を着々と講じていくべきではないでしょうか。ただその際、相手国との間での境界未画定海域が存在することを忘れるわけにはいきません。
(5)地球環境変化への対応
地球温暖化は解決すべき大きな課題ではありますが、安定状況に至るまでには、例えば北極海の氷が少なくなる等の現象を避けられないと言われています。このため関係国は、北極海での海洋エネルギー・鉱物資源の開発や海上輸送ルートとしての利用に向けて、熱心な取り組みを始めています。わが国も北極海利用に多大なインタレストを持っていると考えられますので、政府全体での取り組みを考える時期に来ていると思います。

おわりに

今後の政府全体の施策の指針であり、またわれわれ事務局の活動指針ともなる新しい海洋基本計画の策定作業を、これから約1年かけて行っていくこととなりますが、上記の問題意識を持ちつつ、関係の皆様からの様々な問題提起にも真剣に耳を傾けながら、可能な限り具体性のある計画にしていきたいと考えております。海洋政策の推進に対し、これまで以上の皆様の御協力をよろしくお願い申し上げます。(了)

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