Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第273号(2011.12.20発行)

第273号(2011.12.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所・教授)◆秋道智彌

◆今年も年の瀬を迎えた。思えば3月以降、何度も三陸沿岸域を訪れた。5月に宮古へいったおり、海岸近くの民家の外壁に「海はきらいだ」と赤いスプレーで殴り書きがあった。津波による甚大な被害を蒙った方がたのお気持ちは察してもあまりあるが、海は憎悪の対象だけであるのではない。海は災禍とともにさまざまな恩恵をわれわれ人間にもたらしてきた。海は人間にとり多様な種類の食料や塩、産業用の材料をもたらしてきた。海は地球の水循環や気温調整にとってもなくてはならない。優しく浜に寄せる波や磯の香りは癒しの世界へと誘ってくれる。海は生命を育む母であることはまぎれもない。
◆文部科学省初等中等教育局の宮崎活志さんは日本の学校教育の学習指導要領に海に関する指針が盛り込まれていないことを指摘されている。ただし、現行制度を変えることなく「海の教育」を総合的に進めるべき提案をされている。NPO法人「海のくに・日本」も海の教育を積極的に進める運動を推進してきた。その中心であるのが海の幸に感謝する会「ウーマンズ・フォーラム魚(略称WFF)」の代表白石ユリ子さんだ(本誌138号「いま国をあげて『海の食料政策』をつくるとき」(2006.5.5)参照)。白石さんらがまとめた絵本『クジラから世界が見える』(遊幻舎、2006年)が今年度から小学5年生の国語の教科書に掲載されている。こうした活動が海の教育に大きなうねりとなることは確実だろう。
◆次世代の若者に海のあらゆる面についての情報と思いを伝えることは今後さらに重要度を増すはずだ。たとえば、(独)科学技術振興機構の岡谷重雄さんは地球規模の問題解決に向けて途上国と研究連携を進めることがわが国の重要課題であるとし、SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)に取り組まれている。60プロジェクトの半数はアジアで実施され、アジアにおける日本の役割が明示的に示されている。今後こうしたプロジェクトに若い世代が参画し、海外で海の環境保全や資源管理、温暖化予測などのビッグなテーマに挑戦していただきたいという想いを共有したい。
◆目を北に転じてみよう。温暖化により北極海の氷が融解し、北の閉ざされた海が今後、新しい航路となる可能性が大きくなってきた。北極海の問題は航路だけではなく、石油、天然ガスの利権をめぐり、関係諸国がしのぎをけずっている。ロシアは2007年に北極点の海底に国旗を設置し、中国は1995年以来、北極圏への探検隊を何次にもわたって送っている。北の海が新たな国際紛争の火種となることは明らかだ。わが国も北方領土問題を踏まえて北極海の健全な利用に向けての外交的、学術面での参入を本格的に考えるべきだ。北の海への取り組みは次世代への継承を含めた喫緊の課題だろう。(秋道)

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