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オーシャンニュースレター

第272号(2011.12.05発行)

第272号(2011.12.05 発行)

浅虫海洋生物学教育研究センターにおける海洋生物学実践教育

[KEYWORDS] 海の学習/海洋生物/臨海実習
東北大学浅虫海洋生物学教育研究センター准教授◆経塚啓一郎

浅虫センターは、東北大学および東北地方の大学生が、自然の中で実際に海の生き物に触れて実習を行うことのできる滞在型の臨海実習施設として大正13年に開設され、以来、海洋生物学の普及に力を入れてきた。
地理的条件にも恵まれている浅虫センターは、子供たちの興味を引き付ける実践海洋生物学教育をめざしている。

センターの創設とその歴史

■センター全景と構内のある裸島

東北大学浅虫海洋生物学教育研究センター(浅虫センター)は、陸奥湾に面し、対岸には津軽半島と岩木山を望む風光明美な景勝地にあります。
浅虫センターは、東北大学および東北地方の大学生が、自然の中で実際に海の生き物に触れて実習を行うことのできる滞在型の臨海実習施設となる臨海実験所(当時)として大正13年に開設されました。東北帝国大学理学部生物学科はこの前年の大正12年に創設されたのですが、翌年の夏には臨海実験所本館の完成を待たずに、先に完成した宿舎の食堂を利用して初めての臨海実習が実施されたと記録にあります。創設当初より、海洋生物学の教育に力を入れた姿勢がうかがえます。
一般公開するための水族館も併設されました。水族館の展示用大型水槽の側面にはめるガラスはアメリカから輸入されました。当時の日本にはまだ厚さ1インチ以上の透明で歪みのない研磨ガラスを作る技術がなかったためです。ガラスは横浜の税関倉庫で関東大震災にあったのですが、無事に水族館に届けられました。また、昭和60年代、マイクロアクアリウムを日本で最初に実施したのも当実験所でした。顕微鏡で見る小さなプランクトンやウニの幼生をテレビカメラに映して展示するもので、実験所は新しい試みを積極的に取り入れながら、海洋生物学の普及に力を入れてきました。水族館は近接した青森県営浅虫水族館にバトンタッチしましたが、大学実習で使用する顕微鏡や採集飼育機材を活用して、小中高校生あるいは学校の先生方をはじめ一般の方々に対する啓発活動を積極的に行っています。近年は、高校生も宿泊実習を行っています。ウミホタルやヤコウチュウなど発光プランクトンを採集、観察したり、自由時間に水辺で採集したウニを食べたり、またホタテガイのバーベキューなど、楽しいプログラムがたくさんあります。まずは海を好きになってほしい、海の学習はそこから出発、と考えています。形の面白いもの、行動の面白いもの、生き物であるかもわからないものなど、海洋生物を「人々の海への関心」を高めるための導入教材として積極的に活用しています。

生物相の豊かなセンター周辺

海洋生物学を実践するためには、教材となる生物種が豊かであることが必要な条件になります。青森県は3方を海に囲まれ、長い海岸線を持っていますが、センターのある青森市浅虫はそのほぼ中央に位置します。青森県の西側、日本海側では対馬暖流が北上し、暖海性の生物が見られます。東側、太平洋側は北から親潮が南下しており、北方性の生物が見られます。センターは陸奥湾に面しているので、内湾性の生物が多く生息しますが、秋になると対馬暖流の影響が強く出て、暖海性の生物が陸奥湾に入ってきます。日本海を北上して来たエチゼンクラゲが陸奥湾の中でも見つかることからも、対馬暖流の影響が及んでいることが分かります。南方系、北方系、また内湾性の生物たちを、日帰りで採集できる、観察に行ける条件を備えているのです。

興味を引き付ける実践海洋生物学教育をめざして

どこの海岸でも地域に特有の生き物がおり、観察するだけでも楽しいのですが、一歩進んで地域特有のテーマを見つけることもできます。たとえば、ホタテガイは陸奥湾では養殖が盛んで、子供たちは小さい時から身近でよく目にする、親しみのある海洋生物です。そこで、そのホタテガイの解剖を通してより詳しく知ることで、海に対する関心も深まります。
「ホタテガイはどのように移動するの?」「貝殻をパクパクと開閉して水流を起こして移動します」小学生なら素晴らしい答えです。しかし中学生以上に対してはさらに質問します。「それでは自分の進みたい方向に行けないね、どのように向きを変えるの?」。それに対して「足を支点にして方向転換する」「何かにぶつかれば向きが変わる」など楽しい答えが返ってきます。実際は、左右の貝殻の縁にある外套膜が、両側からカーテンのように貝殻の開閉で生じた水流をさえぎり、一部に穴をあけてそこから水流を噴出することで向きを自由に変えます。外套膜で体が包まれているのは、軟体動物の共通した特徴です。高校生になれば、ホタテガイにとどまらず、軟体動物の特徴にまで、大学生には他の動物門の海洋生物と比較した軟体動物の体制(細胞・器官などの分化の程度やその配置状態からみた生物体の基本構造)についてまで、解説が及びます。このように、海の生物は身近な生き物として、学ぶ者の年代や興味に合わせて、さまざまに学習を展開することができます。

海を知り、海を活用する拠点としての役割


■裸島の磯観察


■ウニの人工採卵を見つめる子供たち

当センター構内に干潮になると浅瀬をわたって上陸できる裸島という岩が突き出ており、海の生物学習の格好の実践の場となっています。北に位置する青森市は、海に出られる季節は短いのですが、宮城、山形を含む北東北各県からの大学や小中高校の利用があり、東京や埼玉など関東地方からの利用を合わせると、毎年延べ2,000人以上がセンターを利用して、この裸島周辺で、あるいはセンターの実習船でセンター周辺の沖に出て、海の生き物とその生息環境について学びます。また、海に出ない時間は室内で、ウニやホヤなど様々な海の生物に触れながら、発生や形態を学習します。ちなみに本年は6月から9月まで小学校から大学まで、合わせて20校の生徒、学生たちがセンターを利用しました。またセンターから出張講義、実習を行うこともあり、本年は青森県や秋田県の高校に7回の出張講義、実習を行いました。
センターの位置する陸奥湾も、あるいは地球全体も、すべての生き物たちの活動のバランスの上に成り立っていると考えられます。海は地球表面の約3/4を占めています。生命は海から発祥しました。生物環境として最も大きな比率を占める海洋は、今でも地球上のほとんどの動物門を含み、すべての生物種の約90% が海に生息しています。海と、そこに生息する海洋生物が地球上で大切な役割を担っていることが容易にわかります。私たちの健康で豊かな生活が維持されるためにも、海を考えていく必要があります。当センターは海洋生物との関係を通じて、「海の恵み」を紹介していきます。(了)

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