Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第272号(2011.12.05発行)

第272号(2011.12.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆10月25日から11月10日まで、第36回ユネスコ総会がパリで開催された。パレスチナの加盟が承認されたことから、米国は拠出分担金約8千万ドルを凍結するという一方的な宣言を行った。脱退はしないという。ユネスコの年間予算の五分の一を超える分担金を担う米国のこの措置で、今後、ユネスコの教育、科学、文化活動は大きな影響を受けるであろう。ちなみに、わが国は米国に次ぐ世界第二の分担金拠出国で全予算の12.5%を担っている。1980年代から2000年初頭にはユネスコの政治的偏向、報道の自由制限を理由として、英米両国がユネスコを脱退していたため、わが国が全予算の四分の一に及ぶ分担金を担ってユネスコ活動を支えていた。期せずして、今回はパレスチナ問題がわが国の存在感を再び強めることになる。
◆有限な地球資源の枯渇化、生態系の破壊、大気・海洋の汚染、気候変動、自然災害の巨大化・複合化、生物多様性の減少など、今日、私たちが直面しているのは、地球システムの持続可能性の問題である。この問題に貢献するためには、分科学としての「科」学では不十分であり、人文・社会科学を含めたすべての学問領域が連携する必要がある。このような視点から、今回、日本ユネスコ国内委員会は、「サステイナビリティ・サイエンス」の推進に向けて、ユネスコに対し独自の提言を行った。政府間海洋学委員会(Intergovernmental Oceanographic Commission)は機能的自立を確立しているが組織上はユネスコの中にある。「サステイナビリティ・サイエンス」の統合的視点から、世界海洋と沿岸域の理解と保全に向けた海洋調査、データ交換、これを推進するための途上国における能力開発などで、これまでにも増してわが国のリーダーシップが期待されている。
◆今号では秋元一峰氏が海上交通の要衝である南シナ海の海洋安全保障問題を取り上げている。これは、11月にインドネシアのバリ島で開催された東アジアサミットでも中心課題の一つとなったものである。有限な地球にあって、私たちが良き生を持続的に実現するには、それぞれの国家が国際ルールを遵守することが前提になる。わが国は理想主義に流れることなく、これを保証する戦略パートナーシップの構築を急がねばならない。経塚啓一郎氏は、臨海実習拠点として古い歴史を持つ東北大学浅虫海洋生物学教育センターの活発な活動を描き出している。亜寒帯の海から亜熱帯の海まで、南北に長く延びる日本列島は、海の生物多様性を理解するには最適のロケーションにある。それぞれの地域に根ざした海洋教育拠点が、相互に連携して世界をリードする教材開発を行うことを期待したい。内山純蔵氏は多くの貝塚が今回の東日本大震災の被害を免れたことから、縄文人の自然との共生の知恵に学ぶことを提唱している。自然への畏敬の念を持って海の幸と山の幸を巧みに活用する生き方である。これはまさに森、川、海を良き生をめざして統合的にとらえようとする動きと軌を一つにするものである。(山形)

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