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Ocean Newsletter
第26号(2001.09.05発行)
- 防災都市計画研究所名誉所長◆村上處直
- 長岡造形大学教授◆平井邦彦
- 岡山県玉野市長◆山根敬則
- 静岡県総務部防災局災害対策室長◆杉山峯男
- ニューズレター編集委員会編集代表者((社)海洋産業研究会常務理事)◆中原裕幸
海洋および河川を利用した防災支援システム
長岡造形大学教授◆平井邦彦陸海空が有機的に連携した広域的輸送ネットワークの整備は、地震対策の大きな課題である。大都市が立地する大平野には大小無数の河川が流れ込んでおり、これらの河川ルートを海上ルートの延長として位置づけ、より効率的な輸送ネットワーク整備を進めることが必要である。
陸海空一体の災害対応オペレーション
阪神・淡路大震災(1995年)の大きな無念の一つは、あれだけの海、港湾施設、オープンスペースそして広大な空がありながら、陸海空をあげての災害対応がなされなかったこと、できなかったことである。陸海空の各ルートは、災害対応に懸命の努力をしたが、しかしそれは個別ルートの最適解の追求であり、3ルートが一体となって威力を発揮するものではなかった。耐震岸壁は、ヘリの離着陸や荷捌きや大量の人間の宿泊できるオープンスペースとそこにつながる道路が一体となって確保されてこそ耐震岸壁なのである。神戸の耐震岸壁はみごとに残ったが、その他の条件は何一つ満たされなかった。
震災直後から、陸海空が一体となった広域的輸送ネットワークの整備は官民をあげての大きな課題となった。いずれも旧称だが国土庁、運輸省、建設省、消防庁は95、96年度に国土総合開発事業調整費調査「東京圏における防災空間ネットワーク形成推進方策策定調査」を行い、都県を越える首都圏レベルの広域支援等の防災活動の拠点としての「首都圏防災拠点の整備」、「河川を活用した緊急輸送ネットワークの整備」、「港湾の防災活動拠点としての活用」、「生活用水の確保・供給」の4つのテーマを設定した。
この動きと並行して大きく浮上したのが超大型浮体構造物のメガフロートである。土地に代わる人工地盤を浮体で作ろうという発想はすでに20年以上前からあったが、90年代に入ってからは運輸技術審議会の答申もあり研究・開発が大きく進んだ。阪神・淡路大震災で陸上の構造物が大被害を受けるなか、造船所の浮体ドックは無被害であったことも注目され、この年に造船・鉄鋼17社による技術研究組合がスタートした。メガフロートは港湾機能を備えてしかも移動可能であり、河川を活用した緊急輸送のネットワークを支える首都圏の「海上広域防災拠点」となりえるものである。長さ300m×幅60m×厚さ2mの中空の大型浮体構造物が横須賀港沖に浮かべられて実証研究が行われた後、99年夏には6つのユニットをつなぎ合わせて、長さ1000m、幅60m(一部120m)、厚さ3m(喫水1m)のメガフロートが出現した。
このメガフロートでは各種研究の一環として防災拠点および海上空港としての機能検証のための実証試験も行われた。メガフロートは各種研究や実証試験を終えて2000年秋には解体され別途利用が進められているが、大阪港、名古屋港、横浜港には千トン級の貨物が接岸でき、ヘリポートにもなる浮体式防災基地・ミニフロートが配備された。大阪港配備のフロートの甲板は80m×40mの広さである。
河川活用については、前述の調整費調査の他に(社)海洋産業研究会(海産研)が震災直後から「海洋・河川からの防災支援システム」の研究を進めているが、これに関しても大きな可能性があること明らかになってきた。2000年度の海産研レポートによれば、河川に関して船長16m程度、物資満載状態の喫水1.5~2m、物資未積載時の水面上の高さを3m程度と想定し、橋梁の桁下クリアランス3m以上、干潮時・渇水期において水深2m以上を維持する水域の幅が20m(回頭を考慮)を遡上限界点とすれば、河口からの航行可能距離は東京湾では荒川29km、江戸川22km、多摩川10km、鶴見川9kmである。この中でも最も活用可能性が大きいのは荒川である。荒川では現状でも旅客定員206人、満載時の喫水1.25mの水上バスが河口から34kmの地点まで運行されている。
また国土交通省は、建設省時代から平常時の舟運推進と地震等の緊急時対応用施設整備として、河口から30kmの間に左岸・右岸共に各6カ所での「荒川リバーステーション整備計画」を進めている。災害時の河川活用には安全の確認・確保という大きな課題があるが、この課題を克服し人員・物資の一大輸送ルートを形成していくことが期待される。
高齢化社会が開く新しい都市舟運
災害時の河川ルートの活用、整備には平常時利用の活発化が不可欠である。新しい河川水運、海上水運は生まれるであろうか。
いささか唐突だが、私は最高時速6キロの電動三輪・四輪車が新しい舟運を生み出すとみている。私の郷里の田舎では母が愛用していたし、今は91才になった父が後を引き継いで活用し、買物、病院、会合等にトコトコと出かけていく。東京でも長岡でもよく見かけるようになった。歩道での走行しか認められていないのに平気で車道を走っている。遠からずものすごい数の電動車がまちにくり出して来ることは確実である。最初は日常生活圏での利用であろう。だが、東京湾岸沿い、大河川沿い、江東デルタ地帯など縦横に走る内部河川沿いに住む膨大な数の電動車愛用の高齢者は、やがて浅草に、銀座に、ディズニーランドに、横浜のMM21や中華街に行き、自分の愛用車で走り回りたいと思うようになるであろう。舟運を活用すればそれができる、いや舟運でなければそれはできないのである。
高齢者と電動車をのせた大小の無数の船が海上と河川を行き交う姿を、われわれは10年もしないうちに見ることになるでろう。船には自転車と一緒の若者や子どもも一緒にいるはずである。(了)
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