Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第261号(2011.06.20発行)

第261号(2011.06.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所・教授)◆秋道智彌

◆6月2日、菅政権の不信任決議案が否決された。同夜から翌朝にかけてのテレビ・新聞報道に登場した被災地からの声は、ほとんどが「いまそんなこと(やめる時期)を考えている場合ではないでしょう」というものであった。現場の声と政府の対応がこれほど乖離していることを歯がゆく思う人もおおいにちがいない。たしかに、総論は一刻も早い復旧・復興であるが、個別の場や地域でどうするのかについてはなかなか先が見えていないのが現実だ。
◆茨城県久慈町の海の男、小泉光彦さんは今後の復興と水産業の再興をにらんだ融資制度を含むいくつもの提案をされている。融資制度を特例化することに難色を示す政治家や行政担当者も少なからずあるにちがいない。水産業全体が多額の借金をかかえることになったことで、困窮する生活者にたいして国や地方行政がいかに予算を捻出し、配分するかという実務的な検討が余儀なくされている。だが、地元と地域の思いを共有することなしにほとんど事態は好転しない。
◆東日本の漁村を歩いたフリーライターの新美貴資さんは、産業としての水産業を生産から加工、流通までの一環した流れのなかで捉える必要性のあること、漁具や漁船だけが元どおりになればよいと考えることの陥穽を訴えておられる。水産業が、さまざまな人的・産業的な連関のなかで成立することはいうまでもない。このことは、水産業だけでなく農業や畜産業についてもあてはまることだ。福島原発の風評被害による産業への打撃がそのことを物語っている。縦割りの考えだけでは到底、有効な施策が実現できないことを今回の震災を通じて問い直すべきだ。この点で、総合的な沿岸管理を謳ってきた海洋基本法の精神を具体的なプランとして提案することが喫緊の政治課題となるだろう。
◆愛媛大学の田辺信介さんは、原発による放射性物質の流出にふれ、海の化学汚染がのっぴきならない状況にまで進みつつあること、セシウム、ヨウ素だけでなく、ゴミとして海に流出したPCBだけでなく震災により発生した大量のゴミの低温焼却に伴うダイオキシンの発生、さらにはアスベスト、流出した医薬品による感染症など、複合的な海洋汚染源への対策を講じる必要性を訴えておられる。海に流せば、汚染物質は希釈、拡散される、ゴミは燃やせばよいという安直な論は通用しない。鯨類を頂点とする海洋生態系に深刻な悪影響がおよぶわけであり、水産業を産業の連鎖のなかで理解するのとおなじように、海の連鎖を念頭におくべきとする警句を真摯に受け止めなければならない。
◆災害復興特別融資制度、わが国による有害物質対策の世界への発信、地元の水産業者への具体的な支援策の提案は本号が強くアピールする3つの論点だ。霞ヶ関の官庁前で「宝の海を返せ」と訴える漁民の声がこの先、一刻も早く受け容れられることを切望したい。(秋道)

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