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オーシャンニューズレター

第258号(2011.05.05発行)

第258号(2011.05.05 発行)

東日本大震災と海洋の総合的管理~漁業の6次産業化と内水面漁業権の海への拡大~

[KEYWORDS] 震災復興/第5種共同漁業権/海洋牧場
横浜国立大学名誉教授、放送大学教授◆來生 新

漁業の第6次産業化を促進することが、東日本大震災の復興に資すると考える。
震災被害を受けた漁業地域は、リアス式海岸を主とし、その相当部分は内水面である湖沼等に類似しており、これら地方の復興に資する手法として、これまで内水面に限られていた第5種共同漁業権を海に適用可能にすることを提唱したい。

はじめに

平成22年11月、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化法)が制定された。第一次産業である農・漁業に、第二次産業の加工業の要素と、第三次産業としてのサービス業の要素を加え(乗じて)、6となるので、農水産業を6次産業として新たな展開を図るものである。漁業についていえば、マリンレジャーを通じて、漁業者と漁業集落への来訪者の意思の疎通を図ることにより、第6次産業としての漁業を発展させるための法である。
今回の東日本大震災は、東北地方のリアス式海岸に存在していた、漁業を主要産業とする多くの地方公共団体に大きな被害を与えた。これらの各自治体で大震災以前と同じように漁港を整備して、以前と同じように漁業を行うことが難しくなる可能性については、すでに前稿※1で検討を加えた。
本稿では、六次産業化法で示された政策を前提にして、これらの地方の復興に資する手法として、これまで内水面に限られていた第5種共同漁業権を海に適用可能にすることを提唱したい※2。

従来の第5種共同漁業権の特徴

第5種共同漁業権は、内水面において、第1種共同漁業権の対象である藻類、貝類または定着性の水産動物を目的とする漁業以外の漁業をすべて含むものであり、第2種から第4種共同漁業に該当する漁業にとどまらず、浮き魚を目的として一定の水面を共同に利用して営まれる漁業すべてについて対象となる漁業権である(漁業法6条5項5号)。
内水面に関する漁業権を第5種共同漁業権として、海面に関する漁業権と区別し、漁業調整の方式を海面と別にする理由は以下のようなことだとされる※3。
(1)海面より自然的な豊かさが劣り、立地条件から水産動植物の採捕が容易であるため、多数の採捕者による乱獲で、資源が枯渇しやすいこと。
(2)内水面を生業の場とする漁業者の数が少なく、兼業者が多いため、漁業権者以外の遊漁者も多いという公共的性格が強いこと。
内水面においては、第5種共同漁業権はすべて協同組合に免許され、組合は資源の増殖義務を負い、内水面の漁場管理を行い、内水面の資源の維持増大および有効利用を図る。また、その漁場内で行う漁業権対象魚種の採捕(遊漁)については、都道府県知事の認可を受けて遊漁規則を定め、一定の制限を行うことができる。遊漁規則には、遊漁料、遊漁承認証、遊漁期間等が定められ、この規則に従わない遊漁はできない。

特定の海域における第5種漁業権設定への立法的提案


■気仙沼港の漁船(写真:宮城県観光課)

筆者は、漁業とレジャーの新たな関係を構築し、漁業の第6次産業化を促進することが、東北・関東大震災の復興に資すると考え、以下のような提案をする。現在、内水面においてのみ認められている第5種共同漁業権を、内水面と同一視し得る海面に適用することを可能にする法改正をする※4。当該改正は、海についても、現行法と同様、第5種漁業権を持つ漁業協同組合に資源の増殖義務を負わせると同時に、知事の認可を前提とする遊漁規則による遊漁規制を行う権限を与えるものとする。このような提案をする理由を以下に整理する。
昭和25年の漁業法施行時と異なり、近時、遊漁者数は海域で増大し※5、遊漁者は高性能な船舶等を利用し、地域によっては、漁業者よりも遊漁者の漁獲量が上回る状況がある※6。遊漁者と漁業権者の紛争も多く、その調整が問題となっている。遊漁との関係で、今や内水面と海面を区別する実質的な理由は消滅している。
このたびの震災被害を受けた漁業地域は、リアス式海岸を主とし、その相当部分は内水面である湖沼等に類似している。そこでの本格的な漁業の復興が望ましいが、漁業従事者の高齢化、人口減少の下で発生した今回の被害は、これらの地域での従来型の漁業の再建を困難にする可能性を高くしている。
紙幅の制約もあり、詳細な検討はできないが、このような地域で行政と一体となった資源管理を行いながら、特定の海面を海洋牧場として地域の漁業者が管理し、海域の環境保全と資源管理と観光とを一体的に行うことを可能にするために、第5種共同漁業権の在り方を見直すことには大きな意義がある。遊漁者も資源管理の費用負担をして、震災の復興に協力することにはやぶさかではないと考えるし、瀬戸内海等、この方式を適用しうる海域は全国に多く存在する。この改革を通じて漁業の第6次産業化を促し、沿岸域の総合的管理の一類型としての漁業協同組合主導型管理を実質化すべきである。(了)

※2 現在、内水面ではあるが、琵琶湖漁業と霞ヶ浦漁業は、漁業法で「海面漁業」と同じ扱いを受けている。それと逆に、海面であっても内水面と同じような状況にある水域について、第5種漁業権を海に拡大すべきと考える。後掲註4参照。
※3 漁業法研究会著『最新 逐条解説漁業法』(水産社、2008年改訂版)464頁
※4 現在でも、狭い入口で海面につながる閉鎖的海面については、湖沼に準じた取り扱いをすることが妥当として、大臣の指定する海面である久美浜湾、与謝海については、第5種共同漁業権が付与されているが、内水面漁業に関する漁業法第8章の規定は適用されないこととされている。(昭和38年7月1日26水漁第448号漁政部長「増殖義務のない第5種共同漁業権の性格について」)。筆者の主張は、増殖義務を与え、資源管理を行い、遊漁の管理をも行う権利としての第5種漁業権を内水と同一視し得る海にも認めよということである。
※5 2003年時点で、内水面の遊漁者延人数958万人、遊漁案内業者を利用した遊漁者数1,198万人。2003年漁業センサス概要
※6 平成20年度水産白書 (5)海洋環境等をめぐる状況 エ 遊漁の状況 より。

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