Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第241号(2010.08.20発行)

第241号(2010.08.20 発行)

海の世界の人づくり

[KEYWORDS] 国連/人材育成/UNCLOS
日本財団 海洋グループ長◆海野光行

私たち人類は、海を守り、秩序を保ち、持続可能な状態にして、将来に海をつなぐという責任を負っている。
日本財団は、世界有数の海洋専門研究機関や大学、各国の政府、NGO、そして国連関係機関と連携して、地球規模の重大な役目を担える人材を育てるべく「海の世界の人づくり」事業を展開している。そうして生まれた人のつながりが、21世紀の新しい海洋秩序を生み出す力となっていくことを期待している。

国連会議での発表


UNICPOLOS会議の模様(国連、ニューヨーク)

今年6月21日から25日の5日間、ニューヨークの国連本部で「海洋と海洋法に関する国連非公式協議プロセス第11 会期(以下、UNICPOLOS)」が開催され、64カ国およびEU、25の政府間・専門機関等、11のNGOなど約400名が参加して行われた。UNICPOLOSは、1999年の国連総会決議により導入された海洋問題や海洋法について唯一、各国代表とNGOが一堂に集まり、議論が行われる場である。その会議の内容は、各国の合意の上、国連総会決議にも盛り込まれる。2000年から毎年開催され11回目を迎える今回は、海洋・海洋法ならびに海洋科学に関するキャパシティ・ビルディング(人材育成・能力構築)をテーマに、参加各国や各機関から様々な意見や提案が発表、議論された。日本財団はこれまで民間のNGOとして海洋の人材育成に深く関わってきており、今回のUNICPOLOSは私たちの活動理念と実績を各国と改めて共有する好機であったことから、Segment 4の「New approaches, best practices and opportunities for improved capacity-building in oceans and the law of the sea」において発表を行った。ここでその内容の一部をご紹介させていただく。

発表内容(一部抜粋)


国連-日本財団フェローシッププログラム アジア地域卒業生会議(東京、2008年)

『周知のとおり1994年に発効した国連海洋法条約によって、海洋をめぐる新たな国際的枠組みができ、各国はこの理念に基づいてそれぞれの海洋の管理、保全、利用に向けた取り組みを行うこととなった。しかし、それから16年が経過した今、世界の海を見渡してみると依然として様々な問題が起きており、これらを根本的に解決する方策を見出せていないのが現状である。高度に発達した科学は多様な技術を生み出し、海洋に関する各分野の研究を飛躍的に進歩させたにもかかわらず、こうした科学的知見が海洋の総合的管理に十分に活かし切れていない感は否めない。さらに専門分化し過ぎた技術の先行は、結果として多様なつながりの総体として成り立っている地球環境に深刻な影響を与えているのではなかろうか。地球規模の海洋問題の解決には、これまでの偏った分野だけの専門的・閉鎖的な議論だけでは不十分と言えよう。水という媒体を通じて国境を越えてつながっている海という存在について考えるとき、それぞれの国や組織単位、あるいは分野毎のアプローチでは対処しきれないことは、いま世界の海で起こっている問題を見れば自明である。例えば、新しく発見される深海底資源の開発利用が、これまでに人類が想定していなかった法的、政策的な問題を投げかけているならば、私たちは今までに無かった新鮮で柔軟な考えと人類の知恵をもって取り組まなければならない。また、人類の欲望が、魚資源の枯渇や海の複雑な生態系というバランスを壊すのであれば、海からの視点を持ちながら、利害関係と専門領域を超えた議論を行い、次世代に海を引き継ぐ方策を考えなければならない。21世紀、人類にとって海洋の問題とはその存続に関わる重要な問題と同義といっても過言ではない。私たちはその解決の糸口を、政治、経済、法律、生物、工学などの学問領域や、産業界、非政府組織、国レベルなどそれぞれの枠組みを超えた「つながり」に見出すことはできないだろうか。この「つながり」の礎になるのは人であり、「人のつながり」をいかに作りあげるか、これこそが私たちのような公益セクターの果たすべき役割ではないかと考える。日本財団は、これまでのような専門分野に特化した伝統的な人材育成ではなく、分野を超えた俯瞰的な視点で問題を捉えることができる人材を育てることが、海洋に関する問題の解決に有効な手立てだと考えている。そして、同時に、そのような人材による利害関係を越えた横串的な「人のつながり」を支援することが重要だと認識している。時間はかかるが、一個人が広い視野を持つこと、また海の問題に関して様々な意見が自由に語られる場を構築し、同時に時間をかけて「人のつながり」を作って行くことが、複雑化する海の問題を解決する一番の近道になるのではと考えている。その地球規模の重大な役目を担える人材を育てるべく、現在、日本財団は、世界有数の海洋専門研究機関や大学、各国の政府、NGO、そして国連関係機関と連携して「海の世界の人づくり」事業(98カ国、640名を輩出)を展開している。今後は各プログラム間、そして他分野への「つながり」へと発展させ、いくつかの人材育成事業が複合的に絡み合う場を作っていければと思っている。そしてこうした人のつながりが、21 世紀の新しい海洋秩序を生み出していく力となっていくことを期待している・・・』

各国のコメント

これに加え、国連法務部海事海洋法課(DOALOS)、世界海事大学(WMU)、国際海洋法裁判所(ITLOS)などへの奨学事業の紹介を行った。今回の発表では、特に分野を超えた俯瞰的な視点で問題を捉えることができる人材を育てること、そしてこれら人材の組織を超えた横串的な「人のつながり(インターリンケージ)」の構築を目指すことを強調した。こうした私たちの発表に対し、参加各国や各機関からこれまでの日本財団の取り組みと実績を評価し、さらなる活動を期待する多数のコメントが公表された。バハマ、ブラジル、コモロなどが私たちの人材育成に対する好意的なコメントを発表し、ヨーロッパ連合は、受益者側ではない、支援者側から、私たちのプログラムへの賛同のコメントを発表した。これらのコメントは議長報告にも明記され、日本財団の活動とともに国連総会の決議書に反映される予定である。また、会議場外においても十数カ国の代表から評価のコメントをいただいた。何より、前述の人材育成プログラムの卒業生が、今や各国の海洋行政を担う人材に成長し、会議では6 名の各プログラム卒業生が、それぞれ政府代表として参加していたことは、道半ばではあるが、今までの取り組みについて実質的な達成感を持つことができた。

まとめ

人類の生活は海に支えられているにもかかわらず、現在、私たちの海洋活動は自然の生態系を破壊するまでに肥大化し、海を人間の欲望のゴミ捨て場にしつつある。無限ではない海をこのまま利用し続ければ、私たちの世代で使い尽くしてしまうかもしれない。海は今や当たり前にそこに存在するものではなくなっている。現代に生きる私たちは、海を守り、秩序を保ち、持続可能な状態にして、将来に海をつなぐ責任を負っているとすれば、その鍵を握っているのは、私たちの先を見据えた行動であり、「海の世界の人づくり」もそのひとつではないかと考えている。(了)

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