Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第241号(2010.08.20発行)

第241号(2010.08.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆夏休みに入り、各地の浜は海水浴やマリン・レジャーを楽しむ人びとで賑わっている。今年7月、長崎市柿泊にある定置網にシュモクザメがかかり、ちかくの海水浴場が閉鎖される騒ぎがあった。シュモクザメは英語でハンマーヘッド・シャークとよばれるように、頭部がかなづちの形をしている。おとなしいサメかといえばけっしてそうではなく、以前に熊本ではこのサメのために若い命が失われている。海はさまざまな生き物の生活の場であり、漁業や海上輸送、海水浴だけの空間ではない。
◆「海と人間との共存」と口でいうのは簡単だが、実態はそう易々と実現できない。海と人間の話の前に、海における人間と人間の共存も大きな課題である。日本海難防止協会の濱野勇夫さんは漁業と海運業セクターとの安全確保、海域利用上の相互理解が必要な分野だと指摘されている。これを具体的な体験学習を通じて実現する試みは端緒についたばかりという。ただし、海での調整は異業種間だけとはかぎらない。水産業と遊漁者やマリン・レジャーを楽しむ人びととの間でも、これまでルール作りや規則、マナーの向上をめぐって、全国の都道府県でさまざまな取り組みがなされてきた。
◆日本財団海洋グループ長の海野光行さんは、海の世界の人づくりに長期的な展望をもって取り組むべきとの構想を提案されておられる。海の上での紛争はとても多分野に及んでいる。相互理解、調整や合意形成のためにも、俯瞰的に物事を考えることのできる人材が不可欠となるが、おいそれとは育成できない。だからこそ、長期ビジョンにたったマスタープランが必要なのだ。韓国や中国が海に向けるまなざしをおもうにつけ、この提案は早急に進めるべきだ。
◆東京海洋大学の河野博さんが取り組んでおられる江戸前での持続的発展に向けた研究と教育は、地味だが着実な成果をあげておられる。教育にしろ相互理解にしろ、鍵となるのは人だ。人抜きに海を語ることはできない。ほどなくして、短い夏が過ぎる。100年前と100年先の海を考える豊かな想像力をみんなで育んでいければとおもう。(秋道)

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