Ocean Newsletter
第240号(2010.08.05発行)
- 内閣官房 総合海洋政策本部事務局 内閣参事官◆金澤裕勝
- 山形県庄内総合支庁保健福祉環境部環境課海岸漂着物対策主査◆小松弘幸
- ハウステンボス株式会社 アクティビティセンター◆大熊 豪
- インフォメーション
第3回海洋立国推進功労者表彰の受賞者決定 - ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形 俊男
山形県庄内総合支庁の海洋への取り組み
[KEYWORDS] 海浜の利用調整/「庄内海岸を利用する際のマナー」/沿岸域の総合的管理山形県庄内総合支庁保健福祉環境部環境課海岸漂着物対策主査◆小松弘幸
山形県庄内地域の海浜利用調整への取り組みから、沿岸域の総合的管理に関する連携体制の構築の重要性を確認した。国、県、市町、民間団体等、関係者が当事者意識を持って取り組むことが必要であり、その意見交換の場や実施も含めて海洋に関する組織が不可欠である。このような関係者間の連携体制を強化することが沿岸域の総合的管理に結びつくこととなる。
山形県は村山、最上、置賜(おきたま)、庄内の4つの地方に分かれ、それぞれの地方に総合支庁が置かれている。県内中央には最上川(流路延長約229km)が流れ、一つの都府県のみを流域とする河川としては、国内最長となっているのが特徴である。また、県の北西沖には離島である飛島がある。海岸地形として特徴的なのは、北半分は砂浜海岸、南半分は岩石海岸となっている。

川南砂丘全景。2003年撮影。
(写真提供:庄内総合支庁森林整備課)
山形県庄内総合支庁は、海岸線全域を管轄区域とする山形県の総合出先機関となっており、構成市町は鶴岡市、酒田市、三川町、庄内町、遊佐町の2市3町で、県土面積および人口の約1/4を有する地域である。
庄内地方の北部の酒田市は江戸時代から、北前船による積出港として他地域との交流が盛んな商人の町として、南部の鶴岡市は酒井家十四万石の城下町として賑わい、発展してきた。また、酒田市以北では、当時から海岸沿いに長距離間続く砂丘による飛砂被害を防ぐため、砂丘に防砂林としての松を植樹してきた。このため、今日では砂丘は松林で覆われ、防砂の効果により背後地での稲作などの農業を可能にしている。
山形県沿岸域における海洋等に関する取り組みを少し紹介させていただく。
山形県沿岸域総合利用推進会議
山形県では、平成5年にハード事業整備などの推進を図るための意見交換、協議検討、その他必要な事業を行うことを目的として「山形県沿岸域総合利用推進会議」が設立された。現在は、開発を目的とする取り組みの推進から、県沿岸域の総合的利用促進にどのように取り組んでいくべきかという沿岸域の総合的な利活用の促進を目的としソフト事業に取り組んでいる。委員は沿岸2市1町の長(委員長は鶴岡市長)、庄内総合支庁長からなり、さらに特別委員として、関連部局の長(東北地方整備局酒田港湾事務所長、庄内森林管理署長、酒田海上保安部長、東北地方整備局酒田河川国道事務所長)が置かれている。これまでの主な事業としては、i)沿岸域の利用促進を目的とした地域情報をまとめたマップ作成、ii)環境学習推進を目的とした啓発事業、iii)地域住民主体のソフト事業への支援、iv)海水浴場の安全対策に関する啓発事業を行っている。
庄内海岸を利用する際のマナーの策定
山形県沿岸域でも、他地域と同様、様々な利用が輻輳しており、その利用については利用者の自主性に任せられていた。しかし、利用者のモラルの低下からか、水上オートバイと遊泳者の衝突による人身事故が発生するなど、何らかの利用ルール(マナー)が必要ではないかと考え、山形県沿岸域の総合的な利用促進を図ることを目的としている「山形県沿岸域総合利用推進会議」(県、沿岸市町、国関係機関により構成)が主体となり、神奈川県沿岸地域で取り組まれている「海・浜のルール」を参考に山形県庄内地域の海・浜のルール作りに取り組んだところである。
山形県沿岸域総合利用推進会議で庄内海岸の利用マナーを策定する際の基本的な考え方は以下のとおりとした。

■庄内海岸を利用する際のマナー
海岸の区域と利用目的に応じて、「禁止事項と遵守事項」と「利用に関するお願い(注意事項)」が図示される。
- 趣旨・目的
海・浜を利用する方々の安全と沿岸域の環境を守るためのもの。禁止・遵守事項以外は、利用者間の紳士協定的なもの。マリンスポーツ等の利用を排除するものでなく、安全に楽しむことにより、利用を促進するためのもの。 - 海面利用に関して制限を加える事項について
海の自由使用の原則に基づき、海面、砂浜の利用を制限するマナーの設定は極力行わない。 - 利用区域のゾーニングについて(利用可能区域としての設定)
海面の利用可能区域として設定した場合、その区域における利用が許可されていると誤認される可能性があり、利用者同士の無用のトラブルを誘発する可能性があるため設定しない。 - 海水浴場の安全管理について
海水浴場区域については、遊泳者の安全を第一とし、ある程度の利用除外区域を積極的に周知、啓発。 - 水産業の保護について
密漁とされる行為については、広く啓発周知する(密漁と知らないでその行為を行っている人がいないことを目的とする)。 - 法律等に基づく禁止事項とローカルルールの周知
してはいけないこと、および必ずしなければならないこと(禁止事項と遵守事項)と利用に関するお願い(注意事項)を明確に分かるようにする。
これらの考え方を基本とし、国、県、市町の関係者と利用者から意見を聴く場を設け、『庄内海岸を利用する際のマナー』としてまとめ、平成21年度から周知・啓発を図ったところである。山形県沿岸域総合利用推進協議会では、平成22年度以降もこの『庄内海岸を利用する際のマナー』の周知を図り、安全にそして快適に庄内海岸を利用していただきたいと考えている。
沿岸域の総合的管理に向けて
『庄内海岸を利用する際のマナー』の策定を通して、沿岸域の総合的管理について地方公共団体職員の立場から考えてみる。
山形県庄内地域において取り組んだマナー作りは海洋基本計画における沿岸域の総合的管理の利用調整に該当するが、このような利用調整には、国、県、市町、民間団体等の連携、関係者が当事者意識を持って取り組むことが必要であり、その意見交換の場や実施も含めて海洋に関する組織が不可欠である。幸いにして山形県庄内地域には「山形県沿岸域総合利用推進会議」という既存組織があるため、利用調整に取り組むことができたと考えている。その他にも庄内地域においては、沿岸域に関する組織として、美しいやまがたの海プラットフォーム(海岸漂着物に関する地域の情報共有、普及啓発等を行う団体。詳細は本誌230号参照)山形県海岸漂着物連絡調整会議(注射器等危険物が漂着した自治体等の初期対応を協議する場)などがあり、海洋に関する取り組みを行っている。
今後、地方公共団体が海洋基本計画の「沿岸域管理に関する連携体制の構築」に取り組んでいくには、このような組織を充分に活用し、関係者が意見交換を行える場の設立がますます重要になってくるものと考える。(了)
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