Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第240号(2010.08.05発行)

第240号(2010.08.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形 俊男

◆本誌234号で注意を喚起したが、インド洋の海水温の上昇に伴ってフィリッピン周辺に生じた高気圧がその西縁に沿って運び込んだ大量の水蒸気によって、西日本は豪雨に見舞われ、多くの被災者を出してしまった。海洋の広域現場観測、宇宙からの海洋観測、スーパーコンピュータによる予測技術、この三つの基盤技術の発達により、季節予測の精度は著しく向上した。しかし、予測情報がまだ充分には社会で活用されていないのは残念なことだ。
◆今号では5月に成立した低潮線保全・拠点施設整備法について金澤裕勝氏が解説する。この法律は名称だけではその意味するところが分かりにくいので、少し歴史を振り返ってみよう。1951年のサンフランシスコ講和条約において、わが国は南シナ海の南沙諸島(かつては新南群島と呼ばれた)と西沙諸島の領有権を主張してはならないとされた。その後、豊かな漁業資源に加え、1970年代に発見された海底油田の確保を目指して、空白域を埋めるべく、ベトナム、フィリッピン、マレーシア、ブルネイ、台湾、中華人民共和国などがその領有権を主張し、南シナ海は世界で最も管理しにくい海になってしまった。実効支配がまかり通ってしまう現実の国際社会にあって、沿岸国が資源開発や管理の主権を有する排他的経済水域の基点となる低潮線を保全する法を整備することは、無人島の多いわが国にとって極めて重要なのである。法の遵守を国際社会に徹底させる意味からも、わが国はこうした面でイニシャチブを取ってゆかねばならない。
◆今号ではさらに河口や沿岸の管理に関して、二つの視座からのオピニオンが揃った。小松弘幸氏は山形県庄内地方において官が仲立ちする総合的な啓発事業について解説している。一方、大熊 豪氏は長崎県大村湾の早岐瀬戸で子供たちと久しく展開してきたカブトガニをいとおしむクラブ活動について紹介している。沿岸域の管理には持続性が大切である。官と民が緊密に連携し協働する試みが全国を覆う大きなうねりに成長することを期待したい。(山形)

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