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オーシャンニューズレター

第206号(2009.03.05発行)

第206号(2009.03.05 発行)

フランスにおける海洋政策の動向 ~海洋および沿岸域の統合的管理と海洋保護区~

[KEYWORDS] 環境グルネル/統合的管理/海洋自然公園
海洋政策研究財団研究員◆遠藤愛子

2007年5月にフランス大統領に就任したニコラ・サルコジ大統領は、選挙公約として掲げていた経済成長・雇用創出と、環境保全を両立させ持続可能な開発を実現させるため、「環境グルネル」政策を実施している。
この政策の枠組みのもと推し進められているフランスの海洋および沿岸域の統合的管理政策と、2007年に開始した新たな海洋保護区政策を紹介してみたい。

環境グルネル

2007年5月にフランス大統領に就任したニコラ・サルコジ大統領は、選挙公約として掲げていた経済成長・雇用創出と、環境保全を両立させ持続可能な開発を実現させるため、「環境グルネル※1」政策を実施している。第1ステージとなる2007年7月より10月には、政府・地方自治体、有識者、市民団体、企業、労働組合らが参加した「環境グルネル」会議が開催され、気候変動対策、生物多様性・自然環境の保全、健康リスクの防止、交通・輸送、建物・都市計画、エネルギー、農業問題等について討議がおこなわれた。第2ステージとなった2007年11月から2008年7月には、「環境グルネル」会議で確認された課題に取り組むため、35の実行委員会が設置され、法的措置を含む具体的方策が検討された。その結果、2008年10月には、「環境グルネル」政策の目的を含むフレームワークを定めたグルネル実施法Iが国民議会で可決され、2009年度中には、具体的方策をまとめたグルネル実施法IIが制定される見込みである。
また、「環境グルネル」会議に先駆けて、2007年6月に、これまでの「エコロジー・持続可能開発および国土整備省」からその所轄範囲を拡大させた「エコロジー・エネルギー・持続可能開発および国土整備省」と、その外局にあたる「海洋保護区庁」が創設された。さらにフランスは、2008年7月1日より半年間、12回目となる欧州連合(EU)議長国に就任し、議長国体制のもと、10月にトゥーロン、マルセイユにおいて、海洋に関する国際会議「Biomarine」を、12月にはブレストにおいて、「2012海洋目標:欧州海洋戦略と公海における課題」と題する国際セミナーを開催した。
フランスは、世界第2位の排他的経済水域をもち、その大半(97%)が海外領土に属している。それ故、さまざまな海洋問題を解決するためには、海外自治体の固有の地理的・法的背景を考慮するとともに、国内レベル、EUレベル、地域レベル、国際レベルにおける法的背景を踏まえて検討する必要がある。本稿では、「環境グルネル」政策の枠組みのもと推し進められているフランスの海洋および沿岸域の統合的管理政策と、2007年に開始した新たな海洋保護区政策を紹介してみたい。

法的背景

国内の海洋および沿岸域の統合的管理と、海洋保護区政策を推し進めるうえで考慮された、国際、地域、EUレベルの主な法的背景を表にまとめた。複雑かつ急速に変化するこれら法的背景との整合性が図られている。

グルネル

海洋および沿岸域の統合的管理

第1ステージとなった環境グルネル会議において確認された海洋および沿岸域の諸問題を解決するために、統合的アプローチの必要性が認められた。そこで、第2ステージとなった2008年1月から6月までの間、海洋および沿岸域の統合的管理を専門に扱う実行委員会が設置され、グルネル実施法案に海洋に関する条項を設けるための作業がおこなわれた。具体的な検討項目は、(1)生態系アプローチに基づく統合的管理(沿岸域統合管理、海洋保護区等)、(2)漁業資源の持続可能な管理(遊漁、エコラベル、個別割当制度)、(3)陸上活動に起因する海洋汚染の削減と防止(採掘制度、漂流・漂着ゴミ、港湾活動等)についてである。実行委員会が作成した法律案には、第1に、国家海洋・沿岸域戦略ガイドラインを2010年までに策定すること(計画の策定)、第2に、国家レベルでは国家海洋・沿岸域審議会を設置し、地域レベルでは海洋・沿岸域審議会を設置すること(多機関調整)、第3に、海洋・沿岸域管理国家基金を創設すること(資金調達)が盛り込まれた。
このようにフランスでは、これまで存在しなかった統合的アプローチに基づく国家的枠組みの創出と、国と関係自治体が共同で施策を展開するための地方分権化の動きがみられる。

海洋保護区政策

■ フランスの海洋保護区

フランスでは、1976年に制定された「自然保護に関する法律」に加え、新たに2006年「国立公園・海洋自然公園及び地方自然公園に関する法律」が制定された。法律で定義されている海洋保護区(以下、MPA)のタイプ、設置数、広さを表に示した。将来は、海棲哺乳動物保護区や、禁漁区もMPAのカテゴリーに加えられる予定である。海洋保護区庁は、これら法律で定めた海洋保護区のうち、2007年ブレスト沖に、広さ3,550km2におよぶフランス最初のエロイーズ海洋自然公園を設置した。そして、2012年までに10の海洋自然公園の設置が計画され、毎年4,000万ユーロの予算が見込まれている。
本稿で紹介する新たに設置された海洋自然公園とは、従来型のトップダウン・一方的に設定された人間活動が制限もしくは排除された自然保護区ではなく、ステークホルダー自らが管理を実施する試験的エリアといえる。ここでは、海洋保護区が管理手段の一つとして位置づけられているのが特徴である。
設置過程は、まず、 GIS(地理情報システム)を用いて3種類((1)海洋自然遺産、(2)生態系機能、(3)利用・圧力・資源)のマッピングが作成される。これは、集めた情報から地域の特性を把握し、優先的に管理する対象や管理地域、管理方法を決定するためにおこなわれるもので、管理対象は、"Surface, Current & Seabed"という3次元空間である※2。次に、マッピングより経済的、生態的に重要地域が選定され海洋自然公園のエリアが決定される。最後に、エリアを管理するステークホルダーが選出される。エロイーズ海洋自然公園の場合、管理者は、ステークホルダーの代表49人で運営される協議会であり、海洋に関する諸問題を、ステークホルダーを幅広く集めて議論した上で解決する仕組みが実施されている。このようなフランスの動きは、今後日本で海洋政策を実施するにあたり大いに参考となるであろう。(了)

 

※1 「グルネル」の語源は、1968年にパリのグルネル通りにある労働省において、政府、労働者や学生、企業の代表者が、労働条件の改善に関する代表者会議を開催し、労使が和解した「グルネル協定」に由来している。
※2 Spatial PlanningやSpatial Managementと呼ばれている。

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