Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第206号(2009.03.05発行)

第206号(2009.03.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男

◆ソマリア沖の海賊から日本商船を守るために自衛艦を派遣することがようやく決まった。この海域の海賊は母船と高速艇で構成され、機関銃、自動小銃、迫撃砲などを装備しているという。
◆海賊と海軍の関係では興味深い米国の歴史がある。黒船艦隊を率いて江戸幕府に開国を迫ったガルブレイス・ペリーは有名であるが、父親のクリストファー・ペリーが海賊であったことはあまり知られていない。彼は英国からの独立をめざし、武装した商船で英国の軍艦や商船を襲い、武器や商品、時には船舶そのものを略奪していたのである。1775年に米国独立軍の海軍が正式に発足するまではこのような私掠船が数多く英国の通商活動を妨害していた。私掠船の活用は、16世紀にスペインなどの海洋覇権に対抗した英国の発案であるから、皮肉なものである。◆正規の海軍士官となった息子のガルブレイス・ペリーは今度は米国の地中海通商路を妨害する海賊への対策で苦労することになる。そこで、風や海流に左右されずに効果的な活動を可能にする蒸気船の重要性を認識し、海軍保守派の反対を押し切って蒸気艦フルトン号を導入したのである。ペリー提督の黒船への思い入れがわかろうというものだ。
◆こうした海の歴史をもっと広く知って欲しいと思う。通商路の確保は海軍発祥の所以そのものなのだ。この本質的な問題に関して、古澤忠彦氏がわが国の海運界と海上自衛隊の不幸な関係を鋭く指摘している。
◆本号では広大な排他的経済水域(EEZ)を持つフランスの統合的海洋政策について遠藤愛子氏に紹介していただいた。特に、ステークホールダーと協同する海洋管理には学ぶものがある。谷 伸氏には、国連に提出した大陸棚延長申請について、その概略を紹介していただいた。膨大な海洋底調査と資料作成に尽くした関係者の努力は必ずや報いられるものと信じる。今後はEEZの開発と保全に向けてインベントリー(財産目録)の作成を急ぐ必要があるだろう。 (山形)

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