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オーシャンニューズレター

第19号(2001.05.20発行)

第19号(2001.05.20 発行)

地球にやさしいシップリサイクルを

船舶解撤企業協議会副会長◆山路 宏

今、地球は病んでいる。異常気象や温暖化現象など、地球の悲鳴が聞こえてくる。母なる海は、その浄化能力を失い、自然治癒する力がなくなりかけているように思われる。その海の上を自由に行き来する船。船は、私たちに多くの豊かさを運んできてくれたにもかかわらず、その最期において、環境に悪影響を与える解体作業が行われているケースがある。

船の最期、リサイクルの現場における問題

船は人によって創られ、生まれ、20年から30年間黙々と働き、そして死んでいく。揺り籠から墓場までは社会福祉の標語であったけれど、船にもその一生涯を円滑に全うし、安全に終了してもらうことが大切になってきた。老齢船の新陳代謝は、ナホトカ号の原油流出事故を例にするまでもなく、海洋汚染の原因となる海難事故を未然に防ぐために、必要なことは明らかだ。

家電製品(大型4品)は、今年4月から利用者がその処理費用は負担しなければならず、その回収と再利用は、メーカーに義務付けられるようになった。また、自動車のリサイクルについても高度循環型経済社会に対応して、不法投棄をなくし、リサイクル率を向上させようと、メーカーが中心となって、法制化が急がれている。では、船は一体どうなっているのか?

船は良質は鉄で作られているため、30年経っても、貴重な再生資源であることに変わりなく、鉄鋼資源の乏しい発展途上国にとっては、魅力ある商品である。現在でも中大型船はその90%以上が再利用されるリサイクルの優等生であり、世界の鉄くずが1トン100USドル前後で取引されている市場で、解体船は1トン180~200USドルと高額で売買されている商品である。と同時にリサイクルされない残りの10%の部分が問題になってきている。今まで無視され、放置されていたこの部分には、産業廃棄物と共にいろんな危険物、有害物質が含まれている。環境にやさしく船を解体することを考えるならば、環境団体の指摘を待つまでもなく、これらの廃棄物は適正に処理されなければならない。シップリサイクルが海運業界で重要な問題として取り上げられ、議論されだしているのも、やはり、地球環境にやさしい海運産業のあり方が21世紀にむけて自らに問いかけているからだろう。

日本が長年培った船舶解体技術を世界に!

解体船を高く買える国、そこには世界中からスクラップ船が集まってくるのだが、それは発生材を高く売れる国であり、同時に、解体コストを安くできる国でもある。解体コストの半分以上は労務費であるから、まず賃金の安い発展途上国に有利である。が、しかしそこが、廃棄物処理にコストをかけない国であってはならない。高く売れる部分の契約とコストをかけて確実に処理して貰う契約とを別々に分けて実行する責任と制度が必要なのかもしれない。

海洋汚染を防止し、シップリサイクルを促進しなければという動きが出てきているのに、老齢船の解体を実際に行っている解体業者は仕事がいっぱいで忙しいかというと、これがまったく逆でしかない。世界最大の船舶解体国インド(アラン・ソシヤ地区)では、解体船がなく、169社のうち、20%程度の会社しか操業していない。他社は休業中か倒産状態らしい。世界の海運マーケットは現在絶好調で、解体する余剰船舶がまったくなく、たまに老齢船が売りに出されても、完全な売り手市場にあるため、高値で、採算のあう価格では受注できないのが現状らしい。

船舶解撤ヤード
岡山県にある船舶解撤ヤード。日本で解体される船は年々少なくなってきているという

また国内の解体業者も、解体する船がまったくなくて困り果てている。内航船(小型船)はそのほとんどすべてが、中古船として東南アジアに輸出されている。中には日本で解体すれば、解体処理費を負担しなければならないような老朽船でも、輸出され、再使用されている。国内解体業者は、こんな状況の中で、事業として存続できなくなっている。日本が長年培ってきた船舶解体技術を21世紀に資するために、環境にやさしい処理技術に変換し、先進国モデルを策定し、その解決策を世界に公開できないか! 昭和53年、造船不況時に需給バランス是正のために設立され現在も残っている船舶解撤促進助成金を弾力的に運用して、この目的のために有効利用できないだろうか。

日本は非常に優秀な船団を常に維持している。船齢も若く新鋭船揃いである。裏をかえせば、日本は中古船の最大の供給国でもある。造船王国日本は世界の現有船腹量のおよそ半分を建造して、供給してきた。その日本が、シップリサイクルという循環秩序を構築するために、世界に向かって率先して規範をしめせないものだろうか。日本国籍船は若い船ばかりだから、船舶の解体問題など関係なしと逃げるのではなく、本当の責任ある姿勢をしめし、世界の海運界をリードしてほしいものだ。(了)

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