Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第199号(2008.11.20発行)

第199号(2008.11.20 発行)

離島航路の確保と離島への定住促進による国境域管理を

[KEYWORDS]離島航路政策/離島住民定住/国土連続性確保
全国離島振興協議会・(財)日本離島センター総務部長◆大矢内 生気(おおやうちせいき)

燃油暴騰によって離島航路経営が危機に瀕している。
航路政策の後退は、直ちに離島の灯を吹き消すもの。
自国民による稠密な国土定住こそが実効支配そのものであり、海洋開発は「国土連続性確保」政策を前提とすべきだろう。

離島航路がなくなる!離島に人が住めなくなる!

佐渡島北部の日本海に浮かぶ粟島(単独村:人口369人)の定期船。高速艇は船齢20年を超えた。
佐渡島北部の日本海に浮かぶ粟島(単独村:人口369人)の定期船。高速艇は船齢20年を超えた。

小笠原諸島父島二見港に係留中の東京都漁業調査指導船「興洋」(87t)。小笠原海域から沖ノ鳥島まで航行可能だ。
小笠原諸島父島二見港に係留中の東京都漁業調査指導船「興洋」(87t)。小笠原海域から沖ノ鳥島まで航行可能だ。

日本は満潮時岸線100m以上の島々6,852島で構成される有数の海洋島嶼国家であり、利尻礼文から小笠原諸島、日本海、東シナ海、南西諸島全域に至る430島(有人島)に人口約90万人の住民が住む。歩いては海を渡れないのが離島というものだ。ために、新生児用粉ミルクもクリスマスケーキも、プロパンガスも石油タンクローリーも、新聞も郵便も、さらに日本銀行券までも、連絡船が運ぶ。
わが国の離島航路対策は、明治9年の新潟~佐渡島のほか釜山航路・上海航路を「国の命令航路」としたことに始まる。続いて同12年那覇航路、同29年北海道利尻礼文・天売焼尻、東京都伊豆諸島・小笠原航路、新潟県佐渡島3航路、島根県隠岐諸島、長崎県壱岐対馬・五島列島、鹿児島県十島・奄美群島、沖縄県八重山群島の航路が正式に命令航路となる。明治政府成立直後の財源困窮時代にあって、国策として「国土軸」たる本土離島間を結ぼうとする英断で、のち鉄道省航路となり、主要離島港に国鉄「駅」を設置して手荷物などのチッキを有効とするなど、「国家の意志」を刻んだ歴史が見える。戦後、国は「離島航路整備法」(昭和27年)「離島振興法」(昭和28年)はじめ各諸島振興開発特措法を順次制定して復興振興に着手、同34年には船舶整備公団(現在の鉄道・運輸機構)を設立し、航路事業者との共有船建造方式による就航船舶の近代化が進められた。
現在、離島と本土、離島と離島を結ぶ「離島航路」は全国に313航路あり、このうち生活航路は263航路、うち国庫補助航路は122航路ある(平成19年4月現在)。近年の爆発的な燃油高騰で各航路で欠損額が激嵩、国庫補助離島航路・非国庫補助離島航路ともに概ね各々100億円、計200億円の経営欠損を計上したと言われる。これに対し平年度の国の離島航路補助額は概ね38億円に過ぎず、平成19年12月、辛くも17億5,000万円が補正予算措置されたが、焼け石に水の状態だ。この事態から、運賃料金の数次に及ぶ値上げ、航海速度の低減、減便、さらに減船にまで追い込まれた航路も多く、これでは離島に住むなと言わんばかりだと、離島住民の不安・不満が募っている。
平成20年1月から夏にかけて、国土交通省海事局は前例にない省庁横断的な「離島航路補助制度改善検討会」を設置し、鋭意検討を進めてくれた。8回にわたる集中討議の結果、「国は離島を見捨てない」(!)と明記した基本姿勢のもと、公設民営化、人口規模に見合った船腹量への減量、経営的インセンティヴ効果の発揮等の考え方を中間的取りまとめに反映させ、離島航路政策の構造的改善に向けてこの年末までに最終的に取りまとめたい考えだ。中間取りまとめ内容は、近代日本140年間の離島航路政策を冷静に価値判断した上で、圧倒的にコスト高となる離島航路の未来史を示そうとするもので、今後の精力的な深化が待たれる。

国土周縁部への国民定住を国境域管理の中核に

「海洋基本法フォローアップ委員会」で私たちが、国境管理にはまず「国境域管理」の発想が必要だと強く訴えていたそんな頃に、「EEZの利活用と保全を考えるとき、なにゆえ離島の住民定住を前提に考えなければならないのか...」という問いを私たちは、幾度となくいろいろなセクターから投げ掛けられた。これらの問いかけは、永く海洋島嶼国家における離島の大切さを訴え、世界各国の離島振興政策とその理念を学び、さらに東アジア地政学的な情報まで帯びつつあった私たちに、複雑な思いを起こさせた。
再度考えてほしい。日本海の竹島(韓国名:独島ドクト)について韓国政府が領有主張するときの民族主義的手法はともかく、昭和23年学術調査団の派遣に始まり、武装特別公務員の駐屯、灯台建設、政府高官や韓国軍高級指導部の定期訪問、独島里の設置、独島里戸籍取得の奨励、独島切手の発行、大邱銀行による独島預金制度など、実効支配のためのあらゆる施策を韓国は事実、為した。中国に対しても同様で、黄海水面下4.7mの海中岩礁・離於島(韓国名:イオド、中国名:蘇岩礁)に平成13年、海中から支柱を打ち込み、ヘリポート等陸上構造物を建設して総合海洋科学基地化して領有を実効化する。国際法では水面下岩礁を根拠にどの国も領有権を主張できないにも拘わらず、だ。韓国政府が、重層的な施策と国民運動連携によっていかに「国家意志の継続的発現」に腐心してきたかを私たちは直視し、そのしたたかさにおいて彼此岸の島々に対する温度落差を肝に銘じるべきだと思う。
国境域管理の手法は、ヨーロッパ各国に先行政策事例が多く見られる。人口400万人のデンマークでは、電力の95%をドイツに頼っていた時代から、現在、地球温暖化により資源開発の可能性が拓けたことで独立が取り沙汰されるグリーンランドや、バルト海の玄関口という地政学的要衝に位置するボルンホルム島に至るまで主要離島に地域立法をなし、国営航路として各離島を結んでいる。しかもサムセ島などが点在するユトランド半島東部のカテガット海は結氷する海域であり、同国国土計画庁は砕氷能力積載船舶を投入してこれに充てる。また、ビロード革命以前の旧西ドイツでは毎年度GDP2%相当額を国境域農家へ投資して国境域への国民定住を牽引したし、現在のドイツ政府は、戦前Uボート基地だったヘルゴランド島をはじめ東フリージア諸島に対しクーア・オルト施設を積極的に配置して滞在人口の拡大等の交流政策を展開している。スイス政府にも山岳高地農家に対する定住促進政策がある。いずれも国土周縁部への自国民定住促進を国境域管理の中核に据えている。

海洋政策に「国土連続性の確保」の視点を

EEZ管理とは国境域管理そのものであり、国境域とは国土連続性空間に他ならないとする国家的覚悟と基本的感覚が是が非でも必要だ。本土から約1,900km彼方のEEZ管理・調査・開発のため、重要なストックポイント機能を整備しつつ飛行艇母港として有人離島を活用することについては、本誌190号の中原裕幸氏論考に譲る。海洋は事実、エネルギー・資源小国日本を救う最後の救世主、最後のフロンティアとなる。先に述べた私たちが感じた複雑な思いとは、離島住民の自主的意志に基づく永続的な離島定住が、実に重大な国家的貢献だとする思索回路を経ずして海洋・領域問題を理解しようとする姿勢への齟齬感だった。自国領域への稠密な自国民定住を担保しないEEZ論は、隣国海洋国境域戦略を対照しない限り、世界標準の政策的リアリティに欠けるものとなる。わが国領域保全のため、私たちはなにより、海洋と島嶼の連続する島嶼国家日本において「国土連続性の確保」を担保し「国民定住」を牽引する、よりダイナミックな海洋総合政策を期待している。(了)

財団法人日本離島センターが運営する離島情報サイト「しましまねっと

第199号(2008.11.20発行)のその他の記事

Page Top