Ocean Newsletter
第199号(2008.11.20発行)
- 大阪産業大学経営学部長、神戸大学名誉教授◆宮下國生
- 全国離島振興協議会・(財)日本離島センター総務部長◆大矢内 生気(おおやうちせいき)
- 今治市長◆越智 忍
- ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌
"海事都市今治"の取り組み
[KEYWORDS]海事都市今治/人材育成/今治海事展今治市長◆越智 忍
愛媛県今治市は平成の大合併で12の市町村が合併し、新「今治市」が誕生した。
古来より海上交通の要衝として栄え、海運・造船・舶用工業など海事産業が集積する世界にも類を見ない「一大海事都市」となった。
「新時代に向けた海事都市今治の創造」を目的とした海事都市構想を策定し、造船所の施設拡充等様々な施策に取り組み始めた。
基本方針の一つ「次世代の人材育成」について報告したい。
1.次世代の人材育成
海事都市構想を策定した際に、海運、造船、舶用の各企業を訪問し、ヒアリングをいたしました。団塊の世代の大量退職による技術力の低下と労働力の減少時代を迎え、子どもたちがモノ造りから遠ざかる状況を背景に、業界の皆様からいただいた共通したご意見が「人がいない、人が足りない」という切実な声でした。
そのため、海事産業で活躍できる"人"を育てることを命題とし、即戦力となりうる人材育成と、将来の今治海事産業界を託せる次世代の人材育成に向け、取り組みを始めることになりました。
(1)今治地域造船技術センター
国土交通省、日本財団、(社)日本中小型造船工業会のご支援を得まして、地元造船業界と共に「今治地域造船技術センター」を立ち上げ、造船所に新規就職した若者を3カ月間集中して鉄板の溶接、切断等の訓練をして、現場経験2~3年の工員さんと同じレベルまで向上することが出来ました。初年度61名で始めたこの取り組みは大変好評を博し、4年目となった今年の卒業生は134名を越えました。
この流れを受けて、平成19年には中級コースもはじまり、更に高度な技術の継承に努めています。
(2)今治市外航海運協議会との事業
今治市内の外航海運の代表者で構成する「今治市外航海運協議会」にて次世代の人材育成に関する提言とご尽力をいただき、以下のような事業を始めました。
1. 市内小中高校に出向いた出前海事教室、2. 高校生の海運会社等でのインターンシップ受け入れ、3. 国立弓削商船高等専門学校での今治市外航海運セミナーの開催。
その他にも、地元海事産業のご協力を得て、進水式見学会、社会科教員研修会、市民対象の海事啓発セミナーなど機会を捉え取り組んでいます。
(3)交通政策審議会海事分科会ヒューマンインフラ部会
試行錯誤を繰り返しながら、次世代の海事人材育成に向けた取り組みを進めていたところ、その様子が国土交通省の目に留まるところとなり、自治体の首長としては初めて審議会の委員に任命され、これまでの海事都市今治※1の取り組みを紹介しました。部会では今後の海事人材の確保・育成に向けた取り組みが8回に渡って協議され、今治市からも多くの提言を出させて頂きました。
ヒューマンインフラ部会では、今治市の取り組みを、海事人材育成のトップランナーと位置付けていただき、今治市はモデル地区として、その取り組みに対して強力なご支援をいただくことになりました。答申を受けて、「海事産業の次世代人材育成推進会議」が設立され、国レベルで次世代の海事人材育成の協議が始まり、その後全国で今治市を含む5カ所の「海事地域振興協議会」が誕生し、地域の特性を生かした海事人材確保・育成にむけた事業が全国展開され始めましたのはご案内のとおりです。
2.(独)航海訓練所帆船「日本丸」寄港


"海事都市今治"が取り組む「次世代の海事人材育成」事業にさらに弾みをつけるべく、目玉事業として、国土交通省・(独)航海訓練所の強力な支援を得て、去る7月29日~8月2日まで帆船「日本丸」の今治市寄港が実現しました(表参照)。
できる限り多くの子どもに「日本丸」に触れていただくことで、「海への関心」をより強く持って欲しいという思いから、計画いたしましたが、「日本丸」の乗組員の皆様には非常にご苦労をおかけしました。そのおかげをもちまして体験航海では一般公開の内容に加えて、船内見学での詳しい説明、「ヤシ摺り」や「展帆体験」は勿論のこと、「船のご飯はとってもおいしい!」と、子どもの印象に残る数々の体験事業を実施していただき、子ども達からは「船員になってもいいと思った」「将来日本丸に乗りたい」など非常に満足した感想が聞かれました。このような感想を持った子どもたちの「海への関心」を継続・強化させていくのが今後の課題となりますが、「日本丸」の今治市寄港という機会を通じて、市民の方にも普段の生活で希薄になりつつある、「今治市は海のまち」ということを再認識していただけたと考えております。今回の市民の皆様の大きな反響を目の当たりにし、できることなら来年もまた「日本丸」寄港に取り組みたいと考えています。
3.今治海事展(BARI-SHIP)の開催について
昨年、今治市の海事産業界の方々から、「今治での海事展開催を考えているのならば、世界最大の海事展Norshipping(ノルシッピング)※2を見に行くべきだ!」との提言を受け、視察してまいりました。今治に帰るとすぐに、海事展開催に向け海事産業界の代表者の方々と、「今治市海事都市交流委員会」を組織し、協議を重ねるなか、今治市にて海事展を開催することを決定いたしました。
- 名称:今治海事展(BARI-SHIP)
- 開催時期:平成21年5月21日(木)~23日(土)
- 開催場所:テクスポート今治
今治海事展の基本コンセプトは、トレードショーを核として、海事都市今治から先進の技術を発信する中、一大海事産業の現場を有する今治らしさを出しながら、将来の担い手を育成すると言うことです。トレードショー主体の海事展で、もう一つの大きな目標は対市民向けの「海事啓発」です。今治市は海運・造船・舶用工業と世界に誇れる素晴らしい企業が海事クラスターを形成し、これらが世界的な地位を占めていること、今治市や、瀬戸内に集積する海事産業を顧客として国際的な企業が多く集まってくることを市民にもっと知っていただきたい。そして、この様子を見た子どもたちが将来誇りを持って「海事産業へ就職したい」と思える海事展にしたいと考えています。
今治市では今後も、海事都市発展のため、海事人材育成に向けた取り組みを一歩一歩進めてまいりますので、皆様方のご指導・ご支援をよろしくお願い申し上げます。(了)
今治市は、日本の外航船約30%、内航船は、国内の8%を所有、造船は全国一の集積を誇る18事業所を有しており、建造隻数では国内の14%を占め、その周辺には舶用機器製造事業所も数多く集積し、10,000人を超える人たちが働いている。
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