Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第194号(2008.09.05発行)

第194号(2008.09.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男

◆この夏は激しい集中豪雨がゲリラ的に各地を襲った。その原因としては猛暑をもたらすダイポールモード現象が発生したこと、ラニーニャ現象が完全には終息しておらず、西太平洋の高水温のところで発達した熱帯低気圧が湿潤な大気を流入させたこと、さらに、上空に寒気が頻繁に流入し、大気が特に不安定だったことが挙げられる。都市域ではヒートアイランド現象も重なった。
◆対流性の集中豪雨は10キロメートル程度の範囲で起きる。このため旱魃を懸念された地域が一変して浸水や洪水の危険に晒される一方で、その近隣では相変わらず水不足に悩まされるようなことも多かった。地球温暖化に伴い、このようなパターンはますます多く出現することが予想される。こうした事態にどのように対処してゆくかが問われている。
◆今号では、まず石弘之氏が難燃剤PBDEによる汚染問題に警鐘を鳴らしている。レイチェル・カーソンが「沈黙の春」でDDTなどの合成化学物質による環境悪化を指摘したのは1962年である。ほぼ半世紀を経た現在、当時とは比較にならないほど多くの化学物質が合成され、自然界に放出されている。これらの人為物質は生物界をも循環し、一部は生体内に蓄積される。物質循環においては国際協調による地道な影響調査がまず必要であり、有害物質については規制体制の早期確立が求められる。
◆福島朋彦氏は日本財団の支援により東京大学の海洋アライアンス機構が推進する総合海洋基盤プログラムについて紹介している。総合的海洋管理を目指す研究・教育はわが国においてはまだ揺籃期にある。大学間の連携によって人材育成を効果的に促すネットワークの導入も期待したい。
◆深海は最後の秘境である。上野輝彌氏によればこの深海で数億年にわたり生きながらえて来たシーラカンスの生態系にはまだ謎が多いという。魚類の進化を探るには恰好の生きた化石シーラカンス、その調査研究の進展が楽しみである。(山形)

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