Ocean Newsletter
第193号(2008.08.20発行)
- 静岡文化芸術大学 学長◆川勝平太
- 鹿児島大学多島圏研究センター准教授◆河合 渓
- パラオ在住・元パラオ派遣青年海外協力隊員◆廣瀬淳一
- ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌
「ガーデンアイランズ(庭園の島々)」構想10年
[KEYWORDS]ガーデンアイランズ/国土計画/全国総合開発計画静岡文化芸術大学 学長◆川勝平太
1998年策定の全国総合開発計画(全総)『21世紀の国土のグランドデザイン』は戦後五度目の国土計画で「地域の自立と美しい国土の創造」を副題にかかげていた。
美しい国土の理想形として「ガーデンアイランズ(庭園の島々)」構想が出された。
それは日本のたたずまいの理想形である。
『21世紀の国土のグランドデザイン』
1998年策定の全国総合開発計画(全総)『21世紀の国土のグランドデザイン』※1は戦後五度目の国土計画で、最後の全総だ。戦後の日本は、国際社会で尊敬ある地位を占めるために国土計画を国家が定め、地方がそれを拳拳服膺(けんけんふくよう)して、一丸になって先進国への道をめざし、日本は先進国の仲間入りを堂々と果たした。全総は使命を終えた。
全総は「国土形成計画」に変わり、地域ブロックと国とが協働して計画を策定し実施することになった。ブロック単位については、府県を、すき間なく、かつ重複しないように、東北、関東、中部、北陸、近畿、中国、四国、九州の8ブロックに分けられた(北海道、沖縄をあわせて全部で10)。このブロック単位は道州制とは無関係だが、中長期的には都道府県の壁を低め、道州制を促進するだろう。道州制は政府の方針であり、地方制度調査会の報告もほぼ10の地域単位で出されている。この流れからすれば21世紀前半に、日本は地域分権国家になる。それは明治以来の東京を中心の国づくりのベクトルを反転させ、ポスト東京時代を開く。
ガーデンアイランズ構想

それを見越して『21世紀の国土のグランドデザイン』は「地域の自立と美しい国土の創造」を副題にかかげていた。美しい国土の理想形として「ガーデンアイランズ(庭園の島々)」構想が出された。それは日本のたたずまいの理想形である。今年はガーデンアイランズ構想十周年だ。世紀末から今世紀にかけて、各地で景観条例や街並条例が導入され、国が後押しされて景観三法を定め、安倍前首相は「美しい国づくり」を理念にかかげた。淡路花博では淡路島を「ガーデンアイランド」と呼び、北海道でも「ガーデンアイランド北海道」の運動がすすめられている。
「ガーデンアイランズ」は従来の国土論になじまず抵抗もあったが、十年経って、人口に膾炙するようになり、言い出しっぺとして感慨がある。当時は日本の美しい国土イメージとして受け止められていた。十分に意をつくして論じ得る状況でもなかった。この機会に補足し、もう少し具体的な日本の国土像を提示したい。
日本には「見立て」の文化がある。落語家が扇子を箸や刀など見立てて使うのを観客が自然に理解しているように、「見立て」は日本の文化だ。富士の名をもつ山だけでも300を超える。各地の人々が地元の山容のよい山を富士山に見立てている。
ガーデンアイランズは日本列島のたたずまいの理想形だといった。それは地球の理想形に見立てたものである。というのも、地理的には、日本列島は南北に3千キロメートルと長く、北は亜寒帯、南は亜熱帯で、かつ同緯度でも山がちだから平地と山頂では生態系が異なり、実に生態系が多様である。まさに日本列島は地球生態系の縮図であり、地球に見立てられるのである。
それだけではない。ガーデンアイランズは、文物と風景とが溶け合った生活景観の理想形でもある。日本は、二千年の歴史において舶来の文物をふんだんにとりこみ、東洋文明は京都を中心に、西洋文明は東京を中心に受容し、京都・東京から全国に発信されて東西両方の文明を生活習慣のうちに血肉化している。世界の文明は大きく東洋文明と西洋文明に分けられるが、日本は両者をもつ世界文明の生きた博物館である。地理的には地球に見立てられ、歴史的には世界文明の博物館に見立てられるだけに、日本の国づくりは、グローバルな課題にこたえるものでなければならない。その集約的表現が「ガーデンアイランズ」である。
21世紀が「地球環境」を軸に動くことは、先の洞爺湖サミットが示したとおりだ。では地球環境の理想形は何か。地球は表面積の3分の2が海であるから、宇宙からみれば、地球は青く、大小様々な島々が浮かぶ多島海である。日本は7千ほどの島々からなる多島海だ。青い惑星の多島海が環境破壊を蒙っている。日本列島を先行モデルとしてガーデンアイランズにすることは、地球ガーデンアイランズへの道筋を提供するためである。
「野の洲」「森の洲」「山の洲」そして「海の洲」に
目下の地域割りは、国の出先機関の所轄範囲に対応している。それは国内事情である。環境は目に見える景観なので、景観を軸に日本列島の地域割りを構想したい。その際、日本に「借景」の思想があることを念頭におこう。世界文化遺産の天竜寺の庭は嵐山を借景にしている。人の手が入っていない景色も庭にとりこむ借景の文化をとりこめば、目に見える日本列島全体が文化性を帯び「文化的景観」となる。
首都圏の文化的景観は関東平野を擁する「野の洲」、北海道・東北は山々が低く深い緑におおわれた「森の洲」、北陸・中部は富士山・日本アルプス・白山連峰を擁する「山の洲」、西日本は世界一美しい多島海の瀬戸内海をはさむ日本海と太平洋の海上の道によって歴史を築きあげ「津々浦々」のネットワークを築きあげてきた「海の洲」だ。どの地域にも森、野、山、海があるが、大切なのは景観を軸にした国づくりを世界に印象づけることである。
州都もそれぞれの地域景観に配慮するべきである。たとえば「海の洲」の州都は海に浮かべるのも一案だ。長崎県は日本で一番多くの島をもつが、現在の県庁舎は震度六強の地震が起きると最初に崩れる※2と言われており、建てかえが検討中だ。金子原二郎知事は「問題は、造る時にどういう規模のもので、道州制を視野に入れながら、時代に合ったものをどう造っていくか」だと言われる。長崎県には大造船所がある。造船所から上がる税収は自治体にとっては甘露であろう。そのお返しのために、造船所の最新技術をとり入れて「メガフロート」を造り、島々を移動できる海に浮かべれば、造船所は潤い、どこにも移動できるので離島の人々は喜ぶ。ガーデンアイランズに浮かぶ県庁舎は内外の人々をひきつけるだろう。それは海の洲の州都づくりの先行モデルともなり、ひいては遠い将来の「東アジア共同体」という海洋アジア共同体の本部づくりの先行モデルにもなるだろう。(了)
第193号(2008.08.20発行)のその他の記事
- 「ガーデンアイランズ(庭園の島々)」構想10年 静岡文化芸術大学 学長◆川勝平太
- 太平洋島嶼域からみた「人と自然の共生」 鹿児島大学多島圏研究センター准教授◆河合 渓
-
読者からの投稿
小島嶼国に芽生える自律的な環境保全を求める動き ~パラオにとっての「ミクロネシア・チャレンジ」~
パラオ在住・元パラオ派遣青年海外協力隊員◆廣瀬淳一 - 編集後記 ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌