◆日本、フィジー、パラオは、太平洋の島国である。気候や地理・歴史・文化的な条件もちがうので、海とのかかわりは3国間で一様ではない。しかし、気候変動の影響、地震・津波による自然災害への対処、海洋資源枯渇への懸念、海洋環境の保全など、島国は共通のグローバルな課題を抱えている。◆島国にとっての海を考えるうえで、読みごたえのある3本のオピニオンを本誌にラインナップした。静岡芸術文化大学・学長の川勝平太氏によるガーデンアイランズ構想は安倍前首相時代に提案されたもので、日本の国土をブロックに分割し、日本が地球環境の保全を多島海の視点から先駆者として進めようとする壮大な提案だ。海のブロックとなる西日本の洲都に長崎を想定するなどの踏み込んだ意見も出された。韓国と中国を視野においたものかと想像をたくましくする。◆環境の保全をローカルな視点から考えていく際、村落ごとの資源利用規則や首長の権限などが重要な役割を果たしていることを鹿児島大学の河合渓氏がフィジーの例を元に論じている。フィジーでは、海での環境教育の実践、カヴァを用いた儀礼や共同体的なコミュニケーションなど、地域の社会や文化に根付いた取り組みがある。それらを総合的に明らかにするための経済価値指標の適用と学融合的アプローチの提案は新鮮だ。◆地域ごとの取り組みはけっして閉じられた性格のものではない。多くの小島嶼群からなるミクロネシアでは、ミクロネシア・チャレンジ(MC)と呼ばれる広域的な環境保全施策が提案されている。パラオに在住する廣瀬淳一氏は、パラオ社会に独自の資源管理制度があるので、外国の援助を当てにした取り組みよりも、保護区ネットワークによる保全施策を進めることが合理的、との意見を表明されている。保全活動を持続的にすすめる資金をパラオに来る世界の観光客に一部負担してもらう「したたかな」提案なのだという。◆フィジーでは、2006年12月にコリコリ(qoliqoli)漁業法が可決された。前世紀、英国植民地時代に国有化された沿岸域がもともとの所有者に返還される画期的な法案であったが、観光地に林立するリゾート・ホテルなどとのあいだで賠償請求をめぐる対立も生じている。小さい国で大きな問題が起こっている。海をめぐる地球規模から地域に至る論議のリンクがようやく見えてきた。川勝氏のいう「見立て」がいまこそ必要なのだろう。 (秋道)
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