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オーシャンニューズレター

第191号(2008.07.20発行)

第191号(2008.07.20 発行)

トン数標準税制の導入~外航海運政策の新時代の幕開け~

[KEYWORDS] トン数標準税制/日本籍船/日本人船員
前国土交通省海事局海運基盤強化政策準備室長◆藤田礼子

わが国経済、国民生活を支えるライフラインとしてきわめて重要な外航海運は、激しい国際競争にさらされてきた。海上運送法の改正法において、安定的な国際海上輸送の確保を図るために必要な日本籍船の確保、日本人船員の育成・確保を図るため、国土交通大臣による基本方針の策定、対外船舶運航事業者による「日本船舶・船員確保計画」の作成および同計画の認定事業者に対するトン数標準税制の適用等が定められた。

トン数標準税制をめぐる動きと改正法の成立

日本船舶・外航日本人船員の減少

四面を海に囲まれたわが国において、輸出入貨物の99.7%の輸送を担い、わが国経済、国民生活を支えるライフラインとしてきわめて重要な外航海運は、激しい国際競争の中にありますが、諸外国を見ると、欧米、韓国等においてみなし利益課税のトン数標準税制が導入され、船腹量ベースで全世界の約6割の船舶に適用されており、今や世界標準となっています。この結果、本邦対外船舶運航事業者は競争条件が不均衡な状態におかれています。
また、安定的な海上輸送の核となるべき日本籍船・日本人船員は、プラザ合意後の急速な円高等によるコスト競争力の喪失から、日本籍船は、最も多かった昭和47年の1,580隻から平成18年には95隻へ、日本人船員は昭和49年の約5万7,000人から平成18年には約2,600人へと極端に減少しています。日本籍船・日本人船員は、わが国の管轄権・保護の対象であり、経済安全保障の観点から平時より一定規模確保することが必要であるとともに、海上輸送の安全の確保および環境保全、海技の世代間の安定的伝承等の観点から重要であり、このような減少は、きわめて憂慮すべき事態と言わざるを得ません。
このような外航海運の現況を受け、平成18年8月末にトン数標準税制の導入について税制改正要望を提出して以来、国土交通省は、これを最重要課題として位置付け、精力的に取り組んでまいりました。
平成18年12月には、平成19年度与党税制改正大綱において、「安定的な国際海上輸送を確保するための法整備等を前提として、平成20年度税制改正において具体的検討を行う」とされ、平成20年度からの導入可能性に向けて大きく一歩を踏み出しました。
この動きを踏まえ、平成19年2月、国土交通大臣より、交通政策審議会に「今後の安定的な海上輸送のあり方について」の諮問を行い、平成19年12月、本邦対外船舶運航事業者の国際競争条件の均衡化を図ることに加え、日本籍船・日本人船員の計画的増加を図る観点から、トン数標準税制の早急な検討、日本籍船・日本人船員の確保のための法整備等を図るべきとする答申が取りまとめられました。
また、平成19年7月に施行された海洋基本法において、安定的な海上輸送の確保を図る上で、日本籍船の確保、船員の育成および確保、ならびに競争条件の整備等による経営基盤の強化が国の責務であることが謳われました。さらに、平成19年11月には、自由民主党政務調査会海運・造船対策特別委員会および自由民主党海事立国推進議員連盟ならびに超党派の海事振興連盟において、「トン数標準税制の導入に向けた決議」がなされました。
こうしたトン数標準税制をめぐる流れの中で、昨年12月の税制改正大綱でトン数標準税制の導入が盛り込まれ、第169回国会において、その実施のための「海上運送法及び船員法の一部を改正する法律」が本年5月30日に成立し、最初の税制改正要望から約2年越しで、トン数標準税制の導入に漕ぎ着けることができました。

日本籍船・日本人船員の確保の目標

トン数標準税制導入国

海上運送法の改正法において、安定的な国際海上輸送の確保を図るために必要な日本籍船の確保、日本人船員の育成・確保を図るため、国土交通大臣による基本方針の策定、対外船舶運航事業者による「日本船舶・船員確保計画」の作成および同計画の認定事業者に対するトン数標準税制の適用等を定めています。
この改正法において、日本籍船・日本人船員の確保の目標を基本方針で定めることとし、また、国土交通大臣は、交通政策審議会に意見を聴くこととしています。交通政策審議会において審議する際には、学識経験者や日本船主協会・全日本海員組合等の意見を聴いて検討することとしています。
平成19年12月の交通政策審議会において、非常時等における、一定規模の国民生活・経済活動水準を維持する輸入貨物量をすべて日本籍船で輸送し、当該日本籍船の船舶職員を全員日本人で配乗するものとして試算すると、必要な日本籍船・日本人船員はそれぞれ約450隻・約5,500人との答申をいただきました。一方、日本籍船・日本人船員の現状規模を踏まえると、これらの必要規模を短期間で達成することは困難であり、特に船員の確保・育成については、効果が現れるまでに一定の期間を要するものと考えられます。このため、まずは当面の取り組みとして、日本籍船の隻数を平成20年度からの5年間で2倍に、日本人船員の人数を10年間で1.5倍に増加させることを目標として検討しております。
なお、平成19年12月に、外航海運業界は、業界の総意として、トン数標準税制の導入により、日本籍船を今後5年間で2倍程度となるよう全力で対応するとともに、日本人船員(海技者)を今後10年間で1.5倍程度という業界の目標を掲げ、全力で努力する旨の表明をしており、その実現に向けた具体的な取り組みが期待されます。また、本年3月に閣議決定された海洋基本計画においても、業界のこのような取り組みを促すこととされております。

わが国におけるトン数標準税制の概要と今後の方向性

トン数標準税制の導入により、本邦対外船舶運航事業者の国際競争条件の均衡化、日本籍船・日本人船員の計画的増加を図り、もって安定的な国際海上輸送を図ることとしています。
具体的には、本邦対外船舶運航事業者が、日本籍船の確保および日本人船員の確保・育成に係る「日本船舶・船員確保計画」を作成し、国土交通大臣の認定を受けた場合、日本籍船に係る利益について、通常の法人税に代えて、みなし利益課税を選択できる制度としています(法人住民税・法人事業税についても導入)。みなし利益の金額は、国際的な水準を踏まえて設定することとしています。また、トン数標準税制の適用対象を日本籍船とすることにより、安定的な国際海上輸送の中核となる日本籍船の増加のインセンティブが高まることが期待されます。
今般のトン数標準税制の導入は、日本が海洋国家として、本邦対外船舶運航事業者の国際競争条件の均衡化による健全な発展を通じ、核となるべき日本籍船・日本人船員を確保し、将来にわたって安定的な国際海上輸送の確保を図っていくとの政府の意志を世界に向けて明確に発信し、わが国の外航海運政策が新たな時代に踏み込んだものと考えています。
まずは、今般整備された法律・税制制度が十分に活用され、トン数標準税制の効果が発揮されることを期待するとともに、今後とも、本邦対外船舶運航事業者の国際競争力の確保や日本籍船の確保および日本人船員の育成・確保を図るため、諸外国の動向等も踏まえ、施策の充実・強化について不断に検討する必要があると考えます。(了)

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