Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第167号(2007.07.20発行)

第167号(2007.07.20 発行)

島国根性から「海人魂」へ~「海洋基本法」の成立を機に~

自民党 衆議院議員◆西村康稔(やすとし)

この4月20日に「海洋基本法」が成立した。私も自民党「海洋政策特別委員会」事務局長の立場で、
実際の条文作成に携わり、与野党間の意見調整、国会対策・法案審議の根回し等に走り回った。
この7月20日に施行され、提案者の一人としてうれしい限りである。新たに設置される総合海洋政策本部のもとに、
包括的・統一的な施策体系を構築し、戦略的な海洋政策が実施されることを期待したい。


はじめに

この4月20日に「海洋基本法」が成立した。私も自民党「海洋政策特別委員会」事務局長の立場で、実際の条文作成に携わり、与野党間の意見調整、国会対策・法案審議の根回し等に走り回った。この7月20日に施行され、提案者の一人としてうれしい限りである。新たに設置される総合海洋政策本部のもとに、包括的・統一的な施策体系を構築し、戦略的な海洋政策が実施されることを期待したい。以下、この海洋基本法の制定過程で感じたこと、考えたことを述べてみたい。

日本の未来は「海人魂」に

日本は四方を海に囲まれ、海の文化を発展させてきた。私の地元・兵庫県淡路島出身で、北前船航路を開き蝦夷との水産物交易を極めた高田屋嘉兵衛のように、ベンチャー精神「海人魂」を発揮した企業家もいる。嘉兵衛翁は後にロシアに連行されたが、日本人独特の優しさと開拓者精神で苦難を見事に乗り切った話は有名である。

しかし、一方で多くの日本人が島国根性であることもまた事実である。この点は、『海洋国家日本の構想』(高坂正堯著、1964年)にわかりやすく分析されている。すなわち、日本人は四方の海を「城を守る堀」のようにとらえ、城にこもるように島にこもり、外部との交流を最小限とする傾向がある。この極限が「鎖国」だ。ほとんどが同じ民族・文化であり、リスクが小さいからである。しかし今こそ島国根性を棄て、海を世界につながる道と見る「海人魂」を発揮すべき時ではないか。

この海洋基本法制定を機に、まさしく「海人魂」の国として、真の「海洋国家」の道を歩むべき時にきている。確かに海の外へ出て行くことは危険を伴う。しかしリスクのないところにリターンはない。リスクをきちんと分析・評価し、大きなリターンを求めて未知の地へ踏み出すことこそが、「海人魂」であり、開拓者精神である。

真の「海洋国家日本」への道

03年のベストセラー『ケータイを持ったサル』(正高信男著)には、最近の若者の行動、心理分析が詳しく描かれている。彼らは常に携帯電話を持ち歩き、頻繁なメールのやり取りを通じて、常時「誰かとつながっていないと不安でたまらない」。一人で物事を決断したり、何かにチャレンジすることができなくなっている。一方、遠い途上国で、専門分野で活躍する「海外青年協力隊」に参加する若者も多い(年間約1,700人)。この5月に訪問した南米高地ボリビアの首都ラパス、高度4,000mの土地で、子どもたちの衛生確保や教育支援、水害対策、繊維産業の振興などの分野で活躍する日本の若者たちと出会う機会があった。彼らは目を輝かせ、支援している内容や将来の夢について話していた。まさに「海人」である。海を渡り、リスクを背負いながらも、将来を見据え経験を積んでいる。頼もしい限りであった。ひょっとすると現在の若者は、内向きな島国根性と、外に目を向けた「海人魂」が混在、あるいは二極化してきているのかもしれない。

しかし、資源もエネルギーもない日本の未来は「海人魂」にしかない。果敢に挑戦し、未知の世界に飛び込む勇気こそ、日本の未来を切り拓くのである。この海洋基本法制定を機に、今一度海洋国家としての道を歩むべきである。心や目を外に開き、新しいことや見知らぬことに好奇心を持ち、何事にもチャレンジしていく。そんなベンチャー精神「海人魂」が新しい「海洋国家日本」を築くのである。

海洋基本法案の審議にあたり、提案者の一人として答弁。(2007年4月19日)

その意味で、取り組むべきことは山ほどある。まず大胆にFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を実現し、スピード感を持って人・モノ・カネの自由化を進めていくことが大事である。世界中から投資を呼び込み、世界中の人々が訪れてみたいと思う、そんなオープンな国づくりが大切である。そして、もちろん海事産業再興も必須である。わが国は輸入の99%を海上輸送に依存しているが、75年に世界の5割を占めていたわが国造船業は、05年には3割に縮小している。港のコンテナ取扱高も、私の子供の頃には、「神戸港は世界一の港」と教えられたが、今や世界の30位にも入らず、やっと東京港が21位にランクする程度で、上位はシンガポール、香港、上海などアジア各国の港に席巻されている状態である。さらに日本人の外航船員数も、95年の約55,000人から05年の約2,600人に減少している。「海洋国家日本」の名前が悲しく聞こえる。今後、トン数標準税制の導入も含めた海洋・海事産業の再興に向け、是非がんばりたいと思う。

東シナ海周辺海域を視察して

何よりも大切なことは、日本の権益の及ぶ海域において、資源の調査開発を進めることである。その前提として、国連海洋法条約をはじめ国際法上の理論武装をしっかりと進めることが大事である。

このような視点に立ち、6月18日に自民・公明の海洋政策チームは、海洋基本法施行に向けた検討の一環として、現在日中間で協議が継続している日中中間線周辺のガス田開発の現場、日本の領土である尖閣諸島など東シナ海を、海上保安庁のファルコンに乗り視察した。第一の感想は、日本が「海洋国家」として無限の可能性があることを改めて認識したことである。わが国は領土面積の12倍もの排他的経済水域(EEZ)を有し、その面積は世界6位である。領土面積は小さく資源小国だが、わが国のEEZには多量の鉱物資源が眠っており、「資源大国」ともなり得るのである。

中間線周辺の中国側には、中国は4カ所でリグを建て、うち3カ所でガス生産を行っていることがフレア(炎)により確認できた。さすがに最も中間線に近く、問題になっている白樺(中国名「春暁」)ガス田にフレアはなく、中国旗が立っていた。日中首脳間では、「東シナ海を平和・協調の海」にしようと、「より広い海域での共同開発」に合意しており、調査開発が先行する中国側からの情報提供を含む共同開発へ向けた協議が加速することを期待する。

また海洋基本法と同時に「安全水域法」(正式名称:「海洋構築物等に係る安全水域の設定等に関する法律」)が成立し、この法律に基づく「安全水域」の設定により、中間線の日本側での調査・試掘に向けた準備・検討も早急に進めていくことが大事である。今後、自民党の海洋政策特別委員会は、国際海洋法条約や、境界線確定紛争の国際司法裁判所の判例など、詳細に分析を進めて、総合的な海洋政策の立案に向け引き続き検討進めていく予定である。事務局長としてしっかりカジ取りを行ってまいりたい。

まとめとして

以上、海洋基本法施行までの過程で感じたことを書いたが、書ききれなかったことも少なくない。水産資源の確保、沿岸域の整備、幅広い環境対策、そして何よりわが国のEEZにおける権益の確保やシーレーンの安全確保の対策が喫緊の課題であり、海上保安庁・警察庁・自衛隊の有機的な連携が欠かせない。是非、これら重要な視点についても、7月に設置される海洋担当大臣のもと、総合海洋政策本部において、包括的・統一的な施策体系を構築し、戦略的な海洋政策が実施されることを期待したい。(了)

第167号(2007.07.20発行)のその他の記事

ページトップ