Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第157号(2007.02.20発行)

第157号( 2007.2.20 発行)

大陸棚外縁設定に関する国際的状況

内閣官房大陸棚調査対策室 内閣参事官◆谷 伸

海底資源に関する管轄範囲である「大陸棚」は、
地形・地質条件によっては200海里以遠に拡げることが可能である。
大陸棚の外縁の設定については、国の管轄範囲に係る重要な案件だけに
各国とも国の総力を挙げている節が伺われる。各国の状況はどうなっているのか、概括する。

1.大陸棚に関する国連海洋法条約の規定について

海の憲法「国連海洋法条約」は、領海、排他的経済水域等、海洋に関する各国の管轄権の種類と範囲を規定している。海底の天然資源に関する探査および開発の排他的権利を沿岸国が有する「大陸棚」の外縁は、領海基線から200海里までとされるが、海底の地形・地質が陸塊の自然の延長であれば200海里を超えて拡げることができる。延長条件の概要については、本ニューズレター第33号(2001年12月20日発行)※を参照されたい。

200海里を超える大陸棚の外縁については、同条約に基づいて設置されている「大陸棚の限界に関する委員会」に延長に関する情報を提出し、委員会の勧告に基づいて設定すれば拘束力を持つ。提出期限は、1999年5月13日までに条約が発効したわが国を含む129カ国(注:内陸国も含む数)については2009年5月12日、それ以降に条約が発効した国については、発効日から10年後である。

2.大陸棚の外縁設定に関する情報提出の状況

現在までに別表に示す国が「大陸棚の限界に関する委員会」に情報を提出し、ロシアのみが勧告を得ている。奇しくも上記ニューズレター第33号の発行日に委員会へ情報を提出したロシアに対しては半年後に勧告が出された。勧告では、北極海に関する延長部分については、ロシアの主張を裏付けるに足るだけのデータがないことを指摘している。これに対し、ロシアは追加調査を行い、再提出を企図していると言われている。審査の最終段階に申請国が委員会の審議に同席できるかどうかに関し、ロシアと委員会の見解が分かれ、その後数年間、この問題が議論されてきた。

2番目の情報提出国となったブラジルは、条約が想定した大西洋における大陸棚の延長で、大きな問題なく委員会での審査が進むものと思われたが、申請内容の科学的信頼性等に関する米国のクレームの扱い、審査中途でのブラジルから提出された情報内容変更の扱い等、手続き面での議論があった。また、大陸斜面脚部、海嶺等に関する条約の解釈について、議論があった。このため、勧告が発出されるのは早くても2007年3~4月になるものと言われている。

3番目に提出したオーストラリアは、条約の一言一句を外交部局・法制部局・科学者が一体となり、場合によっては等しく同文である他言語による表現も踏まえて読み解いた上で外縁を設定している。オーストラリアが提出した情報は6,000ページにも及ぶ大部なもの(これらは8部提出される。その他に大判の図100枚以上と大量の記録紙)である上に、大陸斜面脚部、海嶺等に関するオーストラリアの解釈についての議論も行われているものと考えられ、勧告が発出されるのは早くても2007年3~4月になるものと言われている。オーストラリアは、同国が領有権を主張する南極の地先についても大陸棚の延長情報を提出した上で、審査不要との口上書を提出している。これは、領土権を認めず鉱物資源活動を50年間禁止した南極条約および議定書を考慮したものであるが、一方で大陸棚の情報提出期限前に主張を提出することで条約上の条件クリアを狙ったものである。

■各国から提出された大陸棚の外縁設定に関する情報
上段左から、ブラジル、オーストラリア、アイルランド、ニュージーランド、四カ国(フランス・アイルランド・スペイン・英国)共同、ノルウェー提出情報の各表紙

4番目のアイルランドは、ノルウェー、アイスランドおよび英国と主張が重なる北部、スペイン、フランスおよび英国と主張が重なる南部を除いた、他国と主張が重ならない中部海域の大陸棚に関する情報を提出した。海域が比較的小さいこともあり、2006年9月に小委員会の勧告案が全体会合にかけられたところである。ニュージーランドはわが国同様、管轄海域内にプレート境界が存在するなど海底の地形・地質が複雑であり、このような状況についての理解を国際的に深めることを目的として以前から調査内容や解釈をホームページ上で公開していた。ニュージーランドの提出情報は、オーストラリアほどではないにせよ大部なもので、事務局を務める国連法務局海洋・海洋法課の倉庫がこの二国の資料だけで一部屋埋まってしまったという。

フランス・アイルランド・スペイン・英国の4カ国の共同による情報提出は、4番目のアイルランドの中部海域の南側に接続するもので、4カ国の友好的協力の下に、フランスIFREMERによる大量の既存データ、スペインが供出した調査船による共同調査のデータを基に情報が作成された。興味深いのは、共同にした場合、それぞれの国が個別に延長したものの合計よりも広い海域を主張できるとされているという点である。

2006年9月20日にノルウェー、アイスランドならびにデンマーク(およびフェロー諸島)の海洋境界が合意されたことを受け、同年11月27日にノルウェーの大陸棚の延長に関する情報が提出された。

2006年になり各国の申請のペースが速くなったが、この傾向は2007年においても継続するものと見られ、メキシコ、イギリス、ナイジェリアなど数カ国の情報提出が見込まれている。

3.結語

大陸棚の外縁設定については、国の管轄範囲に係る重要な案件だけに各国とも国の総力を挙げている節が伺われる。わが国も、海洋に関する初めての統括組織である大陸棚調査対策室が内閣官房に設置されている。大陸棚調査に関しては、当初「各省バラバラ」と言うマスコミのコメントも見られたが、現在では真に一致団結して期日までの情報提出に向け作業中である。このような美しい結束に応え、近年台風や大型の低気圧の通過が相次ぐにもかかわらず、この2年半、天候による調査の遅延は想定した範囲内に収まっており、当初の予定通り調査が進行中である。大陸棚調査を応援して下さっている皆さまにご参考までに申し上げれば、「フィリピンの東方海上で台風が発生」は大陸棚調査にとっては他人事ではなく、その辺りでも日本の大陸棚調査が行われているのである。

日本の海は広い。(了)

※ https://www.spf.org//jp/news/1-50/33_3.html
●講演会「大陸棚限界拡張申請-過去から現在-」(主催:海洋政策研究財団)が、平成19年3月2日に東京・虎ノ門で開催されます。

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