Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第157号(2007.02.20発行)

第157号( 2007.2.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆日本列島のまわりは海。だれもが知っていることだが、その海にはいくつもの顔があり、それぞれ名前がついている。たとえば北海道にいくと、東は太平洋、西は日本海、北はオホーツク海、南は津軽海峡。こんどは琉球列島に焦点を当てると、東は太平洋、西は東シナ海、北は大隅海峡、そして南はフィリピン海である。海の地形や深さが場所によってずいぶんとちがう事情は、陸地とおなじと考えればよい。平野、谷、急峻な山岳部、盆地など、陸地とおなじような景観が海のなかにもある。大陸棚はさしずめ大平原。

◆海の大平原の領有権問題が、ポスト国連海洋法条約の焦点となっている。どこまでが日本の領有とされうるのか? 200海里を越えてその権利を主張することができるというから、ただごとではない。谷伸さんは、各国の事例を挙げ、大陸棚調査の実情を訴える。大陸棚は自然地形に基盤をもつ海の領有権問題である。古くは、第2次大戦後の米国トルーマン大統領による大陸棚宣言をおもいだす。

◆もうひとつ、海の多様な顔は、海のさまざまな生き物にみることができる。渡り鳥もそうだが、海洋生物の移動能力には眼をみはるものがある。赤道と南北の極地の間を回遊する大型鯨類がその典型である。マグロも広域回游型の大型魚類で、昨今はその乱獲をめぐる問題で日本は矢面にたっている。多屋勝雄さんがいみじくも述べておられるように、魚は移動するため、その漁場は特定の国や企業に占有されていない。このことが乱獲につながった。海における「共有の悲劇」論はすでに1954年、H・S・ゴードンが指摘しているが、多屋さんは「だれのものでもない」海洋資源の乱獲と不合理漁獲が進行したと現状を杞憂するだけでなく、事前の監視体制の強化を主張されている。

◆バラスト水が大陸間で生物を媒介とした汚染と攪乱を起こしている現状を、田口史樹さんに解説いただいた。これを広域にまたがる海洋汚染と考えれば、バラスト水の排出規制は現代における焦眉の課題である。

◆大陸棚、乱獲の事前監視、バラスト水の排出規制。どれをとっても、国際的な取り決めと広域にわたる、人間と海洋との関わりに各国が共同で対処する必要性がよく分かる。いずれも国際協調のなかで主導性をとる目玉となるだけに、分野間の連携と法整備を急ぐ必要があるだろう。(秋道)

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