Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第14号(2001.03.05発行)

第14号(2001.03.05 発行)

海洋日本は懸念される?
~今野教授の論説に対する私見~

筑波大学大学院経営政策科学研究科博士課程2年◆合田浩之

Ship & Ocean NewsletterNO.2(2000年9月5日)掲載の今野修平大阪産業大学教授による 「懸念される海洋日本」は、海運という側面でいえば、疑問を禁じ得ないので、筆者の私見を述べる。

運航者という視点での日本海運企業の位置

今野教授は、日本への入港船舶の船籍に着眼して、太平洋の商船の主役が、アジアNIES・中国・パナマ諸国であると論じている。前二者はともかく、パナマの登録船主は、船舶の保有を目的とするだけの書類上の法人でしかない。

海上輸送を利用するという荷主にとっては、船主より運送を引き受ける運航者が重要である。この点に着目すると、アジア-北米コンテナ航路の荷動き量について例にとると、往航が、日本船社13%欧米船社34%アジア系48%となる。復航も同一傾向で日本船社14%欧米船社31%アジア系52%((財)海事産業研究所「世界の主要地域間定期船荷動量調査報告」)。貨物の仕出し国・仕向け国のシェアを考えれば、妥当な線である。

便宜置籍船の日本商船隊における位置づけ

船舶を長期安定的に利用する事は、保有する事とは限らない。

日本の海運会社は、パナマ等に船舶保有を目的とする子会社(仕組会社)を設立している。仕組会社が、造船所に発注し、船舶を保有する。日本の海運会社は、当該船舶を定期用船契約で利用する。竣工引渡し時から、退役時までの利用が想定されている。

斯様な船には、船長・機関長といった高級船員を自社から融通し、下級船員は、多くはフィリピン人を配乗している。しかも、日本の大手海運会社は、フィリピン国内に船員養成機関を設置し、自社養成で雇用している。こうした形態で支配される船舶を「仕組船」と呼び、単純な便宜置籍船と区別する。これに対応する英語がまったく存在しない。

仕組船は、民法上、所有船ではない。パナマ政府が仕組会社に対して、なんらかの主権を行使することにより、日本海運会社の利用の自由が阻害される可能性は、論理的には存在する。しかし、パナマ=日本の二国間条約の締結という対処法もあろう。

いずれにしても、現実には仕組船は、確固たる日本商船隊の一員である。

国土交通省も、邦船と外国用船を合わせて、日本商船隊として把握している。厳密には、外国用船なる概念には、仕組船の他に、実体のある欧米なり外国の海運会社からの用船という場合も含まれうるが、運航会社は日本企業である。この場合、輸出41.0%、輸入71.0%(品目別には、原油81.6%鉄鉱石88.7% 石炭94.7%穀物53.9%)が、日本商船隊の積み取り比率となる。(98年日本船主協会海運統計要覧2000)

結びにかえて

重要資源を輸入に依存する日本という認識については、否定はできない。ここから、海上輸送が、必須という論理が導かれることも理解しやすい。が、海運の担い手は、邦船・国内会社の支配船腹が望ましいという意見までが、論理的帰結とはならない。

運賃が低廉であれば、外国会社で構わないという意見も、国民の選択の所産ならしかたがない。

これには、有事に対する感覚の欠如という批判もあろうが、それは、「祖国への忠誠心・同胞愛」に対する信頼感が、「国境を越えた商業契約」遵守の精神に対するよりも強い、と吐露しているにすぎない。湾岸戦争(平成3年1月17日~2月3日)時、日本人船員の関与する船舶は、ペルシャ湾岸入域(東経52度以西)を回避した。その間、日本の生命線は、外国船員の契約遵守によって守られたことをどう考えるのか。

契約の連鎖で成立する商船隊は、関係者のいずれかの契約不履行で、機能しなくなる。しかし、いかなる契約も「約束は守らねばならない」という倫理性を基盤とし、その根底には、契約相手たる人間への信頼がある。これをどうして疑う事ができようか。(了)

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