Ocean Newsletter
第11号(2001.01.20発行)
- 九州大学応用力学研究所教授・力学シミュレーション研究センター長◆柳 哲雄
- 金沢工業大学環境システム工学科助教授◆敷田麻実
- (財)神戸国際観光コンベンション協会見本市事業部推進課長◆中西理香子
- インフォメーション
- ニューズレター編集委員会編集代表者 (横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新
海の大切さを子供たちに伝える
~ペットボトルの潜水艇が教えてくれた、海洋教育の可能性~
(財)神戸国際観光コンベンション協会見本市事業部推進課長◆中西理香子海の教育については、体系的なシステム構築が必要とされているが、まずは手近なこと、簡単なことから、すぐにでも取り組んでいくことが大切ではなかろうか。
海の大切さをどのように子供たちに伝えていくべきか
昨年11月に開催した国際コンベンション「テクノ・オーシャン」では、初の試みとして青少年向け事業に取り組んだ。企画を進める中で海の教育について考えたことを述べたい。
当初、教育現場の先生方とタイアップして事業ができればと思い、協力をお願いにあがった。事業の趣旨は理解いただいたのだが、そこで話が止まってしまった。理由は、「授業の中で海を総合的に教えるカリキュラムや機会がない」、「自分も海のことをほとんど知らないので、中途半端な知識で子供に教えられない」等。
わが身を振り返っても、子供時代、海について、学校でも家庭でも学んだ記憶がなく、日常的に海と遊び、慣れ親しんだ経験もない。海はどんどん私たちから遠い存在になっていて、海の大切さを日常的に伝える文化やシステムが、今の日本では失われているのでないか、と思いをめぐらせた。
確かに海の教育は難しい。「海」と一言でいっても関連分野は幅広く、オールラウンドに理解することは至難の業だ。先生が個々奮闘して情報を集め、知識を深め、子供たちに教えるテーマとしては、かなりやっかいなものだろう。では、学校教育にすべてを委ねるのではなく、社会教育と両輪で、今後どのように教育システムをつくっていけばいいのだろうか。
まずは、学校の先生に海への関心を持ってもらい、情報収集や教材づくりがスムーズに進むようサポートすること。子供たちには、感動を覚える体験の場を提供し、素朴な疑問に答えていくこと。これら両面に、まずは取り組む必要があるのではないか。そのためには、海の専門家と教育の専門家とのパートナーシップが大切であるが、海の教育においてはやはり、海の専門家の側における理解と参画がどうしても必要不可欠であろう。
夢と感動を、わかりやすく、温かく、身近なところから

さて、今回の「テクノ・オーシャン」青少年向け事業から、二つの出来事をご紹介したい。
第一に、高校生向け海洋科学技術セミナー。工業高校の生徒約500名に、海洋科学技術センターの「しんかい6500」の元パイロット・田代省三氏からお話をいただいた。田代氏が地元の神戸商船大卒ということもあり、「身近な先輩の話」として耳を傾けたことだろう。未知の世界である深海の映像や、データに基づいたわかりやすく熱心な話ぶりに、最初はざわついていた高校生たちもいつしか引き込まれ、皆、真剣に聞き入っていた。中身と伝え方次第で、若い世代の興味や感動を引き出す可能性は十二分にあると感動を覚えながら確信した。
もうひとつは、科学実験教室終了後に、小2の女の子から当日の指導教官宛てに届いたeメール。この科学実験教室は、大阪府立大の協力で先生や学生さんが指導にあたり、ペットボトルを使って潜水艇を工作し船の浮き沈みの原理をわかりやすく教える、というものであった。そのメールの中で、実験装置に関する素朴な質問のあと、「はかせがせつめいしているいみはわからなかったけど、じっけんをやってみたらだいたいわかりました」と頼もしい一文。科学者の卵は、こうして温かく育てていく環境づくりから生まれるのだ、と実感した。
こういうやりとりに触れていると、海の教育について体系的なシステム構築が必要とされる一方で、まずは手近なこと、簡単なことから、すぐにでも取り組んでいくことの大切さをひしひしと感じさせられた。われわれも今後、イベントを通して海の教育に取り組みたいが、その際に、温かい視点、幅広い視点からのアプローチ、そしてなによりも地道な努力を忘れないようにしたい。
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- 編集後記 ニューズレター編集代表 (横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新