Ocean Newsletter
第115号(2005.05.20発行)
- 文部科学省科学技術・学術政策局長◆有本建男
- 長崎大学名誉教授◆田北 徹
- 衆議院議員◆長安たかし
- (株)渋谷潜水工業◆田中藤八郎
- ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌
読者からの投稿 2 造船業界はマリンコントラクターへの参入を
~メガフロート空港実現に向けて~
(株)渋谷潜水工業◆田中藤八郎羽田拡張事業をめぐり、メガフロート方式の空港は世界でも例がないとして注目されていたが、結局、実現することはなかった。わが国の造船業界は、造船だけなら世界の頂点といえるが、将来、新たな「海洋産業」を生み出すためにはコントラクターとしてふさわしい業界の見直しも必要ではなかろうか。
羽田空港再拡張工法
2001年12月19日、国土交通省は「羽田空港の再拡張に関する基本的考え方」を発表し、現滑走路と平行に新滑走路を設けることを決定した。その具体的な建設方法をめぐって政府レベルで審議する「羽田空港再拡張工法評価選定会議」が設けられ、「浮体(メガフロート)方式」、「埋立方式」、「埋立・桟橋ハイブリッド方式」の3工法について、1、安全(空港機能としての安全性、地震に対する安全性)、2、工事期間、3、コストなど、総合的観点から本格的な検討が行われてきた。
メガフロート空港応札断念
ところが、2004年8月に締め切られた同滑走路の埋め立て工事の応札では、結局、応札したのはゼネコン連合-グループによる「ハイブリッド方式」のみであった。これまでは、この他に「桟橋方式」と造船を中心とする各社連合による超大型の浮体構造物「メガフロート方式」の3つが応札すると見られていた。とりわけメガフロート方式は世界でも初めての方式として注目されていた。だが結局、建設業界関係者によると「この連合には肝心の工事を請け負う建設会社が付かなかった」ことが応札断念の大きな要因となった。メガフロートや超大型の海洋構造物の建造は、基本計画、基本設計から詳細設計、調達(製作・加工・建造)、施工(現場据付)や試運転に至る一貫したトータルエンジニアリング体制の下で完遂できる。この業務の中で造船業界は基本設計、詳細設計、製作・加工・建造などの調達分野では世界でも最高のレベルである。しかしこれでは所詮は超巨大なファブリケーター(加工製作会社)に過ぎない。大型作業船を独自で保有しているわけでもなく、外洋での工事は経験がないので、施工分野に至ってはまったく素人の集団である。
メガフロートのような大型プロジェクトは、そのほとんどが官主導の公共事業であり、海洋空間利用が多い。となれば今回のように設計、建造、施工を一元的に発注し、事故時の責任が明確ないわゆるフルターンキーベースでの契約が普及すると、自前で施工を請け負う部門のない造船業界単独では応札に参加することができなかったということである。幸い造船業界の好況時の応札断念ですんだことは不幸中の幸いであったかもしれないが。
造船業界への提言
造船業界は、今回の応札見送りを契機に、不況時に備えて早急に自社かグループ内にゼネコンというかマリンコントラクターを育成されることを提唱したい。わが国の造船業界は、「造船大国」であるが決して「海洋産業大国」ではない気がしてならない。今後、メガフロートをはじめとする超巨大な海洋構造物、海洋架橋、ジャケット式海洋構造物※1やテンション・レグ・プラットフォーム※2等に取り組んでいくためには、世界的なマリンコントラクターへと指向しなければ、国内はもちろん海外でもメガフロート空港はいつまでたっても造船業界にとっては高嶺の花となるだろう。(了)
※1 ジャケット式海洋構造物=主として海底石油・ガス開発用海上プラットフォームの下部構造物として開発、建設されてきた。ジャケット構造とは、工場製作される鋼管を斜材、水平材で結合した鋼管立体トラス構造物をさし、これを鋼管杭で海底に固定する構造形式で、鋼管トラスにより剛性が高まる。ジャケット本体は、主要な鋼構造部分を工場製作し、大型のブロックを一括で架設できるため、高品質の確保と、現地工期の短縮が可能である。
※2 テンション・レグ・プラットフォーム=大水深海域用の生産プラットフォームの一種で、生産設備を搭載した半潜水型プラットフォームを海底の固定基礎と結んだ数本のテンション・レグ(鋼製パイプまたはロープ)により固定する。
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