◆干潟は不思議な場所だ。潮の干満により、海が陸に、陸が海になる。潮が満ちると、魚が浅瀬にやってくる。海面を飛び跳ねるボラを漁師の目が追う。潮が引くとカニが穴から這い出し、貝が水を吹き出す。水鳥がそのカニや貝を餌とするためせわしげに動き回る。人間も干潟の貝やカニ、シャコを求めて潮干狩りに精を出す。干潟に出現する生き物がたがいに関わりをもって生きていることを知る時、海の豊かさと奥深さを実感する。
◆田北氏が指摘するように、諫早湾の干拓事業の背景に、陸地を優先し海を軽視する発想がなかったか。人間は橋や道路はつくれても、小さな貝やカニさえつくることができないことをあらためて知るべきだろう。
◆一方、人間は自らの利便性と経済発展のために干潟を埋め立ててきた。東京湾では広大な干潟が消失した羽田の海に、日本の空の基幹となる羽田空港が出現した。今から74年前のことである。そしていま、羽田空港の再拡張事業が計画され、世界で最初の浮体工法(メガフロート)案が浮上したが、結果として埋め立て工法しかノウハウをもたないゼネコン業界が画期的なこの案を無視することとなった。メガフロート工法は、海を埋め立ててきた人間の長い歴史のなかで見ると革命的というほかはない。技術立国の日本が今後なすべき国家戦略とは何かを考える契機になればと思う。
◆国家による戦略を科学技術政策の問題として取り上げたのが有本氏による第3期の科学技術基本計画である。海洋への政策は日本の場合、かならずしも十分ではないだけに、氏の指摘は重い。もちろん、海への科学技術が人間や生き物を無視したものであってはなるまい。昨今のJR福知山線の惨事をみても、いのちと安全を優先する技術の確立がもっとも大切ではないか。営利を優先するための技術はもういらない。(了)
Page Top