Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第102号(2004.11.05発行)

第102号(2004.11.05 発行)

読者からの投稿
日本籍船と日本人船員のナショナル・ミニマムを確保せよ

元船長◆矢嶋三策

太平洋戦争におけるわが国の敗戦は、海上輸送を軽視したためである。
わが国が無資源国であることにいまも変わりはない。
海上輸送はわが国にとって生命線であり、国は万一に備えて最小限必要な日本籍船と日本人船員を確保する政策を実施すべきである。

半世紀前の太平洋戦争で、私は米国潜水艦の魚雷に追われ、航空機の爆撃で船を沈められ、ついには乗る船もなくなり、機銃掃射で穴だらけになった880トンの戦時標準船を修理している最中、昭和20年8月15日、鳥取県の境港で敗戦を迎えた。その日の空の深く青かったことを今も忘れることができない。これでやっと安心して航海ができると思うと嬉しかった。

船と人を失って敗れた日本

この戦争で日本が失った船は約2,400隻約850万総トンであり船員は約6万人が戦死した。戦死率は約43%で陸軍の20%海軍の15%を上回った。戦わずして船と共に南の海に生命を失った将兵は約30万人という。一方、米国の喪失船舶は98隻約52万総トンで船員の戦死者は約700人と聞いている。

何故日米にこれだけの差が生じたのであろうか。一言でいえば米国は海上輸送が勝敗を決するための重要な要素と考えたのに対し、日本はこれを軽視したということであろう。石油の7割から8割を米国から輸入していた日本は、開戦と同時にボルネオ等の油田を占領したが、日本へ輸送するタンカー47隻全部沈められ、石油のない日本となって一路敗戦への道を歩んでしまった。

海上輸送は日本人にとってVITALなもの

片道航海だけの燃料を持たされて出撃した戦艦大和の姿は思うだけでも哀れである。太平洋戦争は無資源国の日本が海上輸送を軽視して輸送船を沈められて負けたのだといっても過言ではなかろう。原爆はトドメをさされたに過ぎない。日本の将兵が弱かったのではない。海上輸送がVITALなものであることを忘れていたのである。

翻って現在の日本はどうであろうか。石油など無資源国であることには変わりなく、外航船の約95%が外国籍船であり、乗組船員の約95%が外国人である。(平成16年海事レポートによれば、平成15年外航船1,873隻のうち、日本籍船103隻、日本人船員3,336人(予備員を含む))日本籍船も日本人船員も世界的な経済戦争である市場原理の前に敗退してしまったということであろう。このような状態で日本の国や国民への国家的安全保障は大丈夫なのであろうか。日本外航海運の将来は大丈夫なのであろうか。

ナショナル・ミニマムは国民の命を守る保険

1億2,000万人の日本人の社会や生活は約3万人のフィリピン人船員を中心とする外国人船員の手に委ねられており、自分達の生死をかける大切なカード(エネルギー、食料、生産資材等の輸送)を全部外国人に渡してしまって大丈夫なのであろうか。すべての日本人はその現実をはっきり知らねばならない。

この不安をなくすため、国は万一に備えて最小限必要な日本籍船と日本人船員のナショナル・ミニマムを確保する政策を実施すべきである。

日本の国益と外国人船員の国の国益とが一致せぬ事態が万一起こっても、最小限必要なものは自前で運べる体制を国の責任として備えるべきであり、これは国が国民生存のためにかける一種の保険のようなものであると思う。隣国の韓国を含め主要海運国で効果のあるこの保険をかけていないのは日本だけであろう。

国のリーダーは無資源なる貿易立国日本にとって、海上輸送はVITALなものであることを忘れず、この前の戦争のような愚を再び犯さぬことをold salt (年老いた船乗り)は心から願ってやまないのである。(了)

第102号(2004.11.05発行)のその他の記事

Page Top