Ocean Newsletter
第102号(2004.11.05発行)
- ユニタール アジア太平洋地域広島事務所プログラムオフィサー◆中山宏子
- (財)日本造船技術センター海洋技術部長◆丸山秀樹
- 元船長◆矢嶋三策
- ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男
ユニタールと海
ユニタール アジア太平洋地域広島事務所プログラムオフィサー◆中山宏子国連訓練調査研究所ユニタールは、国際の平和と安全、また経済的・社会的発展の分野で、主に途上国の国家公務員、学識者、市民社会の代表者などにたいして研修を行っている。
ユニタール広島事務所は、スイス・ジュネーブの本部、米・ニューヨークに続く第3の拠点として2003年7月に開設され、アジア・太平洋地域の50カ国以上をカバーする。
アジア太平洋に向けた「海と人間の安全保障」プロジェクトでは、海の持続可能な管理と利用のための知識と技術を広めてゆくことを目指している。
ユニタールとは何か
ユニタールは国連訓練調査研究所(UNITAR:United Nations Institute for Training and Research)の略称であり、その任務は国際の平和と安全、経済的・社会的発展の分野で、主に途上国の国家公務員、学識者、市民社会の代表者などにたいして研修を行うことです。ユニタール全体で年間150回の研修活動が行われ、研修を受けた人数は年間で7,800人に達します。
広島事務所は昨年の2003年7月に開設され、現在までに6回の研修活動を行い、約300名の外国人研修生らが広島を訪れました。
ユニタールが考える海洋開発の方向性
海は生物の発生時からその生存を見守り、人類にとってもその発展を映す鏡であり、ものさしでした。太古の昔から、海は恐れられる一方で、新しい機会、自由の象徴でした。海があればこそ人は航海し、貿易し、遠く離れた地域間や大陸間での交流をはじめることができたのであり、人類の技術や文化の発展は、海を媒介とした人と物資の大々的な交流・貿易を通じて実現したのです。人の移動はこの50年間に航空機に取って代わられたとはいえ、海洋貿易の取り扱い容量は今日においても世界全体の90%以上を占めています。
豊潤の海。海はまた生物・非生物資源の重要な供給源でもあります。生命が海で生まれたことはさておき、海の供給する資源の膨大さは驚くほどであり、またその未確認部分の大きさにも感嘆します。人類は海洋の生物資源の数百種類以上を食料として摂取しているといわれ、とくに島嶼国や沿岸諸国においては漁業資源が国民の主要な蛋白源となっています。また非生物資源に関しても、海は石油、天然ガス、マンガン鉱などの鉱物・エネルギー資源を埋蔵するほか、海自体は交通・通信・パイプラインなどのインフラストラクチャー、娯楽や雇用機会、癒しや精神的満足など、人類にとり多大なサービスを提供する寛大な母体でもあるのです。
一方、海は悩める地球環境を反映するバロメーターでもあります。日本や他の国々で起こった悲劇的な公害病、陸上および船舶からの汚染、人口の集中や埋め立てによる沿岸地域の荒廃、近年観測されている海面上昇の問題、さらには領海の線引きや資源の取り合いによる紛争など、海は人類の活動を助けながらもその限界を示し、開発・利用と保全・現状維持の微妙なバランスの必要性-まさしく「持続可能な発展」の目指す方向性を身をもって教えてくれるような気がします。
ユニタールの研修方法

教育や人材能力開発に関わるものとして、ユニタールの仕事は世界の国々における社会的発展のための種を撒くことと考えています。広島事務所では、一歩一歩、着実に前進することを目指して、研修事業の効果を少しでも高めるためにさまざまな工夫をしています。訓練方法論の研究・開発はその中で最も重点を置いているものです。専門家養成プロジェクト(Training of Trainers, ToT)によってユニタールは将来の指導者や教育者に対して研修の場を提供し、彼らが自国でプロジェクトを開始する手助けをしています。国連機関、国家機関または民間機関やNGOとパートナーシップを結ぶことによってこれらの機関の活動との相乗効果を目指し、また分野別に分担して仕事を補完するようにしています。

ユニタールは国連加盟国の政府職員を対象にしたトレーニングを行っているので高度に技術的な研修は行うことができません。しかし、政府や民間機関が行っている技術研修の導入部分を担当することはできますし、またユニタール研修に参加した政府職員とそれらの機関との橋渡しをすることによって、ある国の必要とする分野またレベルの研修を共同で企画することができます。国連及び国際レベルの専門家がユニタールの研修事業やプロジェクトに参加したり、また助言を与えたりしています。
海と人間の安全保障プロジェクト
ユニタール広島事務所の主要なプロジェクトの一つである「海洋と人間の安全保障」は、2002年3月の国際会議に始まり、今年で2年目を迎えました。海洋の環境保全と資源の有効利用はまさに「人間の安全保障」※1に関わる問題であり、国際社会の努力を呼びかけるに値し、また国際社会での一貫した努力を可能にするため、ユニタールで研修事業を行うにふさわしいトピックであるとの認識を新たにする毎日です。
「海洋と人間の安全保障」は長期的プロジェクトですが、2002年の国際会議を受け、この7月(2004年)に行われた国際研修ワークショップでは以下のようなトピックが話し合われました。
- 海洋政策
- 開発と保全のバランス
- 沿岸地域の管理
- 港湾と開発
- 海洋環境保護とアセスメント
また同時に、研修生の優秀なものから将来の「専門家」となる候補者が選ばれました。彼らは今後ユニタールとその専門家集団・パートナーの指導(専門分野、訓練方法論、プロジェクト立案、資金調達法などを含む)を受けながら国別ワークショップを企画・立案し、2005年には最高3つのワークショップがアジアの各地で開催される予定です。
海洋は人類の共同遺産であり、人類全体で保護してゆかなければならないものですが、同時に個人一人一人の利益になるようにうまく活用しなければならないものでもあります。この意味で国の代表者たちを通して海の管理と利用のための知識と技術(ノウハウ)を広めてゆくこと、また彼ら自身の力で国の能力を開発してゆくこと(いわゆるエンパワーメント)が重要であると私たちは考えます。(了)
※1 1990年代より唱えられた概念で国家間の安全保障ではなく人間(個人)または人類の広義の安全に焦点を置く。
● ユニタールはすべて自発的パートナーシップまたは拠出金でまかなわれておりますので共同プロジェクト案、資金提供、またユニタール研修生受け入れの案などありましたらご連絡ください。
問い合わせ先:
国連訓練調査研究所(ユニタール)アジア太平洋地域広島事務所
住所=〒730-0011 広島県広島市中区基町 5-44 広島商工会議所ビル5階
ホームページ= http://www.unitar.org/hiroshima/jp/
Eメール= hiroshima@unitar.org
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