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オーシャンニューズレター

第321号(2013.12.20発行)

第321号(2013.12.20 発行)

PNLGフォーラム2013の開催と沿岸域の総合的管理(ICM)の推進

[KEYWORDS]志摩市/PNLGフォーラム/沿岸域総合管理(ICM)
志摩市農林水産部長◆前田周作

新しい里海創生によるまちづくりは、沿岸域の総合的管理(ICM)の実践を通じて地域の活性化を図る取り組みである。
志摩市は、ICMを実践する自治体のネットワークであるPNLGに日本で初めて加盟し、今年度のフォーラムを誘致して9月30日から10月2日まで市内で開催した。さまざまな課題もあるが、自然環境の保全や持続可能な暮らしや産業振興を図っていくうえで、ICMが有効なツールであることを再確認した。

志摩市のICMの現状

志摩市では「志摩市総合計画後期基本計画」(平成23年~27年)において、沿岸域の自然環境と人が共生する「新しい里海創生によるまちづくり」に取り組むこととし、平成24年3月に志摩市里海創生基本計画(志摩市沿岸域総合管理基本計画)を策定し、沿岸域の総合的管理(ICM)の実践による沿岸域の自然環境保全と地域の活性化を図っています。
ICMは沿岸域の地理的、社会的特徴を踏まえ、地域が主体となって取り組みを進めることが必要であり、志摩市では、行政や自治会、産業関係団体等からなる志摩市里海創生推進協議会を設置して、取り組みの方向性について調整を行っていますが、行政の部局間連携や利害関係者間の調整、科学的な根拠等に基づいた成果の評価など、これまで地方自治体ではあまり経験のない事務作業も多いことから、新しい知見の取得や合意形成に向けた関係者の意識の醸成が必要です。また、実際に事業を進めるための資金をどのように確保して行くかなど、協議会の運営を円滑に進め、新しい里海創生によるまちづくりの成果を挙げていくためには、解決すべき課題が多く残されています。

PNLGフォーラム2013を主催

■多数の参加者が集まったPNLGフォーラム

■志摩市視察の模様

そのようななか志摩市では、東アジア諸国において、ICMに取り組んでいる自治体のネットワークであるPEMSEA Network of Local Governments (PNLG)に加盟して、ICMの推進に関するノウハウを会得するとともに、志摩市の取り組みを海外に発信することにより、市の全域が伊勢志摩国立公園に包含されている志摩市の地域資源の素晴らしさを伝え、海外からの誘客を図っていくこととしました。そしていささか性急ではありますが、PNLGへの加盟と同時にPNLGの定期大会であるPNLGフォーラム2013の開催を志摩市として誘致することとし、フォーラムの開催に向けた準備を進めてきました。
これまで国際的な会議の開催経験が全くない志摩市としては、事務局との英語での連絡など、日々悪戦苦闘の連続でしたが、フォーラムの共催者である海洋政策研究財団の支援もあり、PNLGの執行委員会において志摩市の加盟が承認されるとともに、PNLGフォーラム2013の志摩市開催が決定し、2013年9月30日から10月2日まで、志摩市の合歓の郷ホテル&リゾートを会場にPNLGフォーラム2013を開催しました。
フォーラムにはPNLGの会員自治体や加盟を検討している自治体等、11カ国から164名の参加があり、志摩市のICMが、自然の恵みの持続的な活用を目的としていることを踏まえて、「沿岸域の総合的管理を通じた生物多様性愛知目標の達成と新しい里海の創生、地域の活性化」をテーマに開催され、PNLGの定期総会と技術ワークショップ、現地視察などが行われました。総会や技術ワークショップの概要は、海洋政策研究財団の映像ブログ「海を活かしたまちづくり」(http://blog.canpan.info/oprficm/)などで紹介されているので、ご覧いただければ幸いです。

成果と課題

■PNLGフォーラム2013のパネルディスカッションの様子

志摩市としては、今回のフォーラムの開催を通じて実に多くの学ぶべき点があったと思います。 まず、技術ワークショップのパネルディスカッションでは、パネリストとして参加した志摩市長から志摩市がICMに取り組むこととなった経緯などについて報告しましたが、「どのように市民や議会の理解を得たのか」といった質問があり、どの自治体においても理想の地域像や取り組みの方向性に関する合意形成がICMを進める上で重要な鍵となっており、同時に大きな課題でもあるということを実感しました。現在、志摩市里海創生推進協議会では、こうした合意形成にまだまだ時間が必要だと思いますが、実施可能な取り組みなどを並行して進めながら、地域の合意形成に向けて啓発に取り組んでいくことが重要であると思います。
また、PNLGの取り組みが東アジア海域の持続可能な開発戦略(SDS-SEA)と連動して非常に戦略的に取り組みが進められているということを改めて認識しました。日本の自治体でも自治体ごとに総合計画を作成し、長期的な計画に基づいて事務事業を進めることになっています。冒頭でも述べましたが、志摩市でも総合計画の後期基本計画にICMの推進を位置付け、基本計画を策定するという流れで進めてきましたが、日々現場の対応に追われる基礎的自治体である市町村では、ともすればこうした流れを忘れがちになっているのではないかと反省するとともに、自治体職員だけでなく、住民や関係団体、事業者のみなさんと理念を共有していくことが地域としてICMを継続して行くために重要であることを改めて認識しました。
その他にも、ICMを継続して行くために必要となる法的制度など全ての会員に共通する問題をはじめ、自然災害対策が重要な課題であることや法的規制が徹底できないといった地域ごとの課題についても白熱した議論が展開されました。これらの内容も志摩市に共通する課題が多く、今後の取り組みを検討する上で非常に参考になるものでした。
実際にICMを進めてみると、関係者の理解を得るにはどうすればよいか、具体的な成果がなかなか得られない、といった課題に直面し、行き詰ることが多いのが現状です。しかし今回のフォーラムでは、ICMがさまざまな民族や文化を超えて広く海外で実践されており、これまでPNLGの会員の中で、実践を断念した事例はない、という話がありました。志摩市の豊かな生物多様性と生物生産性から生み出される自然の恵みをしっかりと保全し、その恵みを有効に活用した持続可能な産業振興を図っていくために、ICMが有効なツールであるということを再確認するとともにこれからもPNLG会員や国内で同じ取り組みを進めている自治体と情報を共有しながら、推進して行くことが、関係者のモチベーションを維持して行く上でも重要だと感じました。

おわりに

最後になりましたが、今回のフォーラム開催は志摩市だけでなく国内の自治体や国の関係者にインパクトを与えただけでなく多くの学ぶべき点を浮き彫りにしてくれたと思います。私たちにこのような機会を与えていただいたPNLG、PEMSEA、海洋政策研究財団、そしてサポートいただきました国土交通省を始めとする行政機関やスタッフのみなさんに改めて御礼を申し上げます。(了)

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