Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第321号(2013.12.20発行)

第321号(2013.12.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆悲喜こもごもの出来事が駆け抜けた平成25年もあますところ10日となった。今年、夏の猛暑とゲリラ豪雨、台風被害など自然の猛威が列島を席巻した。小笠原諸島の海底噴火による新島誕生は環太平洋造山帯にある列島の地史的位置を再認識させた。
◆このまま平成25年が終わるのかと考えていた矢先、11月23日に中国国防省が石垣島沖の尖閣列島をふくむ東シナ海の上空で防空識別圏(ADIZ)を設定した旨の報道が飛び込んできた。海域では領海12海里、200海里排他的経済水域、接続水域などが定められており、今年、尖閣列島で頻発した中国船による領海侵犯にたいしてそれなりの対応もなされてきた。しかし、中国は東シナ海上空に設定した空域に侵入する航空機があれば戦闘機が防空目的に緊急発進し、中国軍の指示に従わない航空機に対応するため防衛的な緊急措置を講じるとして、一方的に空域について領域的主張をしている。海では国際法上、問題ありと認めたのか、空を平然と自国の防空域化する「挑発」行為に打って出たわけである。こうした一方的な主張は慎むべきである。
◆海洋政策研究財団の長尾 賢氏は、中国の海洋を通じた拡大主義と米国のアジアにおける影響力の低下をふまえ、インドに着目すべきとの論を提起されている。東アジアは古代より南の東南アジアを経由してインドとつながってきた。西洋やアラブ世界の情報や文物はインド経由で東・東南アジアにもたらされた。インド由来の仏教や文化が日本まで広まったことはいうまでもない。インドが脚光を浴びるのは、東南アジアへも拡張主義をすすめる中国へのけん制となる一大パワーであり、インド・東南アジアとの歴史的、経済的に深い関係をもつことからも明白である。日本人は油分の多いチャーハンよりもスパイスの効いたカレーを食べて目を覚ますべき時なのだ。
◆海洋産業で中国と韓国が目覚ましい発展中にある現状で、わが国の造船業界を冷静に見直すことが必要だ。大阪大学名誉教授の内藤林氏は、日本が独自に進めてきた造船業界における研究開発(内藤氏のいうSR方式)を中国や韓国が模倣・応用した結果が、今日の躍進に結びついている、とする見方は注目すべきだ。SR方式を事実上、捨てた日本の業界の体質も精査すべきだろう。今後日本は世界の頂点にあった時代の夢を捨て、新たな取り組みを目指すべきことに賛同したい。
◆日本人は新しいことをやることにいささか下手な国民かもしれない。その一方、優れた伝統をも捨て去ることに躊躇しなくなったとすれば、この先、国際競争のなかで独自の展開を進める上で大きな障害となる。今年、志摩市は沿岸域の総合的管理に関する国際フォーラムを自治体として主催した。海の問題をめぐる取り組みは、従来型の縦割り行政の対応や経験知だけでは到底乗り切れない。その意味で、志摩市におけるフォーラム成功を心から祝福したい。これで平成26年元旦の初夢はきまりだ。「夢の海」時代に向けてともに頑張りましょう。(秋道)

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